e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

稽古場ご用達の和菓子

11月27

kuriko 京都に長年住んでいても、知らない和菓子屋さんはまだまだたくさんあるもので、今回は紅葉の名所である東福寺や泉涌寺に程近い、「京菓子処 末廣屋」をご紹介します。

昔から神社の門前には、参拝客の一服に重宝されてきた「お饅やさん」がつきものですが、ここのお菓子は、泉涌寺の塔頭での煎茶道教室で使われていると聞いたのが出逢いのきっかけでした。
きめ細やかに裏漉しされたほくほくの、密度の濃い栗の餡が、羊羹のベールを纏っている、秋ならではの味覚。
ここに芥子粒の袴でも穿かせようもんなら一気にカジュアルな栗菓子になるところですが、そうしないで一見松露に似た風情を醸しているのが京都の菓子舗らしい。
でも名前は「くりこ」。なんとも気負いの無い、可愛らしい響きに拍子抜けしました。

ケーキもクッキーも大好きだけど、なんだか身体が和菓子を欲している時ってありませんか?
改まった茶席の主菓子では高価過ぎて勿体無いし、スーパーやコンビニの定量生産系和菓子だと物足りないと感じるとき、「お茶の稽古場ご用達」な和菓子屋さんが、そんな気分を満たしてくれる気がします。

2017年11月27日 | お店, グルメ | No Comments »

生命を写し取る

11月21

CF06A51E-1203-464F-BD9E-3F71B61B7B1F 賀茂社資料館「秀穂舎」では、学問所であった社家建築の解説と共に、「光りと游ぶ」展として、写真家・井上隆雄氏が晩年に毎日の様に通って撮り溜めていたという糺ノ森の写真を中心に展示されています。
聞いた話によると、井上氏がかつて病気で倒れ、生死を彷徨っている間に、夢の中で下鴨神社の宮司さんに呼び止められ、生還された体験があるそうです(後日に宮司さんにその話をした時、宮司さん側は特に身に覚えが無かったそうですが)。
この紅葉の盛り、カメラを手に痛感している 人は多いと思いますが、美しいものを感じたまま写し取るのはとても難しいもの。
光量や露出の調整といった技術的な経験だけでなく、何かをキャッチするまで対象を見つめ続ける体力や気迫、感度が違うのは言うまでもありません。
泉川に浸る紅葉、幾重にも重なった落ち葉、それらの感触や音、温度までも、自らの手に刻まれた記憶が呼び覚まされます。
私達が実際に歩いて観てきた森の景色と、車椅子に座った位置からレンズ越しに観る景色もまた、違って見えるのでしょうか。

国の宝。本物に触れる

11月13

kyohaku国宝展ねえ。文化の首都の京都人やしぃ、普段から個別に観て来たから今さら…。」とナニ様みたいな態度で構えておりましたが、ある日の夕方に急遽外出する事になり、「この時間なら入口は空いてるか、いやいや、観るには時間が足りないか!?」と迷いながらも、結局は京都国立博物館の閉館時間の約一時間前に到着しました。
さすがに待ち時間は0分ですぐに入場できましたが、果たして閉館までの間に全てを鑑賞して回れるのか!?無謀な賭けに挑む事に。
Ⅲ期(~11月12日)の目玉の金印は列ができていたので後から観る事にしましたが、どうしても最前列で間近に観たいという人で無ければ、手の届く距離で並ばずに観る事ができました。ただし、一辺わずか2.3cmと非常に小さく眩しく輝く「最小の国宝」のため、彫られた字を読むのはちょっと難しかったかもしれません。
限られた時間なので、これまでに各寺社や展覧会で観た事のある国宝は後回しにして二階に降り、個人的にお目当てにしていた「伝源頼朝」ほか三幅(神護寺蔵)をまずは拝見。何度も教科書で見て来た作品とはいえ、まるで本人が目の前に座っている様な迫力は、やはり実物と対峙してこその醍醐味です。
美術館に足を運ばずともインターネット経由で美術品を鑑賞できる時代ではありますが、そういう世代に育つ世代の子供達にこそ、本物が放つ存在感を感じ取る機会を持たせ、「想像してたより大きい!」「このお経、一度も書き間違えた跡は無いの?」と驚いたり、「どうしてこんな地味な物に人だかりができてるの?」と不思議に思ったりしながら、それらが何故「国の宝」としてどの様な工夫で世代を越えて大事に守られてきたのかを一緒に考えたいものですね。
二階から三階、一階へと変則的に早歩きで移動しながら、一時間でも意外に十分楽しむ事ができました。
もちろん、一時間以上のゆとりを持って鑑賞するに越した事はないのですが、「国宝展観たいけど、行列できるし人多いし…。」と躊躇している人がいたら、「ぜひ観たいもの」を幾つか決めておいて、少し遅めの時間帯でお試しください。
入場券は、パソコンやスマートフォン経由でも予め購入する事ができます。

2017年11月13日 | 芸能・アート | No Comments »

行列のできるお宮さん

11月6

miyake 子供の守り神、癇の虫封じで知られる三宅八幡宮は、こぢんまりとしたお宮でした。
近所の方かとおぼしき親子連れが一組、七五三をお祝いされていて、その親子の楽しそうな会話だけが響く静けさも、また良いものでした。
かつては参拝者が絶えない程の賑わいだったといい、その圧巻の行列の数々は檜の香り漂う「絵馬展示資料館」で伺い知る事ができるので、ぜひ見て頂きたいと思います。
幕末から明治にかけて奉納され、境内のあちこちに掲げられていた絵馬ですが、新しい絵馬が納められると、古い絵馬は奥に飾られていたために状態が良く、また当時の人々の髪形や子供達の遊びなど、風俗を知る上で貴重な資料になるという事で、ここに展示される事になったのです。
気軽に外出することができなかった時代の女性にとって、寺社巡りは良いレクリエーションの口実にもなったそうで、鯖街道の拠点でもある出町柳辺りで集合し、30分程かけて三宅八幡まで集団で歩き、散策を楽しみながらお参りしていたようです。一枚の絵馬の中に書き込まれたおびただしい人の数は、最大で大人109人子供630人の、なんと計739人。
絵馬には、京都を中心に活躍した七宝作家・並河靖之氏の4代前の祖先も描かれ、また京阪奈神のどの地域からの集団が列を成しているのか、具体的な住所や個人名まで判明しているものも多いので、京都に長く住んでいる人が見ると、ひょっとしたらご先祖様を発見する可能性もありそうです。

京都のロシア、京都のラオス

10月31

yulala 京都を何度も訪れている人にとって、京料理やおばんざいは今更…という人もいるかもしれませんね。ならば、ロシア料理やラオス料理という選択はいかがでしょうか。
前者は、京都府立植物園の向かい、北山大橋東詰にある「カフェ ヨージク」。
「ロシアランチ」の他、ビーフストロガノフ等お馴染みのロシア料理があり、ビーツや野菜の旨みが優しく溶け込んだボルシチや手作りのベリージャムを添えたロシアンティーのロマンチックな赤は、日本食とはまた異なる華やかさがあり、マトリョーシカ柄の雑貨もカラフルで元気をもらえそう。
香ばしく揚げられた、挽肉、きのこ、りんごの3種の味のピロシキは、持ち帰りもできます。定期的にイベントも開催されているそうで、ひと時の異文化体験をしたい人はぜひ。
後者は、柳馬場仏光寺を下がった職人さん達の町の中にある「ユララ」。
「ラオス料理って、一体どんなん!?」と思う人も多いでしょうが、どことなく言葉もメニューも、タイ料理に似たところがあり、想像していたよりも繊細な印象でした。
素材の持ち味を活かし、日本で言うところの「たまり醤油」に似た魚醤で味を付け、もち米と共に頂いたり、海の無い内陸の国なので魚を発酵させて長持ちさせる等の工夫がなされているのは、都人の知恵が食文化に現れている京都にも通じる部分があります。
また、京都市動物園では「ゾウの繁殖プロジェクト」に基づく人材交流事業としてラオスからやって来たゾウがおり、映画『ラオス竜の奇跡』も上映中とあって、意外と京都との共通点があったのですね。
京都で体験する異文化、まずは「食」から。

怖い、気持ち悪い、でも観たい

10月23

senkyo 選挙の結果は、皆さんにとっていかがでしたでしょうか?
京都では、もう一つの総選挙が継続中です。
龍谷ミュージアム『地獄絵ワンダーランド』展に併せた特別企画「地獄No.1を決めろ!!地獄オールスターズ選抜総選挙」です。
死後の世界はどんな構図になっているのか、まずは展示物を観る前にシアターで地獄ツアーを疑似体験されると、お子様でも理解が深まりやすいと思います。
最前列で映画を観ていた坊主頭の親子は、もしかするとどこかの寺院の方だったのかもしれません。
子供の頃に繰り返し読んだ絵本『じごくのそうべえ』を思い出したり、幼い頃にのんのんばあに連れられて地獄絵に親しんできた漫画家の水木しげるのように、子供の頃から可愛いものと同じくらい恐ろしいものに惹かれてしまうのは何故なのでしょう。
この死生観は、香典返しの掛け紙にも「満中陰志」と記されるように、大人になってからも私達の生活に関わってきます。
展覧会は、上階では大真面目で怖~い地獄の世界が紹介され、燃え上がる炎や迸る血の色に酔った末に観音図を観ると、ほっとするぐらいなのですが、更に下の階に降りる(堕ちる?)と、今度は打って変わって、「ヘタうま」絵画のごとくユルくてユーモラスな地獄の、時には風刺画の様な世界が展開されるという構成になっています。
総選挙は29日までで31日に結果発表、投票者から抽選でオリジナルグッズが贈られるそうですが、もちろん閻魔様に投票したところで罪を免れられる訳ではありません。
地獄絵の中央に書かれる文字は「心」。
天国に行けるかどうかは、私達の心がけ次第なのですから。

音楽に包まれる空間

10月16

ryu 紅葉の観光シーズンで混み合う前に、あるいはその後に、贅沢な時間の使い方をしてみませんか?
京阪・叡電「出町柳」駅向かいにある「ベーカリー柳月堂」や駐輪場はよく利用するけれど、二階にある名曲喫茶の「柳月堂」に入った人はそう多くは無いのではないでしょうか。
なぜなら、音楽を楽しむための「リスニングルーム」においては、私語が禁止されているため、お茶をしながらの雑談を楽しまれる人は、別の「談話室」を利用する事になるからです。背後で「名曲喫茶だって、入ってみよっか!」と声を弾ませていた通りすがりの女子達も、リスニングルームには結局足を踏み入れなかったようです。
下の階で買ったパンを持ち込む事ができるのですが、以前はリクエスト曲もすぐには考えつかなかったため勿体ないと出直し、改めてクラシック好きな知人に柳月堂でのおすすめのパンと、お気に入りの楽曲を教えてもらって再訪。
飲食代金の他にチャージ料を払い、ビニール袋は食べるときに音を立ててしまうので、中のパンを備えつけのお皿の上に移してから、リスニングルームの重い扉を開けて中に入ります。
携帯電話はもちろん、ノック式ペンの使用も禁止、各卓上の紙おしぼりも静かに封を切るための鋏が添えられているという徹底ぶり。
その代わり、見渡すと客人は年齢層が高く、首を落としてスマートフォンを操作している人も、世間話に夢中になっている人もいません。
グランドピアノの両側には、左右に音を広げる木製のスピーカー、二人掛けができる程のゆったりとしたソファーや、読書や書き物をする人のためのスタンドライトが置かれたテーブルもあり、純粋に音楽に包まれるための空間がそこには用意されています。
スタッフの女性が、リクエストされた曲名を手書きで五線譜ノートに記していき、レコードリストもびっしりと棚を埋め尽くしてあるので、これまでにどんな曲が求められて来たのかを伺い知る事もできます。
初来訪だったので、大袈裟なくらい息を潜めて、常連さんのお邪魔にならないように細心の注意を払いながら過ごしましたが、飲み物の氷から空気がはぜる音が聞こえる程の静けさは、自分の家でもなかなかできない心地良い緊張感でした。

洋菓子店の様な和菓子店

10月10

kiyo
以前、「プレゼント!」と、一見ティファニーかと見紛う青い紙袋を手渡されて「何だろう!?」とよく見てみたら、「Wonder Sweets KIYONAGA」と流れる様な横文字が。
「ん、どこかで聞いた事のある名前」だと思ったら、「亀屋清永」の18代目が新設したカフェの名前のようでした。
「亀屋清永」さんと言えば、今年で創業400年を迎え、和菓子のルーツとされる「清浄歓喜団」で知られる京の菓子所ではありませんか。
そのカフェをいち早く訪問した友人のFacebookを見て、その洋菓子店の様な装いに、
「随分と真逆の方向に振り切ったものだなあ…」と思っていましたが、ティファニー色の紙箱を開くと、小槌やスマイルマークの入った可愛らしい柄の麩焼きの煎餅が現れました。
なるほど。クッキーほどお腹に重くないし、煎餅だからと言って地味にもならない、ちょっとした手土産に良い塩梅かもしれません。
江戸時代の京都観光ガイドブック「京羽二重」にも名を連ねている程の老舗が、こんなカフェを作るのは、当代・先代共に勇気が必要だったのではないかと推測されますが、中途半端な和洋折衷は、かえって野暮というもの。どこか突き抜けていなければ。
これを機に、カフェにもお邪魔してみたいと思います。

2017年10月10日 | お店, グルメ | No Comments »

商店街の片隅に

10月2

nisi 出町桝形商店街の中を少し進み、左に抜ける小道を出たところに、「御料理 西角」があります。
最初に運ばれたプレートに先附が9種類も乗っていて、少しずつ季節の味わいをつまめば、会話も弾みます。
季節の蒸し物と甘鯛がここのお得意のようで、素材の香りをまとった温かいあんは、少し肌寒くなってきたこれからの季節の身体に溶け込んでいくようです。
シンプルで上品な店内には割烹の様なカウンター席と、奥に4人掛けのテーブル席が幾つかあり、お座敷もあるようで、瀟洒な風情と食事の印象がぴったり合っていると感じました。
店頭のお品書きによると、コースだと一人当たり7~8千円とありましたが、お酒を飲まずに丼もの等の単品注文にしたので、二人で8500円くらいでした。
何度も商店街の周辺を歩いていながらここの事を全く知らず、聞けばお店を構えてから既に50年近く営業しているとのこと。

ちなみに、お店のそばの商店街の角には、元立誠小学校にあった「立誠シネマプロジェクト」が移転し、本屋やカフェ等を併設した映画館「出町座(仮名)」が開業予定なので、ますます奥深いエリアとなりそうです。

2017年10月02日 | お店, グルメ | No Comments »

美は「愛でる」もの

9月25

eki 美術館「えき」KYOTOにて開催中の「京の至宝 黒田辰秋展」。
お茶の稽古を通して初めて出会った黒田辰秋の作品は、一面に螺鈿が施された中次の茶器と、この展覧会のポスターと同じ四稜捻の形をした朱色の茶器でした。
伝統的な木工芸なのに、どこかモダンで、現代洋間に置いても違和感の無い意匠。
照明を反射して輝くというよりも、内側から光が滲み出るかのような発色。
祇園の菓子舗「鍵善良房」にも、彼が手掛けた菓子重箱があると聞いて、帰りの足でそのままお店まで足を運んだ記憶があります。
これらの作品を、今回美術館という空間でケース越しに観ていると、そのちょっとの距離感が何だかもどかしく感じられ、これまで稽古場で直接手に触れて愛でる事ができたのは非常に幸運だったのだと思わずにはいられませんでした。
無数にある芸術品の中で、絵画作品こそ手に触れる事は叶いませんが、やはり工芸などの造形作品は、飾って眺めるだけでは勿体ないし、その魅力は十分には伝わってきません。
親や親族から美術工芸品を受け継いでも、「その価値が全く分からない」と手放してしまう人は、それらが距離を置いて飾られるかしまい込まれたままで、実際に使ってみるという機会の積み重ねが与えられなかったからではないでしょうか。
茶の湯が現代でデザインを学ぶ学生やアーティストから今もなお支持されているのも、こういった作品を手に取って重さや質感を感じたり、手中で光の当たる角度を変えてみたり、蓋を開けて裏側を見てみたりして、実際に触れる事ができるからなのかもしれません。
もしも自分が将来、何かしらの芸術品を求めるような事があるとすれば、極力使って、その美を他の人々と共有したいと思います。

« Older EntriesNewer Entries »