e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

「苔寺」の池に吸い込まれる

6月13

koke 先日の大雨の夜、ふと「苔寺に行くなら、今がチャンスでは?」と思い立ちました。
雨をたっぷり含んで、瑞々しい景色が広がっているのではないかと。

学生の頃、「拝観料3000円する西芳寺、いつか行ってみたいよね」と友人達と話していたきり。
予約方法は長らく往復葉書のみでしたが、2021年からオンラインにて前日まで拝観の申し込みが可能になりました。

門前の川は怒涛の勢いで流れていましたが、境内に入ると本堂が白砂と快晴との狭間に静かに佇んでいて、「ああ、もう夏が来たんだな。」と思わず仰ぎ見ました。
本堂ではいつもよりも強い風が蒸し暑さを吹き飛ばしてくれるので、気持ちよく写経させて頂きました。

朝は既に予約が埋まっていたので、庭園を回遊し始めたのはお昼前。
苔の絨毯はもう雨粒を空へと手放したのか、しっとりというよりは、ふかふかになっていました。
自分の撮影の腕では苔の美しさを十分に撮れないと半ば諦めていると、目の前に現れた大きな池に足が止まりました。
青空と周りの木々の緑が水面に映り、水彩画の様に複雑なグラデーションを描いているのです。

木々を映す水鏡なら他の寺社でも見かけているはずなのに、どうしてこんなに鮮やかな発色をしているのでしょう。
水の透明度や気象条件に恵まれていたのでしょうか。そこだけが異世界のようでした。

法相宗から浄土宗、禅宗へと宗派を変えながらも実に1,300年という歴史を持つ世界遺産の通称「苔寺」こと西芳寺ですが、庭園に苔が繁茂し始めたのは200年前の江戸時代後期なのだとか。
よく知るお店が、坪庭に苔が定着するのに苦労していたことを思い出すと、これだけの広大な敷地に根付く苔やその他の植栽を維持管理するのは気の遠くなる作業かもしれません。

オーバーツーリズムが指摘されている昨今の京都において、程よい人気と静けさを求めるなら、有名どころや交通の便の良い所を候補から外したりする必要が出てきています。
それらを考慮すると、オンラインで参拝冥加料が4,000円だとしても、決して高くはないのかもしれません。

動画は後日こちらにアップしますね。

普(あまね)く大衆と茶を共にする

5月30

fucha 連休と梅雨シーズンの間は、芽吹く新緑が活力を与えてくれる季節です。

宇治市・黄檗にある萬福寺の塔頭・宝善院の普茶料理を久しぶりに頂きました。
宝善院開基の独振性英禅師は隠元禅師の大通事(通訳)を勤めた人物だそうで、その歴史は300年を優に超えています。

「鶯の鳴き声って、まだ聞こえるんだね」と語り合うほどに静かで、この日にのために設えられたであろう床の間の花の香りが、離れた自分の席にまで漂ってきていました。
当日こちらに欠員が出てしまいましたが、食事も禅修行のうちとされる「五観の偈」には、正しい心で残さず頂くという心得が記されています。
ご厚意により、残った分を持ち帰れるようにしてくださいました。

宝善院では鈴虫を飼育されているそうで、9月上旬の夜には鈴虫の鳴き声を聴きながら松茸をふんだんに使った普茶料理が頂ける催しがあるそうです。
いつもは朝から一人で料理の仕込みをされ、表には出てこられない和尚様とも、この時は一緒にお話をしながら秋の夜を楽しめるとのこと。
例年だと時間は18時から20時まで、志納料1万円(税抜)くらいでご予約制とのことでした。
コロナ禍前は、卓上で松茸を焼いたりしていたそうで、今年はどの様な形でするのか詳細はまだ未定だそうですが、時期が近づけば公式サイトやSNSにて告知されるそうです。これを読んでお腹が空いてきた方は要チェックです!

鞍馬山からパワーをもらう

5月23

kurama 少し前の話になりますが、今月の満月の夜は鞍馬寺にいました。
コロナ禍が明けて再開された五月満月祭(うえさくさい)は、以前のように夜通し行われるのではなく、終電に間に合うよう行程が変更されていました。
本堂前には銘々にシートを敷いて開始を待つ人々多数。
自分が初めて参加してから随分年月が経っているためか、前に出逢ったような、パワーストーンをたくさん身に着けた「いかにもスピリチュアル系」な出で立ちの人々の姿は余り見られませんでした。

きよめの儀式が始まるまで時間があったので、鞍馬から貴船へと続く山道を奥の院まで歩いてみることに。
入山する瞬間から空気が変わり、木の根道を抜け、行き交う人と挨拶をかわし額に汗をにじませながら新緑の森を進みます。
それぞれの名前はわからないけれど、鮮やかな緑の葉の艶や、岩間から水が湧き出るように垂れ下がる細い葉っぱ、まるで人が立ち上がった瞬間かのように根っこが隆起した巨木。
あとは倒木がまるで橋のように小川に横たわっていたりと、台風21号の爪痕があちこちに残っていましたが、その荒々しさにかえって自然への畏怖の念がおのずと湧いてきます。

荒天でも最後にはいつも晴れて月が姿を現すというこのお祭り。
自分の立ち位置からは見られませんでしたが、周りの人々の会話から、一瞬だけ雲間から月が出ていたそうです。
前回参加したときと同様に、月や宗教というより、人や鞍馬山の自然からのパワーをもらった一夜でした。

楽しみ有り。

5月3

koyomi 前回に引き続き、織田有楽斎ゆかりの正伝永源院に向かいました。
現在特別公開中の建仁寺の塔頭で、京都文化博物館の織田有楽斎展と相互に拝観の割引を実施中です。
門を潜ってすぐ、有楽斎の妻や細川家歴代の墓、福島正則家臣の供養塔が目に入ります。

有楽斎が創作した国宝茶室「如庵」は愛知県の有楽苑に移築されていますが、平成8年からこちらに建つ「正伝如庵」は、本歌と瓜二つとのこと。
躙口から内部を覗くと、千利休の息が詰まるような薄暗い茶室とは事なり、窓が多くて広いので明るく感じます。
「こちらの腰張りは「暦張り」と言いまして..」と昔ガイドをした頃のことを思い出しました。
彼の独自の構想が光るデザインであるとともに、細かく記された内容は当時の風俗を知る上でも良い資料となるのかもしれません。

庭園はつつじが咲き、新緑のもみじが青々と既に初夏の装い。
細川護熙氏が手掛けた襖絵は、どれも静謐な景色です。山楽が納めた「蓮鷺図」の襖絵と同じ自然風景の中の静けさを求めたのかもしれません。
2021年に約100年ぶりに戻されたとい紹鴎供養塔が中央に聳え立ち、ふもとには純白の百合の花が供えられていました。

特別公開期間中、拝観を休止する期間がありますので、公式サイトをご確認の上お出かけください。
『文藝春秋』五月特別号には、織田有楽斎や正伝永源院の特集が収録されています。

織田長益の人となり

4月26

uraku
京都文化博物館にて「四百年遠忌記念特別展 大名茶人 織田有楽斎」が開催中です。

織田信長の13歳離れた弟・長益は、「利休十哲」の一人にも数えられる大名茶人「織田有楽斎」として広く知られています。
しかしながら本能寺の変で信長の息子・信忠を二条御所に残して逃亡し、その後豊臣秀吉、徳川家康のもとで武将として乱世を生き延びたことで、
「逃げの有楽」「世渡り上手」と揶揄されることも少なくありません。

しかしながら、当展覧会でも検証されている通り、本能寺の変後も時の武将や茶人、町衆との書簡のやり取りを見る限り、人々の立場の垣根を超えた調整役として多くの人に頼られていた事が伺えます。
縁の茶器もおおらかな風情のものが多く、武将としての荒々しさは見当たらず、書簡の文面には繊細な心配りさえ感じ取れ、決して織田家の血筋というブランド力だけで支持されていたとは思えませんでした。

自ら興した茶道有楽流は、なによりも「客をもてなす」ことを重んじ、ルールを厳格に守るよりも創意工夫を良しとする茶風なのだそうです。
「鳴かぬなら 生きよそのまま ホトトギス」。
織田有楽斎400年遠忌実行委員会が、新たに創作した句が秀逸です。

終盤に展示されていた狩野山楽の蓮鷺図は、パリの「オランジュリー美術館」にある「睡蓮」の絵の間を思い起こさせます。
同じく動乱の世を生き抜いた絵師による大作。少し離れて真ん中の椅子から、絵の中に入った気分で眺めるのがいいですね。

建仁寺の塔頭で、織田有楽斎ゆかりの正伝永源院は現在特別公開中で、京都文化博物館の織田有楽斎展と相互に拝観の割引を実施中です。
有楽斎が創作した国宝茶室「如庵」の写しや、2021年に約100年ぶりに戻された武野紹鷗供養塔など、有楽斎の生き様を改めて立体的に体感したいと思います。

隠れた藤の名所

4月11

fuji
妙心寺の塔頭・長慶院で観藤会が3日間だけ特別公開されていると知り、その日のうちに飛んで行きました。
初めて訪れるお寺の敷居を、心躍らせながら跨いで進んでいくと白い藤が出迎えてくれました。
と同時に「ぶーん…」。
大きな熊蜂が何匹も藤の周りを飛び回っていたので、そこを通り抜けるのはちょっとした試練でした。

客殿に入ると、眼前に広がる白や紫の藤の木々。数メートルは離れているのに、濃厚な香りに包まれました。
棚からぶら下がっているのではなく、下から花を持ち上げるような逞しい藤の樹。
拝観料を払おうとすると、「ご志納を賽銭箱にお納めください」とのこと。
藤の墨絵をあしらったご朱印等が有料で受けられるほか、お茶と藤を模したきんとんまで提供されていました。

SNS効果でしょうか、意外にもたくさんの人が撮影に興じていましたが、皆さん互いに真ん中のベストポジションを譲り合いながらとっておきの景色を撮っていた姿が微笑ましい。
たっぷりと蜜を吸った大きな蜂たちの羽音もなかなかの迫力ですが、彼らは蜜を集めるのに夢中なので、
恐れる必要は無いのかもしれませんね。

1600年創建という長慶院では、他にも様々な催しをされているそうです。
またちょくちょく公式SNSを拝見するといたしましょう。

己の光を指針に

2月22


yo
友人に誘われ、高台寺の夜の茶会「夜咄」へ初参加。
寒さの厳しい季節に、陽が落ちてから開かれる夜咄は、暗い茶室の燭台の灯りだけで楽しむ趣向の茶会です。

一席辺り20~30名程でしょうか、先のグループが席入りしている間に、お坊さんが仏教の小話をして下さいました。
茶会の後は、広大な庭園内を登ったり降りたりしながら案内してもらいます。水鏡と化して木々を映す臥竜池を静かに眺められるのは夜の高台寺茶会ならでは。

境内を離れ、向かいの湯葉料理の「高台寺御用達 京料理 高台寺 羽柴」で点心席。
特別メニューの「うずみ豆腐粥」は、禅宗の修行僧が修業明けの真夜中に暖を取るために食するものだそう。
厳しい修行の最後の日に出されるとあっては、五臓六腑に染み渡ることでしょう。
人気観光地の高台寺ですが、僧堂としての姿を思い起こさせる、この催しならではのお品書きでした。

どなたでも、お一人でも、洋装でも、肩肘張らずに参加できる茶席です(懐紙と黒文字の用意もあります。撮影も可)。
誘ってくれた友人達が、お茶を習った事は無くてもお茶会に行ってみたい、一緒に行こう、と言ってくれるのは嬉しいこと。
隣り合わせた単身の方もその様なご様子でしたが、政所窯の茶盌やお道具などに都度肩寄せ合ってお話しながら、一緒に楽しくお茶を楽しませて頂きました。

「変わらず」時を刻み続けるという価値

2月8


sanmon
(※画像の金毛閣は現在修復工事中です)

大徳寺三玄院特別公開されています。
普段は非公開の塔頭ですが、閉ざされた門前を通る度に、個人的な思い出が甦ります。もう何年も前に、ある雑誌の記事広告撮影の裏方をお手伝いさせて頂きました。
記事の内容は、スイスの高級時計ブランド「オメガ」と、そのイメージキャラクターとしてスーパーモデルのシンディ・クロフォードさんと当時の競泳選手・千葉すずさんが、三玄院を訪れるというものでした。
記憶が正しければ、お茶席に入るときは時計を外して…と、手首のオメガの時計がアップで写るといった趣向だったように思います。
ゴージャスなイメージのシンディさんはとても華奢な身体をしていて、千葉すずさんは色白でスラッと背が高く、お二人とも美しい女性でした。

三玄院は、石田三成や古田織部の菩提寺だけに、誰もが知る多くの武将や貴人が参禅し、戦国の時代でもまたその時を象徴する人々を呼ぶ空間であったようです。
江戸期の絵師・原在中が各室ごとに技法を変えながらぐるりと襖絵を描き、絵師としてもこの上無い誉だったかもしれません。

拝観の後、ここの方丈前でその広告撮影の際に撮った記念写真を(※特別公開中の撮影は禁止です)見返してみてみました。
これまでもこれからもきっとずっと変わらず時を刻み続けていくのでしょうね。

うさぎの宇治で年明け

12月28

manpuku 萬福寺にて『黄檗ランタンフェスティバル』が2023年の1月末まで開催されています。
訪れた時は平日の晩だったので、境内も駐車場もとても空いていました。
小籠包や綿菓子などの軽食やキラキラ小物を販売する屋台と即席の座席、日本の縁日とはひと味違うちょい派手な遊具もご愛敬。

中国風のBGMと赤、黄、紫…のカラフルなランタンに溢れた境内を回遊していると、時折色の無い光と闇だけで浮かび上がる伽藍を抜ける瞬間もあり、本来の禅宗寺院としての厳かさが際立ちます。

昼間訪れた人は「中華街みたいだった」そうですよ。
年が明けて華やかな新春風情を楽しむのもいいかもしれませんね。(動画はこちら)

さて、年末の大河ドラマ最終回で承久の乱の地の一つとして記憶に新しい「宇治」。
宇治神社には、祭神「菟道稚郎子命(うじのわきいらつこのみこと)」が河内の国からこの地に向かう道中を一羽の兎が振り返りながら導いたという故事にちなんでうさぎをモチーフにした授与品があります。
世界遺産宇治上神社にも「うさぎおみくじ」があるのだとか。

朝は卯年のお参り、昼は宇治茶を楽しみ、夜は萬福寺でそぞろ歩きと、そんな新年のスタートを宇治でを切るのはいかがでしょうか。

京都の端っこに行ってみる

11月16

otowa 今年の秋になったら、訪れてみたい紅葉の穴場がありました。
テレビドラマ『ちょこっと京都に住んでみた。』のロケ地として初めて知った、音羽川沿いに作られた砂防学習ゾーンです。
音羽川に沿って自転車で(実際に乗ったのは電動アシスト付きでしたが)進み、今年のお正月に訪れた虎年ゆかりの道入寺の前を通り、小さなベンチのある御安堂公園を越えると細い砂利道に変わります。殆ど人と行き交う事もなくしばらく進むと雲母橋に着くまでに車止めがあり、更に進むと目の前に大きな階段が。脇の空き地にはバイクやママチャリが停めてありました。

階段の向こう側に見えている赤、青、黄色の紅葉に気持ちも高揚させながら階段を登り切ると、小さな砂防ダムからの水音の流れる沈砂地が広がっていました。
このダムの横を通り過ぎると、更に広い中州のある草原に出ました。
大きな砂防ダムから水が滝のように勢いよく落ち、周辺をまだ色付く前の青紅葉が囲んでいます。

先ほどの自転車の持ち主でしょうか、親子連れがピクニックを楽しんでいたようで、渡り石では男の子が水を汲んで遊んでいました。
他に人はいなくて、草原に大の字に寝転んだ母子が「あ~気持ちええわ…。」と呟いていました。
この先にはボードウォークや石積堰堤があるそうですが、時間が無く次回へのお楽しみとしておきました。
もうじき辺りの紅葉が赤く染まって、水音だけが響く静かな錦模様が期待できるかもしれません。

修学院駅からのスタートだと、ここまででおよそ15分程でしょうか。
「自転車ではちょっと…」という人には、タクシーで「関西セミナーハウス」の前まで行き、そこから川の方へ向かえば近道になります。
すぐ近くに曼殊院もあり、門跡寺院ならではの佇まいと庭園、周辺の紅葉もとても美しいので、ぜひお立ち寄りください。
動画はまた後日に。

2022年11月16日 | お寺 | No Comments »
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