e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

一匙の粋

4月17

nodate
平安神宮のホームページによると、枝垂れ桜は満開、八重桜などは8分咲きだそうです(16日現在)。
先立つソメイヨシノは鮮やかな若葉が目立ち始め、川には花筏。散りゆく花びらが美しい頃合いです。
能を習う知人が舞囃子を披露するとのことで、小腹満たしの差し入れを持って観世会館へ向かいました。
能舞台の切戸口から、黒の紋付き袴姿の男性達に混じって紫の袴の女性が現れた瞬間の清々しさ。
女性が踏む能舞台もまたいいものだな、と感じました。
家の近くの公園にも桜が植わっているので、籠に茶碗や抹茶の缶を入れ、道中のケーキ屋でチョコレート菓子を買い、家族とベンチでささやかに一服しました。
タクシーの運転手をしている知り合いは、貸し切りのお客様のためにお茶を振舞うため、車のトランクには野点セットをいつも入れていたそうです。
夏になると、娘さんを乗せて蛍を観に行ったりしていたとか。なんて素敵なお父様でしょうか。
その方はもう故人となられて久しいのですが、今でもその話を思いだします。
ちょっとした事でいいから、日々の生活の延長線上に日本人としのて一匙の粋を持っていたい、そう思う春です。

映える装い

4月9

insho
昨春の新装開館から1年経ってもなお、白壁が眩しい堂本印象美術館。春にふさわしい華やかな展覧会が開かれています。
京の町で舞妓さんとすれ違ったときに、思わず目を奪われますね。それは彼女たちが本物の上質な着物を身にまとっているから。
それと同じように、絵の中の女性たちの着物にも吸い寄せられるのは、古くから染色産業が発展してきた「着倒れ」の町で育まれた審美眼からでしょう。
着物ならではの色合わせの妙などを楽しめるので、レンタル着物で和装デビューの一歩を踏み出した若い女性たちにも、衣笠散策の一案にいかがでしょうか。
他にも、嶋原の太夫道中を松本楼から見学した際のイラストレポートとも呼ぶべき長い巻物も、印象の人となりが垣間見えて楽しく、色彩豊かでモダンな作品の合間に展示されている素描もまた、洗練されていて優美です。
パネルで紹介されていた、智積院のユニークな襖絵『婦女喫茶図』(普段は非公開)や大阪カテドラル聖マリア大聖堂の大壁画なども、機会があれば観てみたいと思いました。
ミュージアムショップでは、堂本印象デザインの羊羹「光る窓」をお土産に買い求めました。
笹屋守栄製で、当館のリニューアルに伴い印象のステンドグラス作品の一部が、琥珀部分に嵌め込まれたような姿をしています。
7㎝と小ぶりながら1000円となかなかのお値段ですが、他には見ないような「なんとか映え」な外観に、勿体なくて未だに切れずにいます。

フィンランド発琳派!?

3月27

rinpa
フィンランドの有名ライフスタイルブランド「マリメッコ」の日本人テキスタイルデザイナーと言えば、脇阪克二さん大田舞さんが活躍していますが、石本藤雄さんは現在フィンランドの老舗陶器メーカー「アラビア」に所属、陶芸家としても活動しています。
自然から着想を得る事が多いというそれらの作品と、細見美術館の琳派のコレクションを並べて紹介する展覧会が開かれています。
「森と湖の国のフィンランドは、人も文化も似たところがあります」。現地の人がそう話していた事がありました。
確かに、デフォルメされたパターンは、紙の上のみならず記事や生活道具にも用いられるなど琳派に通じるものがあるかもしれません。
ある草木の柄は、幼い頃に自宅のベッドカバーに使われていました。
また、陶芸作品としての「イヌノフグリ」は、通学路によく咲いていた小さな小さな花でした。
それらをひと目見ただけで、スイッチが入ったかのように思い出の光景が甦ります。
素朴なタッチに華やかな色彩は、まるでビタミンたっぷりの果物のように気分を軽やかにしてくれますね。予想通りミュージアムショップは盛況です。
テキスタイルも陶芸品も、生活空間の中に溶け込んで心を潤してくれるもの。
作品として遠巻きに鑑賞するよりも、実際に自分でテーブルや部屋をコーディネートしてデザインを楽しむのがもっとも美しくみえるだろうな、と感じました。

2019年3月27日 | 芸能・アート | No Comments »

日本の粋は細部に宿る

3月13

geihin
子供の頃、テレビで東京の迎賓館赤坂離宮の映像を観て、「どうして日本の迎賓館なのに、外国の建物みたいなんだろう」とほのかに疑問に思っていました。
2005年に完成し、2016年より通年公開となった京都迎賓館は、京の匠の技と現代の先端技術の調和によって、日本人の美意識を形に表す存在となっています。
他国の宮殿に比べると、一見シンプルな平屋作りに感じますが、扉から天井まで綺麗に揃えられた木目や12メートルの漆塗りの一枚板の座卓、末永く使えるよう意匠がリバーシブルになっている竹垣など、細部や見えないところに贅が尽くされ「庭屋一如」となっているところがなんとも日本的です。
庭園の傍らには、新婚旅行で来日したブータン国王夫妻が初めて乗られたという和舟が浮かび、橋を境に深さが異なる池には、地震の被害を受けた新潟中越から買い受けたという錦鯉が彩りを添えています。
和食会棟の屋根は純和風の瓦に見えますが、実はニッケルとステンレスの複合材が使われ、周りの景色に溶け込んでいました。
詳細は、迎賓館地下で販売されている公式グッズの中の書籍にもあり、他にも五七桐紋をあしらった懐紙やあぶら取り紙などもありました。
特に今は、天皇陛下在位30年を慶祝して、特別展が行われており、天皇皇后両陛下、皇太子迎賓館赤坂離宮同妃両殿下のご成婚やご即位の際の衣装の反物やパネルが展示してあり、京都のあちこちで時代物のお雛様が飾られている中で、こちらに展示してある写真はまるでリアルお雛様のようです。
天皇にのみ着用が許されているという「黄櫨染」の色の袍の反物も展示されており、つい先日12日に行われた「期日奉告の儀」でも着用されていました。
各所で写真撮影をする時間も十分にあり、「御即位30年記念京都御所特別公開」 も始まっているので、ぜひ、ガイドツアー方式(3月19日まで)もしくは公式アプリ利用での見学をおすすめします。

職人の未来を繋ぐ

2月14

asa
他の漆器の産地に比べて高価なものが多く、いわゆる「高級品」として知られている京漆器
美しい蒔絵や光沢に目を奪われますが、その下にある木地の土台を担うロクロ木地師は、京都に独りしかいません。
北山の檜や京都府産の漆を使い、製作工程も全て京都で行うなど、常(日常使い)の京漆器作りを通して将来の職人達の仕事も生み出していこうという「アサギ椀プロジェクト」が始動しました。
発案者の故・石川光治氏の意思を受け継ぎ、京都でただ一人のロクロ木地師の西村直木さん、塗師の西村圭功さんと石川良さん、漆精製業の堤卓也さんらが進めており、その取り組みを紹介する展覧会が19日まで「The Terminal KYOTO」にて開かれています。
既に滋賀県の日野椀が、妙心寺のこども園に器を納めているように、京都の保育園でアサギ椀を子供達に使ってもらおうという計画も進められています。
アサギ椀の子供椀は、あえて幼い子が扱いやすくするような細工はせず、大人の椀がそのまま小さくなっただけの姿かたちをしています。
落としても投げつけても割れにくいプラスチック容器と違って、落とさないようにこぼさないように両手で包み込み、漆が剥げないように箸やフォークをやさしく当てるなど、物を大切に扱う姿勢が自然と身に付くよう、しつけの意味も込められているのだそうです。
幼い我が子にも、食洗機で洗えるプラスチック容器で食事をさせる事が多いのですが、それでもいつも同じ食器では味気ないと思い、手洗いが必要な木地の椀や割れないよう注意が必要な陶器の小皿なども、料理に合わせて出しています。
同じ素材、同じ色で統一された西欧の食器とは違い、様々な素材の器で食事を取るのも、日本文化の豊かさの現れだからです。
サンプルのアサギ椀を掌で撫でながら「やはり雑貨店で買うものとは値段が違う…でも痛んでも塗り直して末永く使えるし、入金は椀を受け取る2か月先でいいみたいだし、子供の小さな指先でも感じ取るものがきっとあるだろう…」と悶々と思案した末に予約を入れる事にしました。
小ぶりで軽い漆のお椀は、外でお茶を点てる時にも便利かもしれません。手元にやってくる桜の季節が楽しみです。

子供に帰れる場所

1月29

tate
西陣の築100年の町家の2階に上がると、ゴジラが立っていました。
怪獣やなつかしのヒーローもの、ロボットに最新アニメのフィギュアなど3000体を越える個人のコレクション)「京都西陣たてくんミュージアム!」です。
もとは各国の外国人からじわじわと支持されていたのが、ここ最近急激に日本人の訪問が増え、なんと、海洋堂の社長も訪れたとか。
「赤影」や「ロボコン 」「ドラゴンボール」、「進撃の巨人」「ラブライブ!」など、オーナーの「たてくん」の人生をなぞるように、幅広い世代・国籍の人が楽しめて、なにより展示の仕方に愛と感じます。
オーナーのお母様に、「息子が大人になってもフィギュアに夢中で、不安になった事は無かったですか?」と失礼ながら尋ねてみたら、「酒もタバコもしない。誰にも迷惑かけてないし、自分でアルバイトを3つも掛け持ちして、改装まで本人がやったんですよ。」と、そのおだやかな口調には誇りすら感じ取れました。
外の入り口のテントには、亡きお父様と経営していた旅行会社の名残りが。
「これからは、海外から来た人をここで楽しませたい」とのこと。
西陣織の着物を身にまとったスターウォーズのヨーダは、世界平和を願うスペースに祀られています。
国同士のいざこざなんてなんのその、言葉や国境を軽く飛び越えて人々を繋いでしまうサブカルチャーの力を信じましょう。
帰り際、お母様に小さなお菓子を頂き、なんだかおばあちゃんにお小遣いをもらったような、懐かしい気持ちになりました。

弱みを個性に花開く

1月23

kusama

祇園甲部歌舞練場を期間限定の現代美術館として開催されている『草間彌生 永遠の南瓜展』。
長所と短所は紙一重。視界が水玉で覆われるという幻覚に苦しめられた彼女は、その水玉を作品に昇華させる事で才能を開花させました。
自分にとっての弱点やコンプレックスを受け止め、強みに転換できて大成功をおさめた典型的な例と言えます。
まるで作品のうちの一つかと思うような草間そのものの個性も注目の的となっており、映画『草間の自己消滅』やドキュメンタリー映画『草間彌生 わたし大好き』も合わせて観てみたいところです。
水玉模様はもはや草間彌生を表すアイコンとなり、ルイ・ヴィトンとのコラボレーション「 ヤヨイ・クサマ コレクション」でも話題を呼びました。
この展覧会では水玉の他にかぼちゃや花のシリーズで展開されていますが、地上の花々を巻き込みながら宇宙へと吸い上げられていくような富士山のシリーズを目にするのは初めてでした。
個人的には「わが心の富士は語る」という題の木版画が、あたたかく素朴なスケッチのようで心に残りました。
同じモチーフで何通りにも反復、量産ができる版画作品や、カフェでの企画メニュー、ミュージアムショップの長蛇の列を見ると、商業的にも成功しているのがよく分かります。
なお、この美術館は館内に授乳スペースや子供用の便座もあり、親子連れもよく見かけました。
2月末で閉館予定なので、グッズを買いたい人は、早めの来場が良いかもしれません。

世の中の「すぐにはよくわからないもの」

12月12

niti
故樹木希林さんが茶道の先生として登場する映画『日日是好日』を、滑り込みで観て来ました。
茶道を経験している人も、そうでない人にも、自分の生きて来た道を振り返り共感できる光景が幾度もあったように思います。
黒木華さん演じる主人公の典子が、家庭を持ち母となったのか、フリーランスの仕事は成功したのか、幕が降りるまで具体的には描かれていませんでした。
確かにそれぞれは素晴らしい人生の彩りには違いないけれども、必ずしも1番大事な事、ではない。だから描く必要もなかったのでしょう。
それよりも、今自分の周りにいる人々や、目の前の移ろいゆく事象に向き合うこと。その様に受け取りました。
茶道をテーマとした映画ということで、あえてお茶の世界にどっぷり浸かっていない人と観てみたいと思い、この映画に誘った友人は、自分とは真逆の人生を選んだひとでした。
独りで生きていくことを決めた彼女と、同じものを観て同じように「良かったね」と言い合えたことは、なんだかとても意味のあることだったように思います。

2018年12月12日 | 芸能・アート | No Comments »

番外編の真珠庵

12月5

sinju
「由緒ある禅宗寺院が、よくここまで振り切ったものだ。」
一休禅師を開祖として創建された大徳寺真珠庵で特別公開されている襖絵のニュースを聞いて、多くの人がそう思ったに違いありません。
江戸前期の建築で重要文化財の方丈の、曽我蛇足や長谷川等伯といった絵師による襖絵の修復にあたり、代わりに納まっている現代の襖絵計45面は、中央の部屋は「釣りバカ日誌」で知られる漫画家・北見けんいちさん、方丈東側の部屋はアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」制作会社社長・山賀博之さん、西側「礼の間」にはゲーム「ファイナルファンタジー」のアートディレクター・上国料勇さんや、他にはNHKのアニメ「オトナの一休さん」を手がけるイラストレーター・伊野孝行さん、日本画家で僧侶の濱地創宗さん、花火の閃光で作品を仕上げる京都造形芸術大出身の美術家・山口和也さんが手掛けています。
いずれも現住職が旧知の漫画家や、東京で開く座禅会メンバーらで、絵の制作を依頼してからは一部の作家は真珠庵に寄宿、作務をしながら描いたのだそうです。
墨絵に浮かぶ戦闘機、カラオケで歌う一休さんを眺める髑髏、「EXILE」メンバーがモデルだという風神、雷神。今しか見られない番外編の真珠庵です。
北見けんいちさん自身がすごし、その様子を描いた与論島の風景はなんとも楽しげで、拝観者の顔も思わずほころびます。
本人や真珠庵歴代の住職、亡き妻、島の知人たちが遊び心いっぱいに書き込まれた現世と来世が入り混じるバーベキューの世界。
穏やかな天気のもと、愛する人々と食を共にし、音楽を楽しむ光景は普遍的な幸福に満ちていて、まさしく「楽園」の名にふさわしいものと感じました。
16日までの一般公開では、他にも通常非公開の書院「通僊院」や茶室「庭玉軒」、村田珠光作庭と伝わる「七五三の庭」が公開されています。

西陣の町の息遣い

11月13

miyako
生活スタイルの変化や相続、様々な事情で減りつつある京町家。
その建築物を外からの照明で煌々と照らすのではなく、地域住民の協力のもとで町家の内から外の通りに向けて照らし、家々の格子からもれだす「暮らしの灯り」を表現したライトアップイベントが「都ライト」です(今年度は11日で終了しました)。
ビロードを活かした着物のお手入れグッズの製作体験も行っている「天鵞絨(びろーど)美術館」や、かつて北野界隈を走っていたチンチン電車の映像を投影している翔鸞公園、機織りが並び普段は手織り体験もできる「奏絲綴苑」、そして、上七軒の名の由来となった7つの茶店のうちの一つと言われている元お茶屋を巡りました。
虫養いとして、地ビールや甘酒、コーヒーや麺類を提供するスポットも点在しています。
会場間は徒歩数分程ですが、住宅地を通る際、辺りはわずかな道案内の行燈のみで殆ど真っ暗なのですが、子供が母親を呼びかける声が家から聞こえてきたり、犬の散歩で立ち話をする声や通り過ぎる自転車のライトの音、じょうろを片手に路地へと消えてゆく人の姿など、西陣に住まう人々の息遣いがリアルに感じられました。
京都暮らしが長いとは言え慣れない町でもあり、幾つかの角で配布されているパンフレットの地図を手に見回していると、主催の学生さんが気にかけて歩み寄ってくれました。
今年で14回目を迎えた「都ライト」。嵐山や東山の「花灯路」イベントと同じくらい前から京都の大学生らの手によって引き継がれてきました。
京都らしい写真映えがするライトアップイベントのさきがけだと言えますね。

« Older EntriesNewer Entries »