e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

音楽に包まれる空間

10月16

ryu 紅葉の観光シーズンで混み合う前に、あるいはその後に、贅沢な時間の使い方をしてみませんか?
京阪・叡電「出町柳」駅向かいにある「ベーカリー柳月堂」や駐輪場はよく利用するけれど、二階にある名曲喫茶の「柳月堂」に入った人はそう多くは無いのではないでしょうか。
なぜなら、音楽を楽しむための「リスニングルーム」においては、私語が禁止されているため、お茶をしながらの雑談を楽しまれる人は、別の「談話室」を利用する事になるからです。背後で「名曲喫茶だって、入ってみよっか!」と声を弾ませていた通りすがりの女子達も、リスニングルームには結局足を踏み入れなかったようです。
下の階で買ったパンを持ち込む事ができるのですが、以前はリクエスト曲もすぐには考えつかなかったため勿体ないと出直し、改めてクラシック好きな知人に柳月堂でのおすすめのパンと、お気に入りの楽曲を教えてもらって再訪。
飲食代金の他にチャージ料を払い、ビニール袋は食べるときに音を立ててしまうので、中のパンを備えつけのお皿の上に移してから、リスニングルームの重い扉を開けて中に入ります。
携帯電話はもちろん、ノック式ペンの使用も禁止、各卓上の紙おしぼりも静かに封を切るための鋏が添えられているという徹底ぶり。
その代わり、見渡すと客人は年齢層が高く、首を落としてスマートフォンを操作している人も、世間話に夢中になっている人もいません。
グランドピアノの両側には、左右に音を広げる木製のスピーカー、二人掛けができる程のゆったりとしたソファーや、読書や書き物をする人のためのスタンドライトが置かれたテーブルもあり、純粋に音楽に包まれるための空間がそこには用意されています。
スタッフの女性が、リクエストされた曲名を手書きで五線譜ノートに記していき、レコードリストもびっしりと棚を埋め尽くしてあるので、これまでにどんな曲が求められて来たのかを伺い知る事もできます。
初来訪だったので、大袈裟なくらい息を潜めて、常連さんのお邪魔にならないように細心の注意を払いながら過ごしましたが、飲み物の氷から空気がはぜる音が聞こえる程の静けさは、自分の家でもなかなかできない心地良い緊張感でした。

洋菓子店の様な和菓子店

10月10

kiyo
以前、「プレゼント!」と、一見ティファニーかと見紛う青い紙袋を手渡されて「何だろう!?」とよく見てみたら、「Wonder Sweets KIYONAGA」と流れる様な横文字が。
「ん、どこかで聞いた事のある名前」だと思ったら、「亀屋清永」の18代目が新設したカフェの名前のようでした。
「亀屋清永」さんと言えば、今年で創業400年を迎え、和菓子のルーツとされる「清浄歓喜団」で知られる京の菓子所ではありませんか。
そのカフェをいち早く訪問した友人のFacebookを見て、その洋菓子店の様な装いに、
「随分と真逆の方向に振り切ったものだなあ…」と思っていましたが、ティファニー色の紙箱を開くと、小槌やスマイルマークの入った可愛らしい柄の麩焼きの煎餅が現れました。
なるほど。クッキーほどお腹に重くないし、煎餅だからと言って地味にもならない、ちょっとした手土産に良い塩梅かもしれません。
江戸時代の京都観光ガイドブック「京羽二重」にも名を連ねている程の老舗が、こんなカフェを作るのは、当代・先代共に勇気が必要だったのではないかと推測されますが、中途半端な和洋折衷は、かえって野暮というもの。どこか突き抜けていなければ。
これを機に、カフェにもお邪魔してみたいと思います。

2017年10月10日 | お店, グルメ | No Comments »

商店街の片隅に

10月2

nisi 出町桝形商店街の中を少し進み、左に抜ける小道を出たところに、「御料理 西角」があります。
最初に運ばれたプレートに先附が9種類も乗っていて、少しずつ季節の味わいをつまめば、会話も弾みます。
季節の蒸し物と甘鯛がここのお得意のようで、素材の香りをまとった温かいあんは、少し肌寒くなってきたこれからの季節の身体に溶け込んでいくようです。
シンプルで上品な店内には割烹の様なカウンター席と、奥に4人掛けのテーブル席が幾つかあり、お座敷もあるようで、瀟洒な風情と食事の印象がぴったり合っていると感じました。
店頭のお品書きによると、コースだと一人当たり7~8千円とありましたが、お酒を飲まずに丼もの等の単品注文にしたので、二人で8500円くらいでした。
何度も商店街の周辺を歩いていながらここの事を全く知らず、聞けばお店を構えてから既に50年近く営業しているとのこと。

ちなみに、お店のそばの商店街の角には、元立誠小学校にあった「立誠シネマプロジェクト」が移転し、本屋やカフェ等を併設した映画館「出町座(仮名)」が開業予定なので、ますます奥深いエリアとなりそうです。

2017年10月02日 | お店, グルメ | No Comments »

美は「愛でる」もの

9月25

eki 美術館「えき」KYOTOにて開催中の「京の至宝 黒田辰秋展」。
お茶の稽古を通して初めて出会った黒田辰秋の作品は、一面に螺鈿が施された中次の茶器と、この展覧会のポスターと同じ四稜捻の形をした朱色の茶器でした。
伝統的な木工芸なのに、どこかモダンで、現代洋間に置いても違和感の無い意匠。
照明を反射して輝くというよりも、内側から光が滲み出るかのような発色。
祇園の菓子舗「鍵善良房」にも、彼が手掛けた菓子重箱があると聞いて、帰りの足でそのままお店まで足を運んだ記憶があります。
これらの作品を、今回美術館という空間でケース越しに観ていると、そのちょっとの距離感が何だかもどかしく感じられ、これまで稽古場で直接手に触れて愛でる事ができたのは非常に幸運だったのだと思わずにはいられませんでした。
無数にある芸術品の中で、絵画作品こそ手に触れる事は叶いませんが、やはり工芸などの造形作品は、飾って眺めるだけでは勿体ないし、その魅力は十分には伝わってきません。
親や親族から美術工芸品を受け継いでも、「その価値が全く分からない」と手放してしまう人は、それらが距離を置いて飾られるかしまい込まれたままで、実際に使ってみるという機会の積み重ねが与えられなかったからではないでしょうか。
茶の湯が現代でデザインを学ぶ学生やアーティストから今もなお支持されているのも、こういった作品を手に取って重さや質感を感じたり、手中で光の当たる角度を変えてみたり、蓋を開けて裏側を見てみたりして、実際に触れる事ができるからなのかもしれません。
もしも自分が将来、何かしらの芸術品を求めるような事があるとすれば、極力使って、その美を他の人々と共有したいと思います。

飲食求道 一作

9月19

nasu 色んなお店ができたなあ、と京都の町を歩いていて感じる中で逆に惹かれてしまうのが、昔から地元の人々に愛され続けている街角の小さなお店。
京都に越して来た知人からの薦めで、今出川通りから寺町通りをずっとずっと道なりに進んだ左手にある「一作」を知ったのはつい最近のこと。京都っ子の友人に話すと、「子供の頃にしょっちょう玉子丼食べに行ってたわ!なんでそんな店知ってるんやろ?」との反応。そして彼女にとって30年ぶりかという再来店を果たすことになったのです。
外観は正直どこにでもありそうな、「住宅地のお好み焼き屋さん」ですが、食堂並みの豊富なお品書きに加え、食欲をそそる旬の品もあり、頼んだのは「賀茂茄子のお好み焼き」。
鰹節に埋もれて運ばれて来たそれはまるで賀茂茄子のハンバーガーのごとく積み重なり、どこからどこまでが茄子でお好み焼きなのか分からないほど。
ジューシーに炊かれた茄子のだしとからみ、同じくらいやわらかいお好み焼きもまた、どこから茄子でどこからお好み焼きなのか!
続いて、旬の桃のかき氷。ふわふわとしゃしゃりのちょうど中間くらいの氷の周りに、ジャムの様に甘くさっぱりとした桃の小片が薄桃色の手作りシロップと共にぺたぺたと張り付いていて、食べる前から美味しい事が伝わって来ました。
教えてくれた知人に報告すると、「桃氷はすぐ売り切れるみたいなので、奇跡ですよ!」とのこと。私達しかお客がいなかったのは運が良かったのでしょうか。
どちらのメニューもこの季節ならではの食材なので、食すなら今のうちです。

2017年9月19日 | お店, グルメ | No Comments »

鷹峯の渓涼床

9月4

yuka 今夏は遠出をしなかったので、代わりに鷹峯・しょうざんの渓涼床でひと時の旅行気分を味わう事にしました。
しょうざんと言えば、京都っ子にはボウリングの思い出がある人もいますが、幼少の頃は「芝生のあるプール」としての印象が残っていて、入り口からお店に向かうまでの道のりは、片側には豊臣秀吉が設けたお土居の遺跡、反対側ではあのプールが垣間見え、なんとも懐かしい気持ちになってしまうのです。
渓涼床は、以前はお座敷スタイルだったのがテーブル席に替わったと聞いていたので、洋風の風情になってしまったのではと心配していたのですが、料亭にあるような背の低い仕様だったので、京都らしい風情のまま、お子様から足の悪い方まで安心して寛げるようになっていました。家族連れも多く見かけた気がします。
季節のもので構成された京会席は、外せない鮎をはじめ、ほんのり山里を連想させる取り合わせ。締めの山菜ご飯は、秋になると松茸ご飯に変わるようです。
床の外から客席に向かって扇風機が回っているユニークな姿に笑ってしまいましたが、エアコンがなくても木陰と渓流からの空気がふんだんに流れ、十分に涼しくすごせました。
床と簾の合間から見渡す限りの青紅葉が見え、滝の様な水音を聞きながら、錦秋を想像するのもまた楽し。
ここの床は鴨川よりも長い期間楽しめるので、敬老の日のお祝い食事会にも良さそうですよ。

2017年9月04日 | お店, グルメ | No Comments »

味噌は味噌屋で

8月22

kato 盛夏の折、汗をたくさんかくためか、赤出しが美味しく感じます。
ちょうど切らしたので、「加藤みそ」(075-441-2642)に買いに行きました。
西陣の住宅地の中にあるので、味噌だけを買うにはちょっと不便なところにあるのですが、
もともと実家近くの魚屋さんにも置いてあり、食卓にて
「ん、この赤出し美味しい。どこの?」
「“萬亀楼”さん(京都の料亭)の南隣にある“加藤商店”さんの。」
という会話が始まりでした。
言われた場所に建つ町家はご自宅だったようで、向かいの工場で分けてもらいました。
今やスーパーやコンビニで何でも揃ってしまいますが、特に都会で生まれ育っている人にとっては、「米は米屋で」「味噌は味噌屋で」買い物をするのは一種の憧れのような、わくわく感があるのでは。
工場いっぱいに広がる味噌のいい香りは、直営工場ならでは。
創業100年近くなってもなお昔ながらの手作り製法を通しているそうで、作業着姿の若い店主の語りからも、品質への自信が垣間見えました。
親子で量り売りの赤出しや八丁味噌、甘酒を購入しましたが、白味噌や塩麹、田楽みそなど、15種類程の商品があり、味噌作り体験もされているようです。
早速夕食に初めて八丁味噌を飲んでみましたが、こちらも塩分でしんどくなるようなキツさがなく、まろやかな味わい。
京都の美味しい豆腐屋さんで買う香ばしいお揚げさんや湯葉と合わせると最高です。

2017年8月22日 | お店, グルメ, 町家 | No Comments »

京友禅の眼鏡拭き

8月7

soo
伯母の誕生日が来ていた事をうっかり忘れていて、何を贈ろうかと考えていたところ、聞き覚えのあるブランドが目に入りました。
京友禅の若手職人達が立ち上げた「SOO(ソマル)」の眼鏡拭き「おふき」です。
絹素材の中でも眼鏡拭きに適した着物生地を使い、伝統柄に新しい感性を加えた小紋柄を、本物の京友禅で染め上げています。
噂には聞いていましたが、実際に手に取ると正絹100%の眼鏡拭きというよりは端切れの如き薄さと軽さ。ですが、この方が眼鏡ケースやバッグに畳んで入れても邪魔にならなさそうです。
「墨黒」「深紅(こきくれない)」「黄海松藍(こいみるあい)」「茄子紺」の五色は、華やかさも落ち着きもあるいい塩梅の色味で、幅広い年齢の人に合いそうだと即決しました。
夫婦で使ってもらおうと、夏限定の提灯柄は祇園祭が大好きな伯父に。
和装で応対していた男性が、
「皆さん、京友禅の良さをよく知っていても、いざ買うとなると値段の桁数がこれより二つくらい増えてしまいますし、我々売る方もどうぞ気軽にとは言いにくいですしね」と。
こちらの商品は、インターネット通販は無く、京都でしか手に入らないもの。
眼鏡だけでなくスマートフォンの画面を拭くのにも使えるという事で、外国の方へのかさばらないお土産にも良さそうです。今のところはまだこの「おふき」しか商品は無いようですが、今後はどんな商品が展開されるのか、期待しています。
夏限定柄が販売されている京都伊勢丹での催事は8日までですが、次回は9月に京都マルイで予定されているそうです。
取り扱い店舗については、公式フェイスブックにも情報が掲載されているので、こちらからも直接「こんな商品が欲しい!」と提案したりできるのではないでしょうか。

2017年8月07日 | お店, 和雑貨 | No Comments »

「はんげしょうの宝珠」

7月11

hange 関東から京都に移住して来た知人から、干菓子を頂きました。
創作和菓子ユニット「日菓」だった杉山早陽子さんによる菓子工房「御菓子丸」の「はんげしょうの宝珠」です。
先月建仁寺の塔頭・両足院で半夏生の庭園が特別公開されていた期間のみ、現地限定で販売されていたもの。
長野県産の無漂白寒天で作られたすり硝子の様な白い葉が、合掌する手の様にピスタチオをそっと包んだようにも見えるデザイン。
名前に「の宝珠」と付く事から、禅を意識しているのでしょう。
一見、柔らかそうに見えましたが、手でつまむと琥珀の干菓子の固さ。
微かにシャリっと音を立てて齧ると広がる控えめな甘み。スイス産のオーガニックてんさい糖を使っているそうで、素材へのこだわりを感じました。
その知人は、以前より度々京都を訪れていましたが、今年の始めに市比売神社をお参りしてから約1か月後に、京都の企業での仕事の話が舞い込み、京都への移住が決まったのだそうです。
更に、会社から紹介されたマンションも、奇しくもその神社のすぐ近く。
娘が関東を出てしまって、親御さんはさぞ寂しい思いをされているかと思いきや、京都旅行のきっかけができたと喜んで、娘の部屋に泊まるための寝袋まで買われたのだとか。
お参りがきっかけで、京都への良きご縁が結ばれたようですね。

宮川町「游美」

7月3

yubi 宮川町にある「游美」で、少し贅沢なお昼ご飯。
予約の際に、妊婦を含む小さな女子会である事を伝えていたので、献立にもご配慮を頂きました。
珍しい食材よりも、どちらかというと普段から親しみのある食材が多く登場しますが、淡白な蛸はしっかり味を含ませて煮凝りに、当然、魚はきれいに形を保ったまま、炭火でふっくらと焼き上げられて。
素材の魅力はそのままに、堅実に磨きがかけられて、すっと檜舞台に出されます。
なんとなく、お店に向かう道中ですれ違った、素肌の美しい浴衣姿の舞妓さんを思い出しました。
友人は「ここのお料理は元気が出る」と、毎月通いつめて、およそ一年が経ったそうです。
カウンター席とテーブルが一台の内装は、客側の漆喰の壁は店主自ら塗ったそうで、厨房側は更に漆が擦り付けるように黒く塗られています。また、天袋の戸は桜の樹の皮が網代になっている珍しいもの。かつて天龍寺宝厳院で見かけたものに惚れ込み、作れる人を求めるうちに京都を飛び出し、滋賀の職人に依頼したのだとか。
多くを語らない、物腰やわらかな若い主人ですが、質問すればするほど、こだわりの逸話が引き出されそうです。
お店を開いてからもう10年になると聞き、驚きついでに思わず「お弁当やお節はされているんですか?」と尋ねると、「残念ながら…」との返答。
その代わりに、お正月の三が日は営業されているそうです。いいことを聞きました。

2017年7月03日 | お店, グルメ, 町家, 花街 | No Comments »
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