e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

ただのコラボではない

7月5

kongou
金剛能楽堂では、装束の虫干しに合わせて「金剛家 能面・能装束展観」が毎年行われています。
今年は華道家・写真家である池坊専宗氏を迎えて能楽と華道についての鼎談が企画されました。

いけばなの成り立ちを遡ると、古来は神仏への供えもの。そこから真(本木)と下草で構成される「立て花(たてはな)」というスタイルが生まれ、もてなしの場に用いられるようになり、室町時代後期には「立花(りっか)」へと発展、
多種多様な草木を使って自然の景観美、更にはこの世の森羅万象を表現するようになります。

一方、『泰山府君』の等、能においても草花はよく演目に登場しますが、基本的には「作り物(造花)」が用いられ、最後は縁者も作り物も舞台からはけて「無」に戻ります。
内生(心の内に感情や考えが生じること)を生かす芸能なので、花は人の姿を投影されたものとされています。

平成3年、観世弥次郎長俊作の『花軍(はないくさ)』という珍しい演目が現代の金剛版として上演され、能舞台は池坊専好氏によるいけばなで装飾され、子方が菊や女郎花、仙翁花、牡丹の精を演じました。
(「花軍(いくさ)」という言葉を聞いて、つい、5年前に野村萬斎さんが演じた映画「花戦さ」を思い出していました)

一見「華やかなコラボレーション」という印象になるでしょうが、同時代に発展し、「花」への捉え方が異なる芸能同士が共存しているという背景を思うと、また観方が変わるかもしれませんね。

草花で染められた能衣装は、化学染料とは違い、時を経て色褪せていきます。
特に赤い染料のものは黄色になり、周囲の文様と馴染んでいきます。この枯れて調和ができていく過程も、能の世界では良しとされています。

鼎談そのものはまるで室町オタク同士の雑談を聞いているかのようなマニアックな盛り上がりでしたが、「国際化が進む日本において、自国の事をよく知ることが本当の国際化である」との提言で締めくくられました。

本当の贅沢とは

4月3

han
白木が新しい高瀬船が停泊する史跡・一之舟入の高瀬川畔に、を眺めながらお食事できる素敵なテラス席を教えて頂きました。
飲食店を営む町家の2階「帆-HAN-」です。

カフェタイムのメニューはロゼシャンパンと濃厚な自家製プリンのみ。
春風を感じながら、外の川辺に見えるのは、記念撮影を楽しむ振袖姿の女の子たち。
舞い散るの花びらのなかでの嬉しそうな笑顔はこちらにも眩しいものでした。

絶好の満開のタイミング。
日本人の思う「贅沢」とは、お金をかけてめいっぱい飾り立てる事ではなくて、

「移ろう自然が美しく輝く今この瞬間を味わう」
「何もしない余白」
にある気がします。

昼会席(3日前までに要予約。8000円)とカフェタイム(14~17時)に利用できるのはオープニング期間の4月27日まで。
テラスの側にはワインと国産ウイスキーを扱うバーカウンターもあり、
これからの新緑の季節や夏の夜には、夜風にあたりながら飲むのも気持ち良さそうです。
オープンな川床とも違う隠れ家のような風情は、誰か大切な人を連れて行きたくなるかも。

2023年4月03日 | お店, グルメ, 町家 | No Comments »

背割堤と新たな計画

3月29

sewari 京都と大阪の間、石清水八幡宮のある男山と天王山に挟まれ、木津川と宇治川と桂川が出逢う背割堤は、すっかりの名所となりました。
展望台ができる前と比べて観光地化が進んだ印象ですが、それだけ老若男女が共に楽しめるということです。

「背割堤さくらまつり」の期間中、のトンネルから途中階段で南岸へと降りると、そこは屋台が建ち並ぶグルメストリート。
レジャーシートやテントさえ持参すれば気軽にお花見ができます。
本格的なキッチンカーも多数なので、味のレベルも期待できますよ!
「お花見船Eボ-ト」も運行しています。
反対の北岸へ降りると、ひらひらとの花びらが舞う静かな小径。まつりの熱気と日差しで火照った身体を、木陰でクールダウンできます。

ところで、2025年の大阪・関西万博を見据えて、淀川舟運を活性化しようと、水深が浅い大阪府枚方市からこの背割堤付近まで川底を掘削して航路を確保する構想が上がっているそうです。更に上流の伏見港まで中型船を運航させることも視野に入れた、京都市、宇治市、八幡市、枚方市の4市と国土交通省がタッグを組む「かわまちづくり計画」です。

かつては坂本龍馬や伊藤若冲も船便で京都~大阪間を移動していました。
三川が合流する背割堤は治水のために生まれたものですが、今後この計画への安全と環境への配慮がクリアされたとしたら、わくわくしてきますね!

花より団子か、団子より花か。

3月22

iori 例年よりも1週間以上も開花が早く、慌ててお花見の計画を立てた人も多いのではないでしょうか。

梅・桃・が一度に楽しめる京都御苑を去年の今頃に訪れた時にはまだ工事中だった「SASAYAIORI+」を目指して自転車を走らせました。
壁一面の窓からの木々が眺められる休憩所だからです。

カウンターで注文をする前に席を確保する必要があります。
ぜひとも窓側の席を…と、見回していると、ちょうど席を立つ方の後ろで待機して、無事窓際に着席できました。
画像は17日(金)時点でのの様子なので、今週は更にゴージャスな景色が望めることでしょう。

どら焼きにも惹かれたけど、ここは素朴なみたらし団子とほうじ茶で。
食べるのに忙しくならないシンプルなメニューの方が、花を愛でる時間には向いているような。

桜の名所や美しい場所は全国どこにでも、家の近所でもあるものですが、この近衛邸宅跡ののように、雅やかな風情は京都ならではのような気がします。

自然の中から見出されるもの

9月27

bonsai

大徳寺山内の最北にある塔頭・芳春院

現在、伽藍内の拝観はありませんが、2021年より盆栽庭園を開園しています。
看板は立ててあるものの、よっぽど近づかないと気づかないくらい。

受付で目録を受け取り、お庭を一周するように配置された作品の前で立ち止まっては覗き込んだり離れて眺めたり。

大陸から伝わったとされる盆栽は、「自然の中のどこにでもある仏性」の象(かたち)として創作されたものだそうです。
水石(すいせき)とは「山水景情石」の略称で、石を鑑賞する文化のこと。日本古来から伝わるものだとか。

なんの知識も持ち合わせてはいないのですが、盆栽を観るのは好きです。
自然のもたらす曲線美と人の手が加わった力強さが、ルネサンス彫刻を観ているときのような気持ちになるのです。
誰もいない庭園の中で床几に腰掛けていると、お彼岸の涼しい風に、鳥のさえずりと遠くから木魚のやわらかい音が載ってきました。

春にはの作品が置かれ、庭園内の紅葉の木の麓に立てば、開けた空の向うに比叡山も見渡せるので、
これまで訪れてきた寺社とは違う趣のお花見や紅葉狩りができそうです。

有名な戦後武将や茶人、座禅に禅庭、精進料理、月釜。
禅やサムライに興味のある人にとって、大徳寺は見どころの宝庫。
いつ訪れても外国の方がぽつり、ぽつりと歩いています。
きっとこの盆栽庭園もこれから注目されるはず。教えて差し上げたい!

春のうつろい

4月20

10
今年のは雨にも強く、長く楽しめたように思います。

早咲きの河津に始まり、辺りを華やかにする染井吉野に若葉が覗き始めた頃に、枝ぶりまで艶やか枝垂れが花開き始めます。
そしてぽってりと毬のように愛らしい八重桜へと見頃が移りゆく花見も終盤の頃のお楽しみが、散ったの花びらが水面を連なって流れていく花筏。
哲学の道高瀬川など川幅の狭いところに行くと、水面は一面花びらのじゅうたんのようになります。

朝の伏見に降り立ち、「京橋」の脇から降りて東へ川沿いに進み、その先にある伏見十石船の出発地点の方面へ。
川のカーブにさしかかる辺りは、新緑の合間に菜の花や雪柳が呼応するように鮮やか。
ちょうど酒蔵を背に十石船がさざ波を立てながら、レッドカーペットならぬピンクカーペットを進む姿を観る事ができました。
乗船したりゆく船を見かけると、手を振りたくなるのは何故なのでしょうか。カメラを片手に乗客に小さく手を振ると、気付いた方もまた小さく振り返してくれました。

昼間は自転車で青空と半木の道の枝垂れを見上げながら鴨川沿いを走り、夕方には車で大原へ向かいました。
バス停「戸寺」付近の橋から高野川沿いを眺めたときは「ちょっと盛りを過ぎたかな?」と思いましたが、付近を走ってみるとまだ満開のがたくさん花を咲かせていました。
観光地化されていない、里山を遠くに川の両岸を縁取るピンクの霞です。地元の人くらいしか見かけませんでしたが、他にもを求めてはるばる車で来ている人もいるようでした。
日が落ちるのものんびりな週末の夕陽のなか、戸寺ふれあい公園からは子供達の「だるまさんがころんだ」の声が何度も響き渡っていました。

2022年4月20日 | 観光スポット | No Comments »

「日本のあそび」曲水宴

4月11

kyoku
上賀茂神社の渉渓園に一歩踏み入れると、濃厚なお香の香りを感じて思わず振り返ると、山田松香木店が「薫物(たきもの)」をされていました。
薫物の演出は『源氏物語』等の古典文学にも記されており、今年は染殿后藤原明子の「梅花」をもとに、昔ながらの調合方法で調整されたものだそうです。

「ならの小川」からの分水が流れ、木漏れ日の中には客席が設けられ、そよ風に汗ばむ程の陽気も忘れてしまうほどの心地よさ。
受付から開宴までの合間に、たまたま居合わせた和歌をたしなむという方とならの小川の畔に腰かけて、せせらぎの音に耳を傾けながら昼食を取りました。

「五・七・五・七・七」のリズムを持つ短歌と和歌と違いとは。
和歌には型というものがあり、いわゆる「現代短歌」は、明治以降に入ってきたもので、芸術として自我を表現するものだそうです。
令和元年に選ばれた斎王代が十二単の袖を引いて現れると、場が一層華やぎ、客席も色めき立つのが伝わってきます。

薫物は二箇所であり、遮る物の無い開けた庭園であっても、披講の抑揚ある調べに載せるようにリズミカルに濃淡を変えながら香りが漂っていました。
曲水宴は、中国の禊祓の行事が日本流にアレンジされたもので、自然の中に身を置き、香を焚いて雅楽とともに場を盛り上げ、歌を詠む順番さえも羽觴(うしょう)を運ぶ遣水(やりみず)の流れに任せるという、まるで王朝文化への憧れを投影した「日本のあそび」を象徴するような催しでした。

宴の後は、斎王代が境内の斎王の前で美しい立姿をみせてくれました。

京都御苑の梅・桃・桜を同時に観る

3月29

konoe
いよいよのシーズン本番ですね。

いつも早めに満開を迎える京都御苑の糸
小雨の薄暗さの中でも目の覚めるような新緑の芝生の上に、枝を左右に広げて咲き誇る姿を人々が囲む様子は、まるで噴水のようにも見えます。
まさに満開とならん姿の奥に、まだ蕾を抱えた枝垂れの大木が控えており、むしろそちらの瀧が落ちるような枝ぶりに惹かれて、根本まで歩み寄ってしまいました。

近衛邸跡の糸桜が見頃を迎えるタイミングで御苑を歩くと、梅林の梅、桃林の桃、出水広場の等を同時期に楽しむことができます。
花々に見とれるがままに南下していくうちに、大輪の木蓮や、50m以上は続いているかと思われる雪柳など、時を忘れていつまでも歩けそうでした。

ちなみに、新たな休憩所が御苑内に3カ所新設されるそうで現在工事が進められています。
直接尋ねてみたところ、大きな窓一面からの大木を臨める近衛邸跡前の休憩所は、3月31日に開業予定だそうですよ。
間もなくですね!

2022年3月29日 | 観光スポット | 2 Comments »

早咲き、遅咲きの桜を求めて

3月24

yodo
連休中は、毎年一足先に満開を迎える淀の河津を目当てに、今年最初のお花見散歩。
駅前にある淀城址のシンボル・水車も華やかなに囲まれていました。

幼児と乳児連れでしたが、川沿いに延々と連なるの連続に子供達も興奮気味。
所々階段もありますが、ベビーカーを畳まずとも降りられました。

今回はお土産の販売を見かけませんでしたが、小雨上等、持参した食料で乾杯する人もちらほら。
既に葉が出ている木もありますが、花の色が濃いピンク色なので気になりません。
だけでなく菜の花や雪柳、水仙にパンジーなどの色とりどりの景色を背景に、飼い犬の撮影に真剣なグループの姿も。

木々が雨を受け止めてくれるせいか、子供にとっては傘も要らないようです。
いつの間にか、透明なビニール傘には可愛らしいの花びら模様ができていました。
散策路の一部は枝垂れが続くので、ソメイヨシノの盛りが過ぎた頃から再び立ち寄るのもいいかもしれません。

一方、家で競馬予想に真剣になっていた家人は、その日久々の快挙だったそうです。
京都競馬場からほど近い「淀の」パワーが届いたのでしょうか。

2022年3月24日 | 観光スポット | No Comments »

月を観たか?

3月2

ao 西陣の興聖寺。
堀川沿いにあるため、前を通りがかったことのある人も多いかもしれませんが、「京の冬の旅」キャンペーンとしては40年ぶりの公開だそうです。

仏殿の天井に描かれた「雲龍図」、わざわざ螺旋状の石段を降りたところにある「降り蹲踞」、目にも鮮やかな、フィジーの海中写真を襖絵に仕立てた『青波の襖』や四季折々の草花を描いた天井画、茶道織部流の祖でもある武将・古田織部の院号を冠した茶室「雲了庵」と織部の木像など。
「ここまで“映える”お寺だったとは….古田織部が現代に蘇ったら、目を丸くして喜ぶかもしれない。」
などと妄想しながら、景気よくカメラのシャッターをパシャパシャ切っていました(※仏殿や茶室は撮影不可です)。

別の日に訪れていた友人のSNSによって、仏殿に「指月標」と書かれていたことを知りました。
「月を示そうと指をさしても、肝心の月を観ないで指を見る。(目先のことに囚われず遠くを見よ)」との意味だとか。
“映え”を気にして記録に残す、見せることばかりに熱心な自分は、ここで何を受け止めただろうか…。

伽藍を出て門へと帰る途中に、立派な枝垂れの木が佇んでいました。
春本番になれば、きっと見事なの振袖を見せてくれることでしょう。
この先、このお寺が再び一般公開されるのは何年先となるでしょうか。

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