e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

D&DEPARTMENT KYOTO

11月3

d  仏光寺の境内に、デザイナーのナガオカケンメイさんや京都造形芸術大学の学生らがギャラリーを併設したセレクトショップ「D&DEPARTMENT KYOTO」を開店して、もうすぐ一年になろうとしています。
もとは物置として使われていた和合所を改装して販売されている品は、京都の伝統工芸品や調味料、雑貨等、流行や時代に左右されずに愛されてきたものたち。
おそらくどこかのお店で使われていたと思われる岡持ちや木のお盆、昨年営業を終了した「京都国際ホテル」の名前が裏に入ったノリタケの白いお皿、実験用のシャーレに書籍など、新品からアンティークまで、アイデア次第で新たな価値を生み出しそうなわくわく感で満ちていました。
隣のお茶所は、仏光寺で採れたかりんで作ったドリンクや京都の名産を上手くアレンジして取り入れた軽食や甘味が楽しめます。
京都店は、「ロングライフデザイン」をテーマに、物販・飲食・観光を通して地域の「らしさ」を見直す「D&DEPARTMENT」プロジェクトの10 店舗目に当たり、山梨や富山などの他の店舗の情報が掲載されている専用誌もここで読む事ができます。
単なる名産の寄せ集めではなく、セットメニューのお茶や添えられた塩昆布も丁寧に作られていて京都らしさがちきんと感じられ、ショップで見かけた調味料や器も使わており、それが地域の「らしさ」を現代生活に取り込むインスピレーションを与えてくれるので、思わずお茶所から再びショップに戻ってしまったほど。
「防火用」と書かれた赤いバケツを衝動買い。そう、京町家の軒先でよく見かけるアレです。
年末のお掃除用や、傘立てとして使ってみようかな。

心を立体的に表現する水引

10月19

oosima 親戚の結婚を控え、祝儀袋を買いに「大嶋雁金屋」を訪れました。
普段ならデパートや文具店、コンビニでも気軽に求められる物のですが、昔から室町の呉服屋さんご用達の老舗と聞いて、どんな所だろうと好奇心が湧いたためです。
小笠原家から直伝の折型を守る老舗、となると敷居が高いのでは、との心配は無用でした。
ショーウインドーには、職人さんがお遊びで作ったと思われる水引製の、スポーツ選手の人形達が展示されていました。隣にはマジメに作った、こぼれんばかりの梅や松を載せた水引の宝船。お店の方も自然体で、筆耕もお願いしました。
改まった形で結婚祝いをお金で贈る場合は、新郎宛の目録には「松魚(しょうぎょ)」、新婦宛には「五福」と書くそうで、後で調べてみると、それぞれ肴と呉服を表しているそうです。
なお、京都では、お祝いの品を持っていくのは正式には結婚式当日ではなく「大安の日の午前中」と決まっていて、その日のために準備した目録や祝儀袋、袱紗等を並べるとなかなか壮観です。
店内には、立派な光沢を放つ華やかな祝儀袋もあれば、キューピー人形の付いた、ちょっと砕けた楽しい出産祝いの祝儀袋も並べられています。もちろん、どの水引飾りも職人さんの手作業によるもの。
色とりどりの水引の輪っかを自分の飲み物の容器に掛けて目印にできる、ボトルマーカーとしての珍しい商品もありました。
縦に細長い紅白の水引は、マンション住まいの人でも扉に下げるお正月飾りになるかと思い、少々気が早いけれど購入することに。
掛け紙に印刷された水引も一般的になってしまった現代ですが、心を形で表した立体感もまだまだ大切にしていきたいですね。

「音を織り、織りから聞く」

9月24

piano 大徳寺に程近い多目的スペース「遊狐草舎」にて、「織物とピアノ」をテーマとした映像とひょうたん笛、手回しオルゴールとトイピアノの音色を味わう催しがありました。
中国雲南省の徳宏州に暮らすタイ族はその昔、夜に男子が想いを寄せる相手の家の前でひょうたん笛を奏で、女子は機織りの音で自身の人柄を表現したといいます。
織り上がった品は結婚の際にお披露目され、その織目や端の処理の美しさを見て、花嫁の器用さや、どのタイミングで男性が訪れていたのかを推し量るのだとか。
そう語るおばあさん達が織機に腰掛け、両手両足を巧みに動かして独特のリズムを奏でながら織る姿を映像で観ていると、どこかパイプオルガンの演奏光景に似たものを感じます。同様にピアニストの寒川晶子さんも、織り姿がピアノを弾いている様に見えたと話していました。
このテーマに合うとして提供された藤田織物の帯は、今主流の機械では無く職人の手作業で立体的な造形をしており、それを寒川さんが「五線譜に書き込まれた音楽のよう」と表現していたのが、とても腑に落ちました。
作者が空けた穴に応じて、ころころと涼やかな音を響かせる手回しオルゴールもまたしかり。
「演奏会」「音楽会」と聞くとどこかのホールで、観客が身体全体で聴く事に集中するのも好きですが、人の息遣いや虫の声が聞こえてくるような小さな空間で、座布団に腰をおろしながら繊細な音を紡ぎだしたり実験的な試みができるのも、これからのクラシック界に面白い広がりをもたらしてくれるのではないでしょうか。

パスザバトン京都祇園店

8月24

pass 元は料理旅館、その後天ぷら店となっていた祇園新橋にある伝統的建造物が、京都市へ寄贈され、この夏に新感覚のセレクト・リサイクルショップとして再活用される事になりました。
国の重要伝統的建造物群保存地区内の白川沿いに建つこの2階建ての木造建築は、明治時代中期に建てられたといい、保存活用を、との所有者からの意向を受けて「民間の自由な発想で、京都の文化を世界に発信する施設として蘇らせる」事を目的として活用する事業者が初めて公募された例となりました。
この店は「思い出の品」を所有者の思いと共に引き継ぐ人へ橋渡しするというコンセプトで、「安さ」を求めるリサイクルではありませんが、デッドストックとして倉庫等に眠っていた日本各地の陶器と豆菓子を組み合わせた商品(ミニ絵本付き)は、お土産としても、アンティーク入門としても記念に購入できる価格でした。
この店の家賃は、景観保全のための基金にも積み立てられるそうで、売り上げは出品者と店で折半し、出品者が希望すれば児童福祉や環境等に寄付する仕組みも設けられています。
カフェも併設され、内装は随分と現代的に変わってしまった感はありましたが、これも古いものと新しいものを融合させ、受け継いでいく為の良い塩梅を模索する現代の京都の姿でしょうか。
店内にいた外国人旅行者達の目にはどの様に映っていたのか、気になるところです。

西福寺の地獄絵

8月10

saifuku 六道参りで賑わう「六道の辻」。「轆轤町(ろくろちょう)」と呼ばれる地に建つ西福寺にもお精霊を迎える鐘があり、毎年地獄絵が公開されています。
「壇林皇后九想図」は、仏教に深く帰依していた壇林皇后が「諸行無常」の真理を身をもって示すために、自らの亡骸を放置させ、それが膨張し腐敗し鳥獣に啄ばまれてバラバラの骨となり土に還るまでを9段階に分けて描かせたという強烈な伝説が残るもの。
「地獄絵・六道十界図」では、没後49日目に死後の世界で「地獄」「餓鬼」「畜生」「修羅」「人間」「天上」の6つのどの世界に生まれ変わるかの判決が下され、また供養をする事で亡者の罪業を軽くし、阿弥陀三尊来迎仏に導かれて極楽浄土へ行けるという仏教思想の一つを説いています。
思えば、初めて「地獄」というあの世の世界を認識したのは、子供の頃に絵本「じごくのそうべえ」を読んでもらった時でした。
因果応報を説く地獄絵図は、近年子供への躾として再注目されているといい、母も子供の頃に毎年地獄絵を観て、子供ながらに「悪い事をしたらしたら罰が当たる」と感じていたそうです。
「こら、なぶったら(触ったら)あかん」と子供を諭す父親がいる隣で、腰をかがめてまじまじと絵を凝視する大人たち。
この絵図の現物が描かれた当初は、天災や戦で野晒しになった死体を大人も子供も実際に目の当たりにする事もあったかもしれません。
映画やアニメ、動画サイトで幾らでも恐ろしい映像を観る事も、逆に避ける事もできる現代ですが、親や祖父母の手にひかれて眺める地獄絵は、今の子供達にどう映るでしょうか。

美の追求者・北大路魯山人

8月3
画像とイメージです。魯山人展とは関係ありません
画像はイメージです。魯山人展とは関係ありません

 京都国立近代美術館で「北大路魯山人の美 和食の天才」が開催中です。
どの器も、どんな料理をどの様に盛れば映えるだろうか、妄想が膨らむ一方で、お腹が空いてきてしまいます。
傲慢で気難しく毒舌とも評される一方で、家庭の温もりに飢えながらもそれを築いては壊してしまう不器用さ。特に究極の美を追い求めてきた人達は、その強欲さと純粋さ、そして孤独を理解できるからこそ、この複雑怪奇な魯山人を愛する事が出来たのだろうと思います。
そんな美食家が自らをぶつけた作品たちは、豪快な意匠の大鉢や金襴手の繊細な装飾、筆先でこちょこちょと描かれたかわいらしい魚や鳥たち。
彼の生い立ちから始まる波乱万丈な人生やそれが本人の人格に与えた影響を想像した上で観賞した時でも、理屈抜きに純粋に感性だけで向き合った時でも、北大路魯山人が多くの人の興味を惹きつけてやまないのは、彼が生みだした物の根底にどこか無垢なるものを感じられるからではないでしょうか。
会場を見渡した時に目に入る「器は料理の着物」や「持ち味を生かせ」といった言葉もそのまま胸の中にすっと入って来るのです。
今となっては魯山人が腕を振るった料理を食する事ができないのが悔やまれますが、きっとそれらも人間の本能をダイレクトに刺激してくる様なものだったのではないかと想像します。
最後に、この展覧会の出口を出る手前に、ある映像による面白い演出が用意されています。
これを観たらきっと和食を食べに行きたくなるはず。是非ご覧下さい。

宵山能

7月29

benkei 能楽堂嘉祥閣で初めて「宵山能」が開かれ、開場前から長蛇の列を成していました。
祇園祭の山鉾には能を題材としたものが多く、その一つとして記念すべき初回に選ばれたのは、後祭の山鉾巡行で先頭を歩く橋弁慶山の「橋弁慶」です。
「半能」と言う事で、話のクライマックスの部分のみを能で演じ、それまでのあらすじは能楽師・井上裕久さんが鍛え抜かれた声で面白おかしく軽快に解説をして下さいました。
独特の声調記号の付いた謡本を見ながら、子供からお年寄りまで、観客が一緒になって謡ってみるのも初めての体験でした。
「橋弁慶」では、大人が弁慶を、子供が牛若丸の役を演じます。橋掛かリを五条大橋に見立てて対峙する双方それぞれが凛々しく、優雅で美しい立ち回りでした。
大筋は同じですが、文部省唱歌として唄われる「牛若丸」では、悪さをするのが弁慶で、謡曲では牛若丸と逆になっているのが不思議です。
今では小学校でも「牛若丸」を歌わなくなってきているそうですが、「桃太郎」と聞けば鬼退治を、「ロミオとジュリエット」と聞けばバルコニーの場面を思い出す様に、一昔前の人々にとって祇園祭の山鉾は、誰もが知っているお決まりの場面を表現したものであり、能もまた、もっと人々の生活に溶け込んだ身近な存在であったのでしょう。
終演後は、その足で後祭宵山の橋弁慶山を観に行きました。
来年度の「宵山能」のテーマは、能でよく謡われる石清水八幡宮に関連した「八幡山」だそうです。

祇園祭は浴衣で乾杯

7月21

daimaru  祇園祭・前祭の宵山。浴衣に下駄を引っ掛けての晩御飯は二箇所で、それぞれ真逆の風情を楽しみました。
まずは錦市場の中にある魚屋さん「錦大丸」(075-221-3747)。刺身パックの並ぶ冷蔵ケースをぐるりと囲む発砲スチロール箱をテーブルに、ビール瓶のコンテナをイスに据えた即席居酒屋です。
ケースを開いてイカ等の好きな刺身の盛り合わせを選び、お隣さんと肩を並べて冷酒で乾杯。揚げたての鱧の天ぷらや、鯖や鰻の寿司はお店の奥から運ばれて来ます。
もうここ数年、前祭宵山期間のみの定番になっているそうで、愛犬連れの常連さんの姿もありました。
その後は祇園さんの魔力に吸い込まれていくように足取りは八坂神社の方向へ。
ほろ酔いのまま、人影もまばらになった花見小路の奥から祇園甲部歌舞練場へと入り、今度は「祇園 ICHIBAN ビアホール」へ。
行燈の灯りが落ちる赤い絨毯、窓一面にはライトアップされた日本庭園が広がり、四条通りの喧騒が嘘のような静けさでした。
庭園に向けた小さなカップルシートやテーブル席、立ち飲みスペースに、金屏風の奥には、12名程が一同に座れる長テーブルの半個室空間もありました。
冷房の効いた少し薄暗い即席ビアホールで、歩き疲れた足指をゆっくり休ませ、酔い覚ましにお庭の散歩も楽しめました。
同時開催中の「舞妓物語展」、「フェルメール光の王国展」も共に8月31日まで。

「京町家ちおん舎」

7月13

tion ガラスの壺から奏でられる鈴虫の声に招き入れられたのは、三条衣棚を上がったところにある「ちおん舎」。
大店の商家の佇まいを色濃く残す京町家は、すっかり夏のしつらいになっていて、足裏にひんやりと感じる網代や庭から簀戸(すど)を抜ける風、そして眩しい日光を遮る薄暗さが心地良い。
広大な敷地の中には、多目的に使用できる広間や露地や水屋を有する4畳半の茶室、大きなまな板のあるキッチン等様々なスペースがあり、同じ日にそれぞれの空間で複数の催しが行なわれていても、互いを邪魔しない許容量があります。
京町家をイベントスペースとして開放している所はたくさんありますが、特筆すべきはここの催し内容のユニークさでしょうか。
最近の予定だけでも落語会にご近所さんが集うヨガのほか、「重ね煮」という調理法の料理教室や、氷水で点てたお抹茶で楽しむお茶席体験、「星ソムリエ講座」などなど、なんだかどれもひとクセあって気になるものばかり。
防空壕の跡が床から覗ける「J-spiritギャラリー」では、メイドインジャパンの作品を展示販売していて、この大きな京町家全体が、作家(アーティスト・デザイナー)や作り手(メーカー・職人)を育てる家なのですね。
ちなみに、この辺りは祇園祭の後祭の中心地。最も近くには役行者山があります。

京町家で「粋人」を育てる「常の会」

7月6
「常の会」

「常の会」

 身内の内祝いの扇子を買いに、大西常商店の暖簾を初めて潜りました。
美しく調えられた町家の一角に京都らしい色遣いの扇子が咲き並び、品の良さが漂います。
意外に手頃な値段だったので驚きましたが、ここが製造卸のお店だからでしょうか。
もう一つの来店目的が、こちらで初開催された文化イベント「常の会」。
茶室「常扇庵」では、お茶席に不慣れな学生さんも、銘々に浴衣姿でお茶を楽しんでいました。
2階の広間では、能楽師観世流シテ方・田茂井廣道さんが、昼の部では祇園祭の山鉾に関する演目を、夜の部では扇子にちなんで構成された「一福能」を。
能としては珍しくアンコールとして「土蜘蛛」も演じて下さり、盛大に投げられた蜘蛛の糸を観客も喜び被ったまま楽しんでいました。
会が終了した後も多くの人が残り、能楽師さん達のユーモラスで分かりやすいお能と扇、面に関するお話に耳を傾けていました。
こんなに盛りだくさんな内容なのに、参加費2000円で本当にいいんでしょうか?
謡をたしなんでいたという同商店の創業者・大西常次郎さんは、近所の人をこの家集め、毎晩サロンの様に楽しんでいたといいます。
そんな「粋人」が、今後も生まれていきますように。
次回の「常の会」は12月の中旬との事ですが、祇園祭に向けても様々な催しが予定されています。詳しくはお店のフェイスブックをご覧下さい。

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