e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

初めての町家暮らし

6月22

machiya またまた縁あって、今度は北大路にある借家にも滞在していました。
今年の春先から初夏にかけての1か月間、家族で初めての京町家暮らしです。

台所はIHコンロ、寝室はベッドといった、現代人の暮らしに合わせてリノベーションされた町家だったのですが、玄関から入ってすぐの土間だったであろう場所にタイルを敷いたダイニングスペースだったので、食事や走り庭の台所での炊事は靴やつっかけを履き、プライベートな部屋に入る時はそれらを脱ぎます。
動線を考慮した現代向きの造りでは無いので、一日に何度も家の中でつっかけを脱いだり履いたりする必要があります。
昼でも薄暗く、門前の部屋と壺庭に面した窓を開放しておくと風が流れてひんやりと気持ちがいいのですが、底冷えの京の冬ではエアコンだけだと肌寒くなるかもしれません。
台所のシンクの横、おそらく昔なら井戸を置いたと思われる場所に冷蔵庫や洗面台があるので、お風呂を一歩出ると洗面所は無く、脱衣の際には後付けのアコーディオンカーテンで目隠しをします。
階段もとても急勾配で、そんな「ちょっとずつ不便」なところに、妙に町家らしさを感じたりもしました。

駅の方へ歩けば北大路ビブレ(滞在中は1階のみの営業でしたが)や北大路商店街に鴨川、反対側に歩けば新町商店街や児童公園があり、なんでもコンパクトに揃ってとても便利な立地。
2階の床の間のある座敷は余り使う事が無かったのですが、週末の外食の代わりに仕出しを頼んでみたりと、普段通りの生活を送りながらも非日常感を味わえる不思議な感覚。
京都観光リピーターの中で、ホテルでも旅館ウィークリーマンションを選ぶ人達の気持ちが少し分かるような、貴重な体験でした。

2020年6月22日 | 町家 | 1 Comment »

「日本の洋食器」

3月18

okura
週末になるといつも賑わう岡崎公園も、催しが無いせいかひっそりとしていましたが、細見美術館の様子はガラガラに空いているというわけでも混雑しているでもなく、以前とそう変わらない気がしました。
ここは館内が展示室ごとに一旦外に出て移動する設計なので、ちょうど新鮮な空気を吸って良い気分転換ができるのが気持ちいいです。

さて、現在開催中なのが、「華めく洋食器 大倉陶園 100 年の歴史と文化」。
ビジネスよりも、日本が誇れる洋食器文化を発信する事を念頭に置かれた大倉陶園のものづくり。老舗ホテルやレストラン、皇室でも重用されてきました。
そう聞くと優雅な花柄模様を連想しますが、ホテルニューグランドのコーヒーセットの様に、富士山と波を版画の様なシンプルな線と面で表現したものもあります。
生物をリアルに再現した陶彫も製作されており、秋刀魚などの魚はとても珍しい。魚特有のぬめりまで感じられます。

藍色の水彩画のような、透明感のある「岡染」は、観た事がある人も多いかもしれません。
今上天皇(徳仁親王殿下)のお箸初めの儀で使用されたという食器セット一式は「岡染ベアー」と称され、小熊やでんでん太鼓、横笛が描かれていて、思わずこちらの頬が緩みました。
決して外国の真似では終わらないどころか、名立たる海外の名窯にも引けを取らない職人技と美意識が光る「日本の洋食器」の逸品がそこにはありました。

主の息遣いが残る旧宅

9月25

kyutaku
9月末まで展開している「京の夏の旅 文化財特別公開」では、寺社に加えて京町家や旧宅が公開されています。
旧湯本家住宅は、これまでに無かった平安京の通史をまとめた『平安通志』の編纂事業に携わった歴史家・湯本文彦氏の教養が偲ばれる旧宅です。
湯本氏の提案による平安京の実測事業を元に建立された平安神宮は平安遷都千百年紀念祭事業の一つで、その記念品として作られた墨の余った抜き型を、自宅の襖の引き戸に再利用するなど、発想がなんとも数寄者的。
道中のほんの数分程の間に、緑豊かな京都御苑から同志社大学の煉瓦造りのアーモスト館を経て相国寺門前へと景色が目まぐるしく変わり、自宅の庭からも洋館が見えるという、ある意味「京都らしい」立地も、湯本氏が余生を楽しんだ終の住家としてふさわしいものがありました。

そこから京都御苑の中を抜けて、今度は藤野家住宅へと向かいます。
これまで私達が触れてきた「町家」は商家の造りである「表屋造」が多かったように思います。この藤野家住宅は高い塀を構え、住居として建てられた「大塀造」です。
こちらもまた当主が茶の湯を楽しんでいたそうで、茶室が玄関を兼ねているというのも新鮮。また、部屋同士が襖一枚で仕切られているのではなく、廊下が客間と移住空間を隔てているのは京町家としては近代的だとか。
畳をよく見ると、真ん中にほんのり色が異なって見える帯状の部分があります。これは二本のい草を継いで縫った「中継ぎ表」で、京都迎賓館でも見られたものですが、こちらのは機械ではなく職人さんの手による高級品なのだとか。
貴重な畳を傷ませないためか、普段はカーペットでか隠れていたようです。
京の町が時代と共に変わりゆくなか、個人の努力で維持されて来た旧宅や、その歴史的・文化的価値に気付かれないままの旧宅がまだまだあるかもしれませんね。

子供と京町家で「ゆるり茶会」

7月16

yururi
「にゅ、乳児連れでも宜しいでしょうか…?」
「どなたでも、どんな格好でも気軽にどうぞ~」

祇園祭宵山の喧騒より少し東に離れた、「らくたび京町家」の門前。
お言葉に甘えて、「祇園祭・宵山ゆかた茶会」に一歳の子供を茶会デビューさせてしまいました。

この会場は「旧村西家住宅」とも呼ばれ、国指定の登録有形文化財、また京都市指定の景観重要建造物に指定されている築80年超えの京町家で、公開されるようになったのは、ここ最近のこと。
茶会の参加者は銘々に、月見をする為の二畳の部屋や、電気の配線が見えないよう工夫された釣灯籠などを祇園祭にちなんだしつらいの中で見学できます。

され、子供が茶会の最中に退屈して騒ぎださないかと心配していましたが、
祇園祭仕様のお菓子をよばれた後、他の人の膝前にあるお菓子を指差して、
「あーー❗️(もっと食えるで)」
点前座から運ばれる抹茶を指さして、
「あぁああぁあああぁぁあああ❗️(その抹茶を早くよこせ)」
結局、浴衣姿の少女が運んで来てくれた私の分のお薄を、子供が半分以上飲み干してしまい、別の人の分まで欲しがり始めたので退散させました。
大人ばかりで退屈というよりも、むしろ本人なりに楽しかったようです。
この宵山の茶会は16日の20時半までです。

師から弟子へ。親から子へ。

7月3

asagi
子供用に注文していた「アサギ椀」がようやく完成したとの連絡があり、受け取りがてら塗師の西村圭功さんの新しい工房を見せて頂く事にしました。
前回お邪魔した鞍馬口の京町家の工房ではなく、新大宮商店街に構えたという「新工房」へ…て、看板も何も無い、元呉服店の名残りのショーウインドウがシャッターの間から覗いている古い建物でした。

見た事の無い道具ばかりで、長い人毛を板で挟みカットしては繰り返し使える刷毛はアイデアもの、木地を削るためのロクロには、ミシンの様なペダルが付いています。
それぞれの工房での分業が当たり前の業界ですが、それをここに集約する事で後継者を育てているのです。
休日だったため、他の職人さん達が作業する様子は見られませんでしたが、お弟子さんが作ったアサギ椀を掌ですくい上げて見ます。
覗き込んだ椀の底に、うっすら刷毛目が濡れたような光沢をたたえます。大量生産品にはみられないこだわり。
漆器作りは、日々変動する気候に応じて使う漆の配合を変えたり、乾燥庫に濡れたふきんを入れて湿度を微調節し、15分ごとに様子をみたり。
それはもう気の遠くなるような手のかかりようで、「好きでなければできないだろうな…」の一言です。

さて翌朝、アサギ椀におすましを入れ、1歳の子供に出してみました。
小さな手では上手く扱えなくてひっくり返さないか、恐る恐る様子をみていましたが、片手で縁を掴んでからもう片方の手を添えたり、腕を伸ばして両手で持ってみたり、意外に上手に持つ事ができました。
成長の具合にもよるのでしょうが、プラスチックの食器を使っていた時は、少々置き方も乱雑でした。いつもより薄い縁に触れた事で、無意識に扱い方を少し変えたのでしょうか。
漆器の手触り、重さ、薄さ、色。小さな指で何か感じ取ってくれているかな。

なお、祇園にあるデザインスタジオ「スフェラ」では、西村圭功さん他「京都の4人のクラフトマン」に焦点を当てた展覧会が7/28(日)まで行われています。

駅近の山荘・白龍園

6月5

haku  
京都通あるいはリピーターの中で、紅葉の名所は新緑の季節にこそ訪れるのが鉄則です。
秋の特別拝観で人気急上昇中の白龍園も、初夏に傾き始めたこの季節は、とても静かでした。
時折は叡電の車輪の音こそすれ、聞こえてくるのは、鳥のさえずり、水流、庭を手入れする鋏の音、自分の足音。
所有するアパレルメーカーが、その土地の神を祀り手作りで庭園を創り上げ、数年前まで顧客に対してのみ公開していたそうです。
つつじの盛りは過ぎていますが、あちこちの蹲や東屋の花入れに可憐な花が生けられ、おもてなしが感じられました。
園の向かいにある「河鹿荘」はぜひ併せて立ち寄ってみてください。
囲炉裏が二つある古民家の風情で、喉を潤しながら外の新緑を眺められます。
冬になると、子供連れのお客には、灰吹きを体験させたりする事もあるそうですよ。
白龍園、河鹿荘ともに、二ノ瀬駅からから徒歩7分という立地ながら、山深い集落を訪れたかのような錯覚は、京都市の真ん中では味わえない魅力です。
白龍園に入るには、通常は出町柳駅にて拝観券を購入する必要がありますが、この春は白龍園でも拝観券を販売しています。

ミステリアス西陣

3月6

hina
糸問屋や織物商が立ち並び、一日に千両が動くほどの売買で活気づいていたと言われる「千両ヶ辻」こと今出川大宮界隈で、ひな祭りが行われていました。

京都を撮り続ける写真家として知らない人はいない、水野克比古さんの「町家写真館」もあり、時代ごとのひな人形や写真集だけでなく、古き良き町家の典型の様な佇まいが人気でした。
南北約500m程の距離を歩いただけなのに、京町家を改装したカフェや織物商の事務所、ゲストハウスの予定地、アンティークショップ、旅館にシェアハウスなどが点在し、合間の細い小道では、子供達がブレイブボードの練習をするなど、様々な現代の西陣の形が見えてきました。
その地に住まう人々しか踏み入る事のできない、奥行きの細い路地が、幾つもの家と家の隙間から垣間見えます。
西陣の人にとっては、「生活空間やし、見せるようなもんやない」と思っているかもしれません。ですが、「よそ者」にとっては、もっと奥へ進み素顔の京都をみてみたいという関心を掻き立てるミステリアスな境界が残された町でした。
この西陣界隈では、25日まで様々な催しが展開されています。

子供に帰れる場所

1月29

tate
西陣の築100年の町家の2階に上がると、ゴジラが立っていました。
怪獣やなつかしのヒーローもの、ロボットに最新アニメのフィギュアなど3000体を越える個人のコレクション)「京都西陣たてくんミュージアム!」です。
もとは各国の外国人からじわじわと支持されていたのが、ここ最近急激に日本人の訪問が増え、なんと、海洋堂の社長も訪れたとか。
「赤影」や「ロボコン 」「ドラゴンボール」、「進撃の巨人」「ラブライブ!」など、オーナーの「たてくん」の人生をなぞるように、幅広い世代・国籍の人が楽しめて、なにより展示の仕方に愛と感じます。
オーナーのお母様に、「息子が大人になってもフィギュアに夢中で、不安になった事は無かったですか?」と失礼ながら尋ねてみたら、「酒もタバコもしない。誰にも迷惑かけてないし、自分でアルバイトを3つも掛け持ちして、改装まで本人がやったんですよ。」と、そのおだやかな口調には誇りすら感じ取れました。
外の入り口のテントには、亡きお父様と経営していた旅行会社の名残りが。
「これからは、海外から来た人をここで楽しませたい」とのこと。
西陣織の着物を身にまとったスターウォーズのヨーダは、世界平和を願うスペースに祀られています。
国同士のいざこざなんてなんのその、言葉や国境を軽く飛び越えて人々を繋いでしまうサブカルチャーの力を信じましょう。
帰り際、お母様に小さなお菓子を頂き、なんだかおばあちゃんにお小遣いをもらったような、懐かしい気持ちになりました。

西陣の町の息遣い

11月13

miyako
生活スタイルの変化や相続、様々な事情で減りつつある京町家。
その建築物を外からの照明で煌々と照らすのではなく、地域住民の協力のもとで町家の内から外の通りに向けて照らし、家々の格子からもれだす「暮らしの灯り」を表現したライトアップイベントが「都ライト」です(今年度は11日で終了しました)。
ビロードを活かした着物のお手入れグッズの製作体験も行っている「天鵞絨(びろーど)美術館」や、かつて北野界隈を走っていたチンチン電車の映像を投影している翔鸞公園、機織りが並び普段は手織り体験もできる「奏絲綴苑」、そして、上七軒の名の由来となった7つの茶店のうちの一つと言われている元お茶屋を巡りました。
虫養いとして、地ビールや甘酒、コーヒーや麺類を提供するスポットも点在しています。
会場間は徒歩数分程ですが、住宅地を通る際、辺りはわずかな道案内の行燈のみで殆ど真っ暗なのですが、子供が母親を呼びかける声が家から聞こえてきたり、犬の散歩で立ち話をする声や通り過ぎる自転車のライトの音、じょうろを片手に路地へと消えてゆく人の姿など、西陣に住まう人々の息遣いがリアルに感じられました。
京都暮らしが長いとは言え慣れない町でもあり、幾つかの角で配布されているパンフレットの地図を手に見回していると、主催の学生さんが気にかけて歩み寄ってくれました。
今年で14回目を迎えた「都ライト」。嵐山や東山の「花灯路」イベントと同じくらい前から京都の大学生らの手によって引き継がれてきました。
京都らしい写真映えがするライトアップイベントのさきがけだと言えますね。

羽ばたくための巣「あじき路地」

9月19

suzume
浴衣の舞妓さんの後ろ姿を眺めながら、「あじき路地」へと向かいました。
築100年超えとされる町家長屋の各部屋に若手作家が住み込み、それぞれ創作活動や主に週末に販売をしています。入居は若き職人や作家を応援する大家さんとの面談で決まり、家族の様な距離感で知られています。中には独立して店舗を構えるために巣立っていった住人もいるそうです。
それゆえお店は入れ替わりも多く、訪れた当時はちょうどその時期で空いている店舗が限られていましたが、ここは作業場に展示販売スペースが付随しているものと考えた方が良さそうです。玄関がどこも狭いのは、昔の日本人サイズに合わせてのことでしょう。
手作業の皮製品のお店「MATSUSHIMA」では、皮ごと、値段ごとの違い等を教えてもらいました。スマートフォンケースや時計のベルトもオーダーメイドでき、また製作教室も開催されているようです。
オーダー専門の帽子店「evo-see」では自由に試着でき、なぜか近くのコーヒースタンドも教えてもらいました。
手製の本と紙の小物を扱う「すずめ家」では、和綴じの小さなノートに目が留まりました。
お洒落なノートは心躍るけど、結局勿体なくてろくに使いきれないまま家で眠ってしまうかも…としばし迷いました。しかし、ふと友人が飲食店でぐずる子供に小さなスケッチブックと色鉛筆を渡していた事を思い出し、その子の分と、古典芸能が好きな知人のためにも、お土産にする事にしました。
鴨川を隔てた反対側は四条河原町、あらゆる人の欲求に応える繁華街です。そしてこちら側は、好きなことを仕事にしている人たちの、職住一体の静かな町でした。

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