e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

子供と京町家で「ゆるり茶会」

7月16

yururi
「にゅ、乳児連れでも宜しいでしょうか…?」
「どなたでも、どんな格好でも気軽にどうぞ~」

祇園祭宵山の喧騒より少し東に離れた、「らくたび京町家」の門前。
お言葉に甘えて、「祇園祭・宵山ゆかた茶会」に一歳の子供を茶会デビューさせてしまいました。

この会場は「旧村西家住宅」とも呼ばれ、国指定の登録有形文化財、また京都市指定の景観重要建造物に指定されている築80年超えの京町家で、公開されるようになったのは、ここ最近のこと。
茶会の参加者は銘々に、月見をする為の二畳の部屋や、電気の配線が見えないよう工夫された釣灯籠などを祇園祭にちなんだしつらいの中で見学できます。

され、子供が茶会の最中に退屈して騒ぎださないかと心配していましたが、
祇園祭仕様のお菓子をよばれた後、他の人の膝前にあるお菓子を指差して、
「あーー❗️(もっと食えるで)」
点前座から運ばれる抹茶を指さして、
「あぁああぁあああぁぁあああ❗️(その抹茶を早くよこせ)」
結局、浴衣姿の少女が運んで来てくれた私の分のお薄を、子供が半分以上飲み干してしまい、別の人の分まで欲しがり始めたので退散させました。
大人ばかりで退屈というよりも、むしろ本人なりに楽しかったようです。
この宵山の茶会は16日の20時半までです。

師から弟子へ。親から子へ。

7月3

asagi
子供用に注文していた「アサギ椀」がようやく完成したとの連絡があり、受け取りがてら塗師の西村圭功さんの新しい工房を見せて頂く事にしました。
前回お邪魔した鞍馬口の京町家の工房ではなく、新大宮商店街に構えたという「新工房」へ…て、看板も何も無い、元呉服店の名残りのショーウインドウがシャッターの間から覗いている古い建物でした。

見た事の無い道具ばかりで、長い人毛を板で挟みカットしては繰り返し使える刷毛はアイデアもの、木地を削るためのロクロには、ミシンの様なペダルが付いています。
それぞれの工房での分業が当たり前の業界ですが、それをここに集約する事で後継者を育てているのです。
休日だったため、他の職人さん達が作業する様子は見られませんでしたが、お弟子さんが作ったアサギ椀を掌ですくい上げて見ます。
覗き込んだ椀の底に、うっすら刷毛目が濡れたような光沢をたたえます。大量生産品にはみられないこだわり。
漆器作りは、日々変動する気候に応じて使う漆の配合を変えたり、乾燥庫に濡れたふきんを入れて湿度を微調節し、15分ごとに様子をみたり。
それはもう気の遠くなるような手のかかりようで、「好きでなければできないだろうな…」の一言です。

さて翌朝、アサギ椀におすましを入れ、1歳の子供に出してみました。
小さな手では上手く扱えなくてひっくり返さないか、恐る恐る様子をみていましたが、片手で縁を掴んでからもう片方の手を添えたり、腕を伸ばして両手で持ってみたり、意外に上手に持つ事ができました。
成長の具合にもよるのでしょうが、プラスチックの食器を使っていた時は、少々置き方も乱雑でした。いつもより薄い縁に触れた事で、無意識に扱い方を少し変えたのでしょうか。
漆器の手触り、重さ、薄さ、色。小さな指で何か感じ取ってくれているかな。

なお、祇園にあるデザインスタジオ「スフェラ」では、西村圭功さん他「京都の4人のクラフトマン」に焦点を当てた展覧会が7/28(日)まで行われています。

駅近の山荘・白龍園

6月5

haku  
京都通あるいはリピーターの中で、紅葉の名所は新緑の季節にこそ訪れるのが鉄則です。
秋の特別拝観で人気急上昇中の白龍園も、初夏に傾き始めたこの季節は、とても静かでした。
時折は叡電の車輪の音こそすれ、聞こえてくるのは、鳥のさえずり、水流、庭を手入れする鋏の音、自分の足音。
所有するアパレルメーカーが、その土地の神を祀り手作りで庭園を創り上げ、数年前まで顧客に対してのみ公開していたそうです。
つつじの盛りは過ぎていますが、あちこちの蹲や東屋の花入れに可憐な花が生けられ、おもてなしが感じられました。
園の向かいにある「河鹿荘」はぜひ併せて立ち寄ってみてください。
囲炉裏が二つある古民家の風情で、喉を潤しながら外の新緑を眺められます。
冬になると、子供連れのお客には、灰吹きを体験させたりする事もあるそうですよ。
白龍園、河鹿荘ともに、二ノ瀬駅からから徒歩7分という立地ながら、山深い集落を訪れたかのような錯覚は、京都市の真ん中では味わえない魅力です。
白龍園に入るには、通常は出町柳駅にて拝観券を購入する必要がありますが、この春は白龍園でも拝観券を販売しています。

ミステリアス西陣

3月6

hina
糸問屋や織物商が立ち並び、一日に千両が動くほどの売買で活気づいていたと言われる「千両ヶ辻」こと今出川大宮界隈で、ひな祭りが行われていました。

京都を撮り続ける写真家として知らない人はいない、水野克比古さんの「町家写真館」もあり、時代ごとのひな人形や写真集だけでなく、古き良き町家の典型の様な佇まいが人気でした。
南北約500m程の距離を歩いただけなのに、京町家を改装したカフェや織物商の事務所、ゲストハウスの予定地、アンティークショップ、旅館にシェアハウスなどが点在し、合間の細い小道では、子供達がブレイブボードの練習をするなど、様々な現代の西陣の形が見えてきました。
その地に住まう人々しか踏み入る事のできない、奥行きの細い路地が、幾つもの家と家の隙間から垣間見えます。
西陣の人にとっては、「生活空間やし、見せるようなもんやない」と思っているかもしれません。ですが、「よそ者」にとっては、もっと奥へ進み素顔の京都をみてみたいという関心を掻き立てるミステリアスな境界が残された町でした。
この西陣界隈では、25日まで様々な催しが展開されています。

子供に帰れる場所

1月29

tate
西陣の築100年の町家の2階に上がると、ゴジラが立っていました。
怪獣やなつかしのヒーローもの、ロボットに最新アニメのフィギュアなど3000体を越える個人のコレクション)「京都西陣たてくんミュージアム!」です。
もとは各国の外国人からじわじわと支持されていたのが、ここ最近急激に日本人の訪問が増え、なんと、海洋堂の社長も訪れたとか。
「赤影」や「ロボコン 」「ドラゴンボール」、「進撃の巨人」「ラブライブ!」など、オーナーの「たてくん」の人生をなぞるように、幅広い世代・国籍の人が楽しめて、なにより展示の仕方に愛と感じます。
オーナーのお母様に、「息子が大人になってもフィギュアに夢中で、不安になった事は無かったですか?」と失礼ながら尋ねてみたら、「酒もタバコもしない。誰にも迷惑かけてないし、自分でアルバイトを3つも掛け持ちして、改装まで本人がやったんですよ。」と、そのおだやかな口調には誇りすら感じ取れました。
外の入り口のテントには、亡きお父様と経営していた旅行会社の名残りが。
「これからは、海外から来た人をここで楽しませたい」とのこと。
西陣織の着物を身にまとったスターウォーズのヨーダは、世界平和を願うスペースに祀られています。
国同士のいざこざなんてなんのその、言葉や国境を軽く飛び越えて人々を繋いでしまうサブカルチャーの力を信じましょう。
帰り際、お母様に小さなお菓子を頂き、なんだかおばあちゃんにお小遣いをもらったような、懐かしい気持ちになりました。

西陣の町の息遣い

11月13

miyako
生活スタイルの変化や相続、様々な事情で減りつつある京町家。
その建築物を外からの照明で煌々と照らすのではなく、地域住民の協力のもとで町家の内から外の通りに向けて照らし、家々の格子からもれだす「暮らしの灯り」を表現したライトアップイベントが「都ライト」です(今年度は11日で終了しました)。
ビロードを活かした着物のお手入れグッズの製作体験も行っている「天鵞絨(びろーど)美術館」や、かつて北野界隈を走っていたチンチン電車の映像を投影している翔鸞公園、機織りが並び普段は手織り体験もできる「奏絲綴苑」、そして、上七軒の名の由来となった7つの茶店のうちの一つと言われている元お茶屋を巡りました。
虫養いとして、地ビールや甘酒、コーヒーや麺類を提供するスポットも点在しています。
会場間は徒歩数分程ですが、住宅地を通る際、辺りはわずかな道案内の行燈のみで殆ど真っ暗なのですが、子供が母親を呼びかける声が家から聞こえてきたり、犬の散歩で立ち話をする声や通り過ぎる自転車のライトの音、じょうろを片手に路地へと消えてゆく人の姿など、西陣に住まう人々の息遣いがリアルに感じられました。
京都暮らしが長いとは言え慣れない町でもあり、幾つかの角で配布されているパンフレットの地図を手に見回していると、主催の学生さんが気にかけて歩み寄ってくれました。
今年で14回目を迎えた「都ライト」。嵐山や東山の「花灯路」イベントと同じくらい前から京都の大学生らの手によって引き継がれてきました。
京都らしい写真映えがするライトアップイベントのさきがけだと言えますね。

羽ばたくための巣「あじき路地」

9月19

suzume
浴衣の舞妓さんの後ろ姿を眺めながら、「あじき路地」へと向かいました。
築100年超えとされる町家長屋の各部屋に若手作家が住み込み、それぞれ創作活動や主に週末に販売をしています。入居は若き職人や作家を応援する大家さんとの面談で決まり、家族の様な距離感で知られています。中には独立して店舗を構えるために巣立っていった住人もいるそうです。
それゆえお店は入れ替わりも多く、訪れた当時はちょうどその時期で空いている店舗が限られていましたが、ここは作業場に展示販売スペースが付随しているものと考えた方が良さそうです。玄関がどこも狭いのは、昔の日本人サイズに合わせてのことでしょう。
手作業の皮製品のお店「MATSUSHIMA」では、皮ごと、値段ごとの違い等を教えてもらいました。スマートフォンケースや時計のベルトもオーダーメイドでき、また製作教室も開催されているようです。
オーダー専門の帽子店「evo-see」では自由に試着でき、なぜか近くのコーヒースタンドも教えてもらいました。
手製の本と紙の小物を扱う「すずめ家」では、和綴じの小さなノートに目が留まりました。
お洒落なノートは心躍るけど、結局勿体なくてろくに使いきれないまま家で眠ってしまうかも…としばし迷いました。しかし、ふと友人が飲食店でぐずる子供に小さなスケッチブックと色鉛筆を渡していた事を思い出し、その子の分と、古典芸能が好きな知人のためにも、お土産にする事にしました。
鴨川を隔てた反対側は四条河原町、あらゆる人の欲求に応える繁華街です。そしてこちら側は、好きなことを仕事にしている人たちの、職住一体の静かな町でした。

五条の楽園は今

9月10

5jo 高瀬川沿いの五条より南の辺りは、10年程前まで「五条楽園」との看板のかかった現役の遊郭でした。
現在は、お茶屋だった町家やビルを改装したゲストハウスやカフェ等ができてきて、様変わりしつつあるようです。

その界隈の中にあるのが「五条モール」。名前から連想するようなイオン系列でもないし、好立地で年末年始も休まず営業しているような大規模な商業施設でもありません。
昭和の香りを残す建物の中の各小部屋を若手アーティスト達がそれぞれのペースで営業し、個性を発信しています。
人の気配があるようで無い入り口に足を踏み入れるとすぐに現れるタイルの流し。棚の昆布茶に貼られた「飲んでいいよ!」の文字は誰に対してのものでしょうか。
きしむ床板を踏みしめながら、ギャラリーや雑貨店、作家が不在のアニメーション作品を見て回ります。
一角に置いてある絵本のタイトルは『ピーマンのにくづめだったもののはなし』。 アート好きな人でなければ「ここに来て自分は何を一体すればいいんだ!?」と戸惑うかもしれません。
各店舗は主に週末に開いているようなので、週末やイベントが開催中の間で、「すなっくごっこ えでん」が営業を始める頃合いに訪れるのがおすすめです。

日本人の知らない日本語

7月31

machi
特に読書家というわけではないのですが、書店でもインターネットでも古本を購入したことがあります。
欲しい本が書店に無いとき、また自発的に探すときにネットの利便性に頼りますが、本の方から語りかけてくるような感覚があるのは新書のある書店、より思いがけない出会いがあるのは古書を扱う蚤の市や古書店、図書館の方が多い気がしませんか?
まちライブラリー」という全国に展開している私設図書館をご存じでしょうか。
京都府内にもあり、友禅工場や京町家の一角にも設けられているようです。
画像の図書は京都府外の地域で借りたものですが、『懐石サントリー』なる珍しい題名がすぐに目に着き、一周回っても気になったので手に取ることになりました。
もはやサントリーにも淡交社にもおそらくこの本について知る人は少ないのでは。
ウイスキーの傍らに置いて楽しむ懐石の献立や花を季節毎に紹介しているもので、これだけ四季の移ろいを細分化して繊細に楽しむ文化を持つ民族は日本人だけではないかと感じました。
普段「物語を熟読する」よりも「記事を斜め読み」しがちな毎日において、未知の言葉の表現に触れられるのもまた、書物ならでは。
私達には、まだまだ知らない日本語がたくさんあります。
ちょうど五山の送り火の頃に糺の森でも「納涼古本まつり」が行われます。
暑さ指数を目で追うより、心潤すことばを探しませんか。

歴史・文化・交流の家 長谷川家住宅

5月29

hase
地下鉄烏丸線「九条」駅または「十条」駅より徒歩約10分。東九条にある「長谷川家住宅」は、275年の歴史を持つ国の登録有形文化財でありながらまだ余り知られていませんが、幕末の禁門の変の際に会津軍の幹部が滞在した名残りや、珍しい古地図や古美術もあり、非常に見どころの多い観光スポットです。
少し前まで実際に生活が営まれていた農家住宅であり、11代当主だった画家・長谷川良雄氏の娘さんが、現在は水彩画のギャラリーの運営と並行して手織り教室をされています。
テレビが隠せる扉や、おくどさんの裏側にIHコンロがあったりと、これまで観光してきた京町家とは違って、経年の趣と現代生活が入り混じったリアル感が、かえって親しみやすく、個性的です。
ギャラリーや床の間のしつらいも季節によって変えられているのですが、5月という事で貴重な檜の兜や、神功皇后とその子・応神天皇の人形、神馬など、ここでも鎧兜とは違う貴重なものが飾られていました。
やはりこれだけの規模の屋敷や庭を維持改修するためには、コンサートや古文書研究会等を企画だけではまだまだ赤字なのだそうで、「いつまでできるか…」と話されていました。
クラウドファンディングも間もなく締め切りを迎えますが、存続のためにはここの知名度が上がるまで、もうしばらく延長してもらいたいところです。
京都市内でも余り馴染みの無いエリアですが、駐車場は4台分あるので、事前に問い合わせれば車での来場もできます。
なお、7月2日や9月29日にも関連講演会とまち歩きがあるそうです。

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