e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

何度でも生まれ変わろう

12月22

ao
宇治市縣神社をモデルにした小説『碧天(あおきみそら)~鎮魂の巻~』を読みました。
フィクションではありますが、「深夜の奇祭」についての詳細な表現や、普段は伺い知れない神社の裏方の様子、またおみくじの読み方や神社でご奉仕する人達の袴の色や形について、神様へのお供えものについて等、読み進めながら豆知識も増えていきます。

「サーダカウマリ(性高生まれ)」「カミダーリ(神障り)」という精神障害に係わる沖縄由来の言葉も初めて知りましたが、心を患う人、規範の社会の枠組みに生きづらさを感じている人の姿は、目まぐるしい現代社会に生きる私達にとって決して遠い存在ではありません。
心が潰れてしまう前に、周りもできることは無かったのだろうか、と感じてしまう事件も後を絶ちません。
元来は無垢な人間が、世間で生きてゆくなかで、様々な気負いや気遣いを背負わされて、次第に気力が弱ってゆき、心の病気や体の苦しみとして現れる。
“穢れ”とはそういう気持ちの萎えてしまった状態なのではないか。その状態を追い出して新しい気持ちの満ちた状態に持ってゆくことができれば、苦しみも徐々に癒されていくのではないかと、宮司は作中で語ります。
神様と人との間を取り持つ職業として、また女性だからこその目線で紡がれた物語で、作中には和歌や旧約聖書からの言葉も引用されています。
『何を守るより、まず自分の“心”を守れ そこに“いのちの源”がある』。

特別な宗教観は無くても、人はなぜか祈りの場に足を運びます。
日常から少し離れ、気分だけでもリセットしたいという欲求が心のどこかにあり、そのきっかけとなるのが「祭」なのでしょう。

この作品が出版されたのは今年の夏、最初に書き上げられたのは今から遡る事18年前のことだそうですが、奇しくも、筆者の大島菊代さんは縁あって現在、縣神社の禰宜を務めています。
おうちの近くの氏神さん、もしくはどこか気になるお社を訪れてみてはいかがでしょうか。

一コマが語る物語

6月15

dora
以前伺ったカフェの床の間に、漫画『ドラえもん』の原稿の一部が額装されていました。
珍しいなぁと思っていたら、後に四条河原町下ル東側にある「寿ビルディング」5階の「TOBICHI京都」で「ドラえもん1コマ拡大鑑賞展」が開催されることに。

しずかちゃんの全身が描かれたコマが出迎える入り口には、開店前から数組が心待ちにしている様子。
国内外に大ヒットしている日本の漫画は数あれど、あらゆる世代の人が主要キャラクターの名前や性格まで知っている作品は稀有だと思いませんか。

油絵作品なら塗り重ねられた絵の具の盛り上がりが見えるものですが、こちらは漫画の原画の一部を拡大しているため、写植をする前の鉛筆書きのセリフや、ベタ(墨)塗りの筆跡まで、創作の息遣いが残ります。
つるつるの単行本のページを眺めるのとは違い、まるで出来上がったばかりの原稿をポップアートや線描画のようにも見える魅力がこの企画の狙いなのでしょう。

お楽しみの心ときめくグッズも多数あり、名言を吐いた吹き出しのあるコマをたくさんコラージュしたハンカチを買いました。

「なやんでるひまに、ひとつでもやりなよ」
「いっぺんでいいから 本気でなやんでみろ!!」
「せきたてちゃだめだよ。それぞれ自分のペースがあるんだから。」
「未来なんて ちょっとしたはずみでどんどんかわるから。」

アニメしか観ていなかった幼い頃は「ドラえもんってのび太くんを駄目にするくらい過保護やなぁ。」と呆れた事もありましたが、誰しも「やれやれ、世話の焼ける」と肩をすくめながらも寄り添ってくれる存在が幾つになっても欲しいものなのかも。
厳選された一コマが収められた話が収録された単行本も読みたくなるし、激励したい人にこの名言ハンカチを贈れば、まじまじと見入ってしまう事受け合いです。

言の葉を集めて

9月16

souyu
前回お話したコテージの部屋の隅に、さりげなく小冊子が並べられていました。

『桑兪(そうゆ)』と読むそうで、誰もが知る京都の料亭「和久傳」 が発行しているもの。
京丹波は和久傳の創業の地でもあります。もう随分前の創刊のようですが、これまでその存在を知りませんでした。
文筆家・白洲信哉氏や臨済宗相国寺派管長の有馬賴底氏といった錚々たるメンバーによる、いわばエッセイ集です。

「兪」とは楡(ニレ)の木の事で、桑も楡も糸や紙の原料となる植物だそうです。
いわば、この冊子は言の葉の、あるいは言葉という形となる以前の記憶の粒子の集合体と言えるでしょう。

SNSを開けばコメントが付き、掌のスマートフォンや乗り込んだタクシーのモニター画面からは新着ニュースや広告が表示され、動画を再生すればテロップが流れる。
日々言葉の洪水にさらされていながら、私達の「ことば」は果たして深化しているのでしょうか。
物書きをする身として自分の語彙力や人生経験の少なさを改めて実感し、こんな文章を自分も綴る事ができたらと思いながら閉じました。

短い滞在で一部しか目を通せなかったのですが、短編集なので読書離れしていた人にも好きなところから読み進めやすいかもしれません。
京丹後市にある「和久傳ノ森」のレストランや、オンラインショップでも購入できます。

日本の粋は細部に宿る

3月13

geihin
子供の頃、テレビで東京の迎賓館赤坂離宮の映像を観て、「どうして日本の迎賓館なのに、外国の建物みたいなんだろう」とほのかに疑問に思っていました。
2005年に完成し、2016年より通年公開となった京都迎賓館は、京の匠の技と現代の先端技術の調和によって、日本人の美意識を形に表す存在となっています。
他国の宮殿に比べると、一見シンプルな平屋作りに感じますが、扉から天井まで綺麗に揃えられた木目や12メートルの漆塗りの一枚板の座卓、末永く使えるよう意匠がリバーシブルになっている竹垣など、細部や見えないところに贅が尽くされ「庭屋一如」となっているところがなんとも日本的です。
庭園の傍らには、新婚旅行で来日したブータン国王夫妻が初めて乗られたという和舟が浮かび、橋を境に深さが異なる池には、地震の被害を受けた新潟中越から買い受けたという錦鯉が彩りを添えています。
和食会棟の屋根は純和風の瓦に見えますが、実はニッケルとステンレスの複合材が使われ、周りの景色に溶け込んでいました。
詳細は、迎賓館地下で販売されている公式グッズの中の書籍にもあり、他にも五七桐紋をあしらった懐紙やあぶら取り紙などもありました。
特に今は、天皇陛下在位30年を慶祝して、特別展が行われており、天皇皇后両陛下、皇太子迎賓館赤坂離宮同妃両殿下のご成婚やご即位の際の衣装の反物やパネルが展示してあり、京都のあちこちで時代物のお雛様が飾られている中で、こちらに展示してある写真はまるでリアルお雛様のようです。
天皇にのみ着用が許されているという「黄櫨染」の色の袍の反物も展示されており、つい先日12日に行われた「期日奉告の儀」でも着用されていました。
各所で写真撮影をする時間も十分にあり、「御即位30年記念京都御所特別公開」 も始まっているので、ぜひ、ガイドツアー方式(3月19日まで)もしくは公式アプリ利用での見学をおすすめします。

島津家と相国寺と田辺製薬

1月16

houkou
京の冬の旅」で公開されている相国寺林光院と豊光寺を初めて訪れました。
龍の気配を察して片目を開いている猫の姿がユニークな龍虎図ならぬ「猫虎図」や、襖絵としては珍しくリスが描かれている林光院
関ヶ原の戦いの際、敗れた西軍に属していた島津義弘を大阪の豪商・田辺屋今井道與が庇護し、薩摩への逃避行を海路で誘導した功により薩摩藩の秘伝調薬方の伝授を許され、これが現在の田辺製薬(現田辺三菱製薬)の始まりなのだそうです。
後に道與の嫡孫が林光院の五世住職となり、林光院は薩摩藩が京都に作られるきっかけの寺院となりました。
豊臣秀吉の追善のため創立された豊光寺では、富岡鉄斎が碑文を書いたという「退耕塔」や葉書の語源となった「多羅葉(たらよう)」の木、山岡鉄舟の書等があります。
山岡鉄舟は剣や書の達人として知られ、獨園和尚のもとで禅修行にも励み、江戸城の無血開城にも関わった人物です。
いずれも、「鶯宿梅」の咲く頃に拝観されるとより楽しみが増しそうです。
「明治維新150年記念」と「西郷隆盛」のテーマに沿って、よりマニアックに町巡りをしたい人には、「龍馬伝 京都幕末地図本」がおすすめです。

「京都ぎらい」

5月10

krai 大型連休の間、京都を訪れた方々の感想はいかがでしたでしょうか?
この町を愛してはいるけれどで、雅やかな千年の都を謳う風潮には食傷気味。そこに現れた話題の新書「京都嫌い」を手に取られた方も多いことでしょう。
地域間による差別意識は京都に限った事では無いそうですが、そういえば自らも「あの店、和風にしてるけど東京資本やで」「京都出身なんや?京都のどのへん?」と言ってしまったことが…。
悪気無いつもりでも相手には不愉快に聞こえてしまったのだろうか、それとも自分にも井の中の蛙の如く感情が無意識に横たわっていたのだろうか、とわが身を振り返ってみたり。
京都生まれの京都育ちとはいえ、「洛中」の人間ではないためか、いわゆる京都の「田の字地区」にある古い町家を予約して取材訪問した際に、なんだか微妙な心持ちになった事も確かにありました(しかも掲載許可が下りず無駄足に終わりました…。)。
筆者の前書きにもある通り、読後の評価は分かれるかもしれませんが、これは「京都を冒涜するなんてけしからん!」と角を出すよりも、「なんだ愚痴じゃないか」と笑って楽しむものだと思います。
これまでの京都の花柳界や伝統技術を守って来たパトロンは誰か、過去と現在における鎮魂の違いなど、巷の京都本では語られてこなかった角度からの考察を確かめるべく、また京都を訪れたくなるかも?

2016年5月10日 | 書籍 | No Comments »

老舗の抹茶おやつ

5月24

oyatu京都好き女子にとって、抹茶スイーツ巡りは寺社観光に並ぶ魅力的な巡礼コース。
敷居が高いものの代名詞の様だった「抹茶」が、「抹茶スイーツ」の台頭によって、いつしかチョコレートと双璧となるくらいにコンビニの棚を埋め尽くすようになりました。

バレンタインに、父の日に、敬老の日にと、抹茶を使ったお菓子を作るときには、「京都・丸久小山園に教わる 老舗の抹茶おやつ」が役立ちます。
変色しやすく苦みもある抹茶を扱うためのコツを京の茶どころ・宇治の老舗から学び、なおかつ家庭の台所でも作れるようにと、詳細な行程写真と共に紹介されているレシピが嬉しい一冊です。

鮮やかな濃い緑色は、茶葉の栄養がたっぷりと詰まっているようで、誰かのために作ってあげたい、との思いを起こさせます。
「おやつ」とは、手作りのぬくもりを感じる言葉ですね。

2011年5月24日 | お店, 書籍 | No Comments »

岡倉天心『茶の本』

2月7

cha

岡倉天心が西洋の読者へ向けて、茶道を通して日本文化を紹介した『茶の本』。
何年も前に初めて読んだときは、十分に理解していないまま内容も殆ど忘れてしまっていました。

まんがで読破 茶の本』は1時間足らずで読み終えてしまいましたが、漫画オリジナルの身近なキャラクターを通して上手くまとめられており、これまでの自らの経験も手伝って、やっと「腑に落ちる」というところまで到達できたような気がしました。
日本文化が見直されているとはいっても、まだまだ「和風」の域を出ていないのでは。
現代を生きる日本人に宛てた警鐘の様にも思えます。

意外にも、原作は英文版と注釈を入れても文庫本一冊に収まる程にコンパクト。
もう一度、原作の方も読んでみたくなりました。

英語で京都を案内する

12月7

eigo外国人に英語で京都を案内したとき、以下の文献を参考にしてみました。

ベテラン通訳ガイドによる京都案内のコツも記載されている『あなたも通訳ガイドです』は、附属のCDをMP3プレーヤーに入れて毎日聞き流すようにしました。
また、英語圏でない国からの観光客も多いため、『中学英語で京都が紹介できる(高橋 美津子著エール出版社)』にあるようなやさしい英語を使う事を心掛けると、相手も理解がしやすく、またこちらも予習するのにあたって頭に入りやすいと感じました。
日本文化を英語で紹介する事典』は、いざという時の携帯用に。

説明する内容を事前に整理しておく事は必須ですが、それでも、実際の道中では英語で説明をしながらも道順を誤らないように誘導したり、一日のスケジュールに支障をきたさないようにタイムキーパーもしないといけないので、英語の勉強以外にも改めて色々と学ぶ事ができました。

2010年12月07日 | 書籍 | No Comments »

ルイ・ヴィトン シティーガイド2011

11月16

vuiルイ・ヴィトンが街歩きのガイドブックを出しているのをご存知でしょうか?
ブックケース入りの「ルイ・ヴィトン シティーガイド」は12年の歴史の間に毎年更新され、30余りのヨーロッパの都市のほか、ニューヨークや東京版に引き続き、今年は初めて京都・奈良編が誕生しました。

写真は殆どなく、文字情報のみのスリムな装丁ですが、名所からグルメまで一軒ずつ丁寧に綴られた情報は、コラムの様に楽しめる味わいがあります。

定番にこだわらず、アヴァンギャルドな街の側面にもスポットを当てる独自の視点は、確かな職人の技術の上に新しい感性を利かせても気品を失わないヴィトンの製品に通じるものがあります。
このガイドもまた、旅を楽しむ情報をコンパクトに詰め込んだ、トランクケースの一つなのですね。

2010年11月16日 | 書籍 | No Comments »