e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

文化財を利用するということ

6月27

mado 旧三井家下鴨別邸の茶室と二階広間を貸し切って、同窓会茶会を開きました。
重要文化財での開催という事で、来客には足袋か靴下を持参をしてもらうようお願いしました。サンダルを脱いだまま裸足で屋内を見学する人を京都のあちこちで見かけるのですが、足裏の皮脂や汚れで畳を痛めないようにするためです。
また、乳児やお子様連れの場合は、道中で機嫌が悪くなった時にやむを得ず食べ物を与える場合があります。その際に手元に油分がついたまま入場して、柱に触れるような事があってはいけないので、その点にも配慮をお願いしました。
色々と細かいとは自覚しつつ、その様に予め告知していたのには訳があります。
会場の方の話によると、ここが公開されるようになってから半年の間に、何度か茶会で使用された事があったそうですが、主催側の扱いが酷かったために炉が使い物にならなくなり、今後は火気の使用が不可になる方向なのだそうです。
思えば10年程前に、紅葉の美しい寺院が、拝観者のマナーの悪さにライトアップを中止してしまい、以来行われていないところがありました。
少し前にも、文化財を広く多くの人々に親しんでもらうために商業利用する事に関してのニュースが話題になりましたが、入場料を払って入るエンターテイメント施設と同じ感覚ではいけません。
貸す方も借りる方もそれぞれに緊張感があり、またそれを忘れてはいけないと身が引き締まる思いでした。
事前に口うるさく言ってはいたものの、茶会そのものは和やかに進み、雨に濡れた瑞々しい庭園から吹くそよ風を感じながら、赤ちゃんから大人まで心地よくすごさせて頂きました。会場の方に感謝申し上げます。

「花を立てる」とは

6月6

hana いけばなを大成した花僧・初代池坊専好を、狂言師の野村萬斎さんが演じる戦国エンターテイメント映画「花戦さ」の公開が始まりました。
伝統芸能の枠を越え、これまで超人の陰陽師や怪獣のゴジラまで、変わり種の役をこなしてきた萬斎さんだけに、専好役は非常に「キャラ立ち」していました。
その大袈裟な程に歪むユーモラスな表情は、漫画『へうげもの』の主人公・古田織部を連想させます。
作中では茶の湯の場面も多く描かれるのですが、剣ではなく文化の力で時の権力に立ち向かった専好と千利休。
己が良しとする美意識をぶつけ合った利休と、菖蒲を手に勝負を仕掛けた専好は、異なる結末を迎えます。
「花を立てる」とは、それぞれの個性を活かして調和させること。確かにこれは、自分自身もいけばなを体験するといつも感じていた事でした。
一言で「美しい花」と言っても、棘のあるものや、大輪で華やかだけど香りが強いもの、花は貧相な程小ぶりなのに枝や茎の流線形が優美なもの、「それぞれに、」に個性があります。
それらと正面から向き合いながら自らの指で生命に触れる時間は、心地のよいもので、またその手ぶりや姿を眺めていると、尊い時間を感じます。
鑑賞後は、なんだか花や茎に触れたくなりました。

2017年6月06日 | 歴史, 芸能・アート | 1 Comment »

日本と西洋の豪華さの違い

5月22

van ただ今開催中の「ヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸」展。
実家が宝飾店の友人を誘って行ったので、「この石は柔らかいから加工がしやすくて…」と、業者ならではの話を聞きながら巡る事ができました。
「ミステリーセッティング」という、爪や地金を一切見せないよう隙間なく宝石を敷き詰めた技法の行程を観てから改めて作品を眺めると、やはりダイヤモンドよりもルビーやサファイアが最も映るものだと、素人ながらでも感じられます。
その気の遠くなるように精密な技法は、ぜひとも特設会場の専用アイパッドを繰りながら観て頂きたいのですが、映像に職人達の顔が映らないのは、やはりその技法と保有者を護るためではないでしょうか。
これらのハイジュエリーとモチーフの一部が共通しているような、日本の伝統工芸品も並列して対比されているのですが、いずれも動植物の造形美を超絶技巧で写し取ろうとする思いは同じでも、ありとあらゆる宝石をふんだんに使用し、建物や彫刻にも石が用いられた華やかで開放的な「石の文化」のヨーロッパと、木や土や玉虫の羽、貝殻などを用いた「木の文化」としての日本の伝統工芸品の、土からつかず離れずのシックさは、一言「豪華」と言っても、その土地の風土が大きく影響して異なるベクトルへ進化している事が、手に取るように伝わります(この手に取れず残念ですが)。
「ほら、キラキラだよ~」と、友人は抱いた赤ちゃんにガラスケース越しに豪華なネックレスを見せるのですが、生後6か月の彼女はむしろ、日本人作家による金色のオブジェの方が気になるようでした。
8月までの開催期間中、ヴァン クリーフ&アーペルのプレジデント兼CEOや、日本人デザイナーによる記念レクチャー 、親子向けのギャラリーツアーも予定されています。

2017年5月22日 | 芸能・アート | No Comments »

旧邸御室

5月15

omuro JR「花園」駅から歩いて15分程の閑静な住宅地の中に入ると、蔵を有するお屋敷が見えてきます。
1937(昭和12)年築で、昨年秋に国登録有形文化財となった「旧邸御室」では、月に一度、落語などの文化イベントが催されています。
今回の「新緑のJAZZコンサート」は、サックスとクラリネットを吹く麻紀さんと、リュートの先祖と呼ばれる「ウード」という楽器やギターを奏でるフランス人・ヤン(YANN PITTARD)さんとのデュエットでした。
二人が立つ縁側の背景には、埋め尽くすように茂った二ヶ丘の豊かな新緑が、額縁のように外の空間を切り取っています。
以前はここに大手酒造会社の役員が住んでいたそうで、この開放的な縁側でうたた寝ができたら、なんて幸せだろうと想像してしまいました。
「ジムノペティ」や「テイクファイブ」などの耳に親しいナンバーは序の口で、フランスやシリアといった日本から遠く離れた国の町に伝わる民謡など民族色が強い曲目。
そこに何故か和音階や三味線、演歌にも似た響きが流れ、文化には国境が無く、何マイルもの距離、何年もの時間を渡って日本にも届いている事に気付かされます。
アンコールになると、ヤンさんのボイスパーカッションまで入り、アップテンポな現代音楽に変化しました。
来月は10日にもトランペットやドラムによるジャズセッションが行われるそうです。
椅子席(指定)を予約して、演奏前の明るいうちにお屋敷の意匠や茶室もあるお庭の散策を楽しまれる事をおすすめします。

現代人の特権

5月8

nishi 連休中は一旦休止されていた「西本願寺花灯明 ~夜の参拝・特別拝観~」が、9日より再び期間限定で始まります。
入場料の代わりに熊本地震の災害義援金を志納するのですが、入り口で記念冊子(記念しおりや龍谷ミュージアムの割引引換券付き)が一人ずつに手渡されます。
これを袋に入ったまま見学している人がたくさんいましたが、それでは勿体無い!袋の中には拝観ルートの解説も同封されているので、予め一読して散策される事をおすすめします。
伽藍が整備された当初は、篝火や蝋燭で灯された様もきっと美しかった事でしょうが、ライトアップという形で金箔や水鏡が輝く光景を拝める事は、天下人の秀吉さえ叶わなかったことであり、私達現代人の特権とも言えます。
国宝の唐門や北能舞台、鴻の間や白書院などは、まさに「荘厳」の一言そのもの。しかしながら、ソテツが南国の景色の様にあちこちににょきにょきと聳え立つ特別名勝の「虎渓の庭」は京都の庭園としては非常に珍しいものでした。
ちなみに、屋内でも扉は開放されて風通しが良いため夜は少し肌寒いので、調節しやすい服装で春の宵歩きをお楽しみ下さい。
また、取材当時(5/1)は、境内の仮設フードコート「本願寺 おてら かふぇ&まるしぇ AKARI」は、飲み物と甘味のみの営業だったので、お食事でご利用の際には事前にお問い合わせ下さい。
フェイスブックの方では、会場から徒歩圏内で立ち寄った飲食店をご紹介しますね。

セレブ御用達のお寺

4月17

yoshi 先週末に勝持寺を訪れた後、せっかくなので、そこから車を15分程走らせて善峯寺へ。
竹の里らしく、桜と竹林の合間を縫って走っていると、所々個人宅の軒先に朝堀り筍が並べられているのが視界に入ってきます。
境内は桜もさることながら、山肌のあちこちに春霧が立ち昇り、樹齢600年を経た「遊龍の松」は霧雨に打たれて新緑の鮮やかさが増し、まるで龍が息を潜めて横たわっているかのような枝ぶりで、思わず足を止めてしまうのでした。
通常のお寺の2、3倍の規模はあるかと思われる宝物館も、寺の紋と徳川家の紋を配した大層な品が多く、善峯寺がいかに「セレブ御用達の」お寺であった事が伺えます。
境内にはソメイヨシノより少し遅れて咲く枝垂れ桜の蕾も多く見られ、公式ホームページからの情報によると、今週末も名残の桜が楽しめるかもしれませんね。

伝統産業の未来と課題

3月27

dentou 存在は知っていたけど、いつも素通りしていた施設はありませんか?例えばオフィスビルに挟まれた「京都伝統工芸館」。
安価で気軽に使える大量生産品とは違い、伝統工芸品は作品の作り手と消費者の相互の感性や好み、環境や経済事情の合致など、実際に購入に至るまでのハードルがよりシビアです。
いくら貴重で優れた技術で作られたものであっても、惹きつけられるようなデザイン力が無ければ人の心を動かす事はできないし、既製品との品質の違いは、ただ展示しているだけでは伝わりません。
また、次世代の担い手が不足するのも、収入面あるいは業界によっては体力面での不安が大きな要因となっています。
展示されていた若手作家の作品は、家に置きたくなるような現代生活を意識した物が多く、その創意工夫がこれから高まる海外からの需要への足掛かりとなる事を願います。
この日は漆芸と金工芸、金属工芸、仏像彫刻の実演作業中で、繊繊なアクセサリーを製作している女性職人さんとお話しました。
「壊れてしまった髪留めでも、ちょっと直せばまた使えたりするんですよ」
「片方無くしたけど捨てられないイヤリングを、似たデザインでもう一つ作ってもらえたりするんですか?」
入場の際に、次回無料で入館できるチケットを頂いたので、再訪の際には、職人さんに話したい事や相談したい事を仕込んでお邪魔したいと思います。

ビューティフルドリーマー

3月1

sengoku 戦国時代といえば、武将たちの勢力争いや親兄弟による紛争に政略結婚など、殺伐とした印象が頭をよぎりますが、現在京都文化博物館で開催中の展覧会のサブタイトルの『A CENTURY of DREAMS 』に惹かれました。 まるで実況中継を観ているような「川中島の合戦図屏風」、シックで美しい具足、文に現れる心情や切れ味良い花押に刀と拵。 夢とは欲のようなもので、文化も花開かせていきました。 終盤を飾る「洛中洛外図屏風(上杉本)」の傍らには、画面上を指で操作しながら拡大して鑑賞できるデジタル画面 も楽しめます。 金色に輝く雲間に見えるのは、乱世による荒廃から復興しつつある都人の営みと、相反する勢力同士が共存する世界。 「夢」。それは戦国時代を越え天下統一を果たした秀吉が遺した句にも登場します。 時の強者たちや宗教者が抱き続けた夢と、同じ時代を生きた市井の人々の夢とはいかなるものだったでしょうか。 一変して、ミュージアムグッズ店では、プリントシール機や京人形伝統工芸士がプロデュースした甲冑風のトートバッグ 、組み立てて直ぐに着用できるダンボール製の甲冑などなど予想を上回るセレクトでございました。

時空を越えて行く茶碗

1月24

raku 吹雪く程寒い日は、あちこち巡るより美術館でゆっくりすごしたくなります。
「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」展が開催中の京都国立近代美術館へ。
手捻りから生み出される樂茶碗は、両手に包まれ湯気をたたえる冬が最も映える気がします。
展示品の約半数は十六代を継ぐ篤人氏を含む樂歴代や本阿弥光悦等の作品を展観し、また半分は十五代樂吉左衞門氏の茶碗と新たな創作で構成されていました。
漆黒または朱色の肌で一般に知られているとはいえ、その造形はやはり時代の影響を映しており、ただ初代の作風を模倣するだけではここまで存続する事は無かったでしょう。
観賞順路も一方通行では無く、最後は出口にも初代長次郎の作品のある入口にも戻る事ができるようになっているのは、おそらく意図されたものだと思われます。
聞くところによると、当代は若き篤人氏に譲られ、樂美術館での企画も任されているのだとか。
京都会場のみ展示される作品や関連イベントも多く、樂美術館では「茶のために生まれた「樂」という、うつわ展」も開催中です。

茶室観賞は客の目線で

1月16

kyu 「京の冬の旅・非公開文化財特別公開」の対象となっている建仁寺の久昌院。
禅寺に茶室は付きものですが、こちらもバラエティ豊か。
書院の方丈と渡り廊下で繋がる「高松軒」は、八畳台目の座敷に蛭釘を打ち、釜を釣り下げて目にも温かな炉の風情を、十二台目の座敷には爽やかに風炉を据えて季節ごとの趣向を楽しみ、特に後者は貴人向けに二畳の上段の間を設け、屋根付きの露地を雨に濡れる事無く席入りできるよう工夫されています。
それらに挟まれた「遠州別好ノ席」は小さな空間ですが、だからこそ舟底を模した屋根が活きています。
最も古いとされる茶室の織部床の間は、最初は素通りしていましたが、よく観ると、掛け軸が棚の細長い穴を貫通した状態で吊るされているのです。
例えるなら、ベルトをバックルに通したかの様な姿と言えばよいでしょうか、一体何の意図なのか古田織部に問いかけたいくらいの不思議さで、これは一見にしかず。
利便性良く4つの茶席が密集していながらそれぞれに趣向が異なるので、奥平家代々の大名達にとって、お茶でのおもてなしを受ける墓参は、一つのレジャーでもあったかもしれません。
お茶席を観賞する際には、ぜひ想像力を働かせながら客の目線になりきってみてくださいね。

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