e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

職人の未来を繋ぐ

2月14

asa
他の漆器の産地に比べて高価なものが多く、いわゆる「高級品」として知られている京漆器
美しい蒔絵や光沢に目を奪われますが、その下にある木地の土台を担うロクロ木地師は、京都に独りしかいません。
北山の檜や京都府産の漆を使い、製作工程も全て京都で行うなど、常(日常使い)の京漆器作りを通して将来の職人達の仕事も生み出していこうという「アサギ椀プロジェクト」が始動しました。
発案者の故・石川光治氏の意思を受け継ぎ、京都でただ一人のロクロ木地師の西村直木さん、塗師の西村圭功さんと石川良さん、漆精製業の堤卓也さんらが進めており、その取り組みを紹介する展覧会が19日まで「The Terminal KYOTO」にて開かれています。
既に滋賀県の日野椀が、妙心寺のこども園に器を納めているように、京都の保育園でアサギ椀を子供達に使ってもらおうという計画も進められています。
アサギ椀の子供椀は、あえて幼い子が扱いやすくするような細工はせず、大人の椀がそのまま小さくなっただけの姿かたちをしています。
落としても投げつけても割れにくいプラスチック容器と違って、落とさないようにこぼさないように両手で包み込み、漆が剥げないように箸やフォークをやさしく当てるなど、物を大切に扱う姿勢が自然と身に付くよう、しつけの意味も込められているのだそうです。
幼い我が子にも、食洗機で洗えるプラスチック容器で食事をさせる事が多いのですが、それでもいつも同じ食器では味気ないと思い、手洗いが必要な木地の椀や割れないよう注意が必要な陶器の小皿なども、料理に合わせて出しています。
同じ素材、同じ色で統一された西欧の食器とは違い、様々な素材の器で食事を取るのも、日本文化の豊かさの現れだからです。
サンプルのアサギ椀を掌で撫でながら「やはり雑貨店で買うものとは値段が違う…でも痛んでも塗り直して末永く使えるし、入金は椀を受け取る2か月先でいいみたいだし、子供の小さな指先でも感じ取るものがきっとあるだろう…」と悶々と思案した末に予約を入れる事にしました。
小ぶりで軽い漆のお椀は、外でお茶を点てる時にも便利かもしれません。手元にやってくる桜の季節が楽しみです。

子供に帰れる場所

1月29

tate
西陣の築100年の町家の2階に上がると、ゴジラが立っていました。
怪獣やなつかしのヒーローもの、ロボットに最新アニメのフィギュアなど3000体を越える個人のコレクション)「京都西陣たてくんミュージアム!」です。
もとは各国の外国人からじわじわと支持されていたのが、ここ最近急激に日本人の訪問が増え、なんと、海洋堂の社長も訪れたとか。
「赤影」や「ロボコン 」「ドラゴンボール」、「進撃の巨人」「ラブライブ!」など、オーナーの「たてくん」の人生をなぞるように、幅広い世代・国籍の人が楽しめて、なにより展示の仕方に愛と感じます。
オーナーのお母様に、「息子が大人になってもフィギュアに夢中で、不安になった事は無かったですか?」と失礼ながら尋ねてみたら、「酒もタバコもしない。誰にも迷惑かけてないし、自分でアルバイトを3つも掛け持ちして、改装まで本人がやったんですよ。」と、そのおだやかな口調には誇りすら感じ取れました。
外の入り口のテントには、亡きお父様と経営していた旅行会社の名残りが。
「これからは、海外から来た人をここで楽しませたい」とのこと。
西陣織の着物を身にまとったスターウォーズのヨーダは、世界平和を願うスペースに祀られています。
国同士のいざこざなんてなんのその、言葉や国境を軽く飛び越えて人々を繋いでしまうサブカルチャーの力を信じましょう。
帰り際、お母様に小さなお菓子を頂き、なんだかおばあちゃんにお小遣いをもらったような、懐かしい気持ちになりました。

弱みを個性に花開く

1月23

kusama

祇園甲部歌舞練場を期間限定の現代美術館として開催されている『草間彌生 永遠の南瓜展』。
長所と短所は紙一重。視界が水玉で覆われるという幻覚に苦しめられた彼女は、その水玉を作品に昇華させる事で才能を開花させました。
自分にとっての弱点やコンプレックスを受け止め、強みに転換できて大成功をおさめた典型的な例と言えます。
まるで作品のうちの一つかと思うような草間そのものの個性も注目の的となっており、映画『草間の自己消滅』やドキュメンタリー映画『草間彌生 わたし大好き』も合わせて観てみたいところです。
水玉模様はもはや草間彌生を表すアイコンとなり、ルイ・ヴィトンとのコラボレーション「 ヤヨイ・クサマ コレクション」でも話題を呼びました。
この展覧会では水玉の他にかぼちゃや花のシリーズで展開されていますが、地上の花々を巻き込みながら宇宙へと吸い上げられていくような富士山のシリーズを目にするのは初めてでした。
個人的には「わが心の富士は語る」という題の木版画が、あたたかく素朴なスケッチのようで心に残りました。
同じモチーフで何通りにも反復、量産ができる版画作品や、カフェでの企画メニュー、ミュージアムショップの長蛇の列を見ると、商業的にも成功しているのがよく分かります。
なお、この美術館は館内に授乳スペースや子供用の便座もあり、親子連れもよく見かけました。
2月末で閉館予定なので、グッズを買いたい人は、早めの来場が良いかもしれません。

世の中の「すぐにはよくわからないもの」

12月12

niti
故樹木希林さんが茶道の先生として登場する映画『日日是好日』を、滑り込みで観て来ました。
茶道を経験している人も、そうでない人にも、自分の生きて来た道を振り返り共感できる光景が幾度もあったように思います。
黒木華さん演じる主人公の典子が、家庭を持ち母となったのか、フリーランスの仕事は成功したのか、幕が降りるまで具体的には描かれていませんでした。
確かにそれぞれは素晴らしい人生の彩りには違いないけれども、必ずしも1番大事な事、ではない。だから描く必要もなかったのでしょう。
それよりも、今自分の周りにいる人々や、目の前の移ろいゆく事象に向き合うこと。その様に受け取りました。
茶道をテーマとした映画ということで、あえてお茶の世界にどっぷり浸かっていない人と観てみたいと思い、この映画に誘った友人は、自分とは真逆の人生を選んだひとでした。
独りで生きていくことを決めた彼女と、同じものを観て同じように「良かったね」と言い合えたことは、なんだかとても意味のあることだったように思います。

2018年12月12日 | 芸能・アート | No Comments »

番外編の真珠庵

12月5

sinju
「由緒ある禅宗寺院が、よくここまで振り切ったものだ。」
一休禅師を開祖として創建された大徳寺真珠庵で特別公開されている襖絵のニュースを聞いて、多くの人がそう思ったに違いありません。
江戸前期の建築で重要文化財の方丈の、曽我蛇足や長谷川等伯といった絵師による襖絵の修復にあたり、代わりに納まっている現代の襖絵計45面は、中央の部屋は「釣りバカ日誌」で知られる漫画家・北見けんいちさん、方丈東側の部屋はアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」制作会社社長・山賀博之さん、西側「礼の間」にはゲーム「ファイナルファンタジー」のアートディレクター・上国料勇さんや、他にはNHKのアニメ「オトナの一休さん」を手がけるイラストレーター・伊野孝行さん、日本画家で僧侶の濱地創宗さん、花火の閃光で作品を仕上げる京都造形芸術大出身の美術家・山口和也さんが手掛けています。
いずれも現住職が旧知の漫画家や、東京で開く座禅会メンバーらで、絵の制作を依頼してからは一部の作家は真珠庵に寄宿、作務をしながら描いたのだそうです。
墨絵に浮かぶ戦闘機、カラオケで歌う一休さんを眺める髑髏、「EXILE」メンバーがモデルだという風神、雷神。今しか見られない番外編の真珠庵です。
北見けんいちさん自身がすごし、その様子を描いた与論島の風景はなんとも楽しげで、拝観者の顔も思わずほころびます。
本人や真珠庵歴代の住職、亡き妻、島の知人たちが遊び心いっぱいに書き込まれた現世と来世が入り混じるバーベキューの世界。
穏やかな天気のもと、愛する人々と食を共にし、音楽を楽しむ光景は普遍的な幸福に満ちていて、まさしく「楽園」の名にふさわしいものと感じました。
16日までの一般公開では、他にも通常非公開の書院「通僊院」や茶室「庭玉軒」、村田珠光作庭と伝わる「七五三の庭」が公開されています。

西陣の町の息遣い

11月13

miyako
生活スタイルの変化や相続、様々な事情で減りつつある京町家。
その建築物を外からの照明で煌々と照らすのではなく、地域住民の協力のもとで町家の内から外の通りに向けて照らし、家々の格子からもれだす「暮らしの灯り」を表現したライトアップイベントが「都ライト」です(今年度は11日で終了しました)。
ビロードを活かした着物のお手入れグッズの製作体験も行っている「天鵞絨(びろーど)美術館」や、かつて北野界隈を走っていたチンチン電車の映像を投影している翔鸞公園、機織りが並び普段は手織り体験もできる「奏絲綴苑」、そして、上七軒の名の由来となった7つの茶店のうちの一つと言われている元お茶屋を巡りました。
虫養いとして、地ビールや甘酒、コーヒーや麺類を提供するスポットも点在しています。
会場間は徒歩数分程ですが、住宅地を通る際、辺りはわずかな道案内の行燈のみで殆ど真っ暗なのですが、子供が母親を呼びかける声が家から聞こえてきたり、犬の散歩で立ち話をする声や通り過ぎる自転車のライトの音、じょうろを片手に路地へと消えてゆく人の姿など、西陣に住まう人々の息遣いがリアルに感じられました。
京都暮らしが長いとは言え慣れない町でもあり、幾つかの角で配布されているパンフレットの地図を手に見回していると、主催の学生さんが気にかけて歩み寄ってくれました。
今年で14回目を迎えた「都ライト」。嵐山や東山の「花灯路」イベントと同じくらい前から京都の大学生らの手によって引き継がれてきました。
京都らしい写真映えがするライトアップイベントのさきがけだと言えますね。

アートを多角的に発信する

11月5

y
もとはスナック等が入る祇園の雑居ビルが、ギャラリーやカフェ、イベントスペースを内包した複合施設「y gion」として生まれ変わり、白く長い暖簾をたなびかせています。
イベント開催中は反対側に併設されたカフェのキッチンも稼働し、連動した企画が楽しめるようになっているそうで、訪れた当時は地球環境をテーマにした現代アート展に合わせて、なんと昆虫食の会が開かれていたとか。
なお、通常の企画展の期間中は「カカオ∞マジック」のローチョコレートメニューが楽しめるのでご安心を。
また、屋上には「sour」による期間限定ルーフトップバー「サワーガーデン」、5階にはレコードショップ「JAZZY SPORT KYOTO」、「CANDYBAR Gallery(キャンディバーギャラリー)」が入居しています。
DJターンテーブルやミキサーも備え、結婚式の2次会や忘年会といった利用もできますが、ただアートを並べるだけでなく、ビル全体で多角的に展開することをコンセプトとしているようです。
スペースの窓からは夕暮れの鴨川、カフェの窓からは東山と夜の海の様に波打つ瓦屋根を見下ろし、これもまた、京都の古美術の一面を見せてくれました。

薫りを学ぶ

10月22

kun
茶席や飲食店、旅館等に足を踏み入れた瞬間に深い香りに包まれると、別世界に入ったような、あるいは大切にもてなされているような気分になりますね。
香の老舗「松栄堂」本店の隣に「薫習館」という、香の製造過程を学んだり、関連イベントを体験したりできる施設が開設されました。
樹の皮や、料理のスパイスとしても馴染みのあるもの、あるいはマッコウクジラの体内で凝結したという動物性のものまで、様々な種類の天然香料や、それらのブレンドから生み出されたお香を、実際にくんくんと嗅ぎ比べることができ、また線香や練り香など、形状の由来を知る事もできました。
廊下で繋がっている本店にも、手で押すと香りが噴出できるインテリアや、サシェのようなデザインの香袋、香りを染み込ませた組みひものストラップなど、現代生活に薫りを取り入れるヒントがたくさん。「お香はじめて教室~“薫物”をたいてみよう~」も、社会人が参加しやすい夜の開催となっています。
なお、公式サイトからは何故か烏丸通りの現在の様子をライブカメラで見ることができます
しまった!これで今年の時代祭行列を観てみたかった…。

刀にやられる

10月10

tou
人気の「京のかたな」展。 入場して間もなく、「しまった…」と感じました。
展示されているのは殆ど刀の刃の部分のみ。それは想定内でしたが、鐔でもなく拵でもない限られた部分を鑑賞するには、余りにも予備知識を入れずに来てしまった事に関する後悔です。
会場は若い女性でいっぱいでした。彼女たちはやはり刀剣女子でしょうか、はたまた歴女でしょうか。
坂本龍馬織田信長の愛刀、祇園祭の長刀鉾を飾る長刀、神器としての刀剣も展示されており、鞍馬寺の付近や立命館大学の中でも刀が作られていたとは意外でした。
鮫の群れのごとき刃物の迫力にやられたのか、何故か人気の絵画展を観た時よりも疲れてしまい敷地内のベンチで休憩していると、隣で腰掛けていた若い女性が
「は~良かった。私、歴史興味ないけど刀好きだわ! 」と話していました。
一見難しそうな事柄のハードルを一気に下げてくれるそのサブカルチャーの力。売店でも売っていた『ブルータス』の刀剣特集を読んでから挑まれる事をお勧めします。
ゲーム『刀剣乱舞(とうらぶ)』を』をまだプレイしていなくても、キャラクターとそのモデルとなった刀身の特徴を見比べるのも楽しいですよ。

東山ブルーに浸る

10月1

kai
「東京でやっていたとき、何度も観に行ったんです。」と「東山魁夷展」の葉書を知人から頂きました。
自分の中では「人気の日本画の大家」という認識で観て来たつもりでいましたが、実際に間近に観て、これまでちゃんと作品に直に向き合っていなかった事に気がつきました。
空や池や森など、あらゆる姿の「あお」で埋め尽くされた会場でしたが、そのそれぞれが複雑な色彩の重なりであり、その色に行き着くまでの物語さえ感じさせます。
幻想的のようでいながら、きっとどこかで出逢っていたかもしれない光景。
観客が銘々の心の琴線に触れる作品の前で、吸い込まれるように立ち止まっていました。
盛夏から秋にかけてのこの季節にこの展覧会が開かれたのも頷けます。
「唐招提寺御影堂障壁画」の『濤声』の前では、本当に波打っているように見えて、端から端まで往復してしまい、東山魁夷が夢の中で観た景色だと語っていた絶筆『夕星』は、他の望遠の作品群とは違って4本の木が意思を持った生命体の様に佇んでいるかのようで、身につまされるものがありました。
売店では、図録も絵葉書もたくさんあり大盛況でしたが、やはり実物に勝るものはありません。
『京洛スケッチ』のコーナーでは、京都のどこの景色が描かれたものなのか紹介されています。この連休の訪問先にいかがでしょうか。

2018年10月01日 | 芸能・アート | No Comments »
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