e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

瞳を閉じた能面

12月30

yoro年の瀬に、能『弱法師(よろぼし)盲目之舞』を初めて観ました。

目を閉じた珍しい面を目にして以来、気になっていたのです。

親に捨てられ、盲目となった乞食は、よろよろとよろめき歩くので人々から「弱法師」と呼ばれ、後に思わぬ形で父と再会します。
先にあらすじを読んだだけで泣きそうな心地になる物語です。

身体の一部に障害がある人は、「片端者」と呼ばれて差別されてきたといいます。
何百年もの昔から世の中は健康優良な男性を基準に作られきて、令和の時代になって女子供や病気や障がいを持つ人達の人権は十分に守られてるだろうか、と飛躍して憤ってしまいました。

俊徳丸にまつわる伝承は、謡曲や説経節、人形浄瑠璃や歌舞伎、落語、絵画の題材にもなっています。
近代では三島由紀夫の戯曲や、俳優の白石加代子さんと藤原竜也さんが演じた『身毒丸』という舞台もありました。

物語上でフォーカスしている部分は異なるものの、この伝承の何がこれほどまでに派生を繰り返してきたのか。
内容も異なっているようですが、ぞれぞれに触れてみれば何かが見えてくるのでしょうか。

物語の舞台は大阪の天王寺ですが、社会福祉施設だった「悲田院」は、京都の泉涌寺の塔頭にもその名が残されています。

背伸びして「ほんもの」に触れる

12月17

2 色とりどりの紅葉が風に吹かれてひとつにまとまった風情を写しとった干菓子『吹き寄せ』。
様々な菓子屋で見かけますが、亀屋伊織さんのそれは憧れでした。
意匠の美しさだけでなく、生砂糖、打ち物、片栗、有平、州浜など様々な素材と製法で表現したところが和菓子の極みと言えます。
400年も干菓子一筋の老舗であり、店内にはショーケースもありません。予約して伺います。
良い意味で、客側の品格も問われるような風格に、心地よく背筋が伸びました。

上菓子に見合うそれなりの器でなくては、と思っていた矢先に朗報が。
祇園・古門前にあるビルの細い階段を上り、予約していた『骨董 水妖』の中へ。
店主の古美術愛に溢れたSNSを楽しく拝見しているうちに、セール情報が流れて来たのです。
千家十職のひとつ、飛来一閑。しかも十一代という約200年前の四方盆が骨董素人の自分にも手の届くお値段に!
びっくりするほど軽く、シンプルなので何を載せても添ってくれそうです。
「使ううちに傷が入ったとしても、塗り直せばいいのよ。気軽に使える最高級品なの」

立礼でお茶とお菓子のおもてなしを受け、その菓子皿も手の平に収まる茶器も素敵なものばかり。
まだ10月の爽やかな風が入ってくる店内には店主が愛してやまない池大雅の軸がかかり、話に花が咲きました。

オンラインショップでポイ活しながら何でもすぐに手に入る有難い世の中ですが、自身の仕事に対する愛が感じられるお店でお買い物するのはお値段以上の充足感があります。

さて、先月の野点で色鮮やかな吹き寄せを盛る前の四方盆を、お客のお茶人さんは手に取ってすぐ、はっとしたように裏を返し、「飛」の文字を確認されたのでした。
さすが、日々茶道具に触れている人には違いが分かるのかと感じ入った瞬間です。

勿体無くて食べ切らなかった分は丁寧に懐紙で包み、翌日のお稽古に出して野点の思い出話を皆さんと共有されたそうです。
黒い四方盆に映える栗、楓、銀杏、松葉、松ぼっくり、きのこ。自宅でも子供達が目を輝かせていました。

季節の移ろいを楽しむ。子供達にも何か伝わるものがあることを願います。

弘法市で一服

12月4

kobou
5月の
大文字山野点を機に知り合った方と、「いつぞやの弘法市のときに、会いましょうね」と約束していました。

後に相手がお茶の先生と知り、「これはいい加減なことはできないぞ」と「亀屋伊織」の「吹き寄せ」を予約。
お湯の入った水筒と共にリュックに入れて背負い、その方と友人の3人で境内をぶらぶら。
着物がお好きなようで、お店の人や珈琲ブースで出逢った人と着物談義に花が咲き、評判の鯖寿司やさんとも立ち話もしつつ、なかなか前に進まないもの一興。

南門から外側寄りに北へ周り、北大門を向けて右手の奥にある大元堂へ。
この辺りは市の喧騒から近からず遠からず。水辺に架かる橋の欄干のようなところに腰掛けました。
お堂の傍らに「開運大元帥明王(だいげんすいみょうおう)」とあります。
大元帥明王は、元来は子供を喰い殺す悪鬼(夜叉神)であったのが仏教にとり込まれ、国土や衆生を護る明王のボスとなったほとけだそうで、
小さなお堂ながらぽつりぽつりと手を合わせていく人の姿が絶えません。
私達も挨拶代わりにお賽銭をし、手を合わせました。

机や畳は無いので、木の根っこに干菓子盆を置き、持参した水筒のお湯で点てていきます。
「点てる場所の下見までしてくださってたのね」
「秋の趣向のお菓子とお茶だわ」
「お抹茶も事前に濾してきてくださったの」
さすがお茶人さんです。流派は違えどこちらのおもてなしを一つ一つ丁寧に汲み取って楽しんでくださり、お堂とそばにあった仏さんにまでお供えされていました。
ご縁に感謝。
お菓子や菓子器として使った一閑張の四方盆についてはまた後日。

古都・京都の別世界

11月26

aki上賀茂にある大邸宅。
人目につかないようにあえて剪定をせず木々を茂らせた日本庭園を各部屋から望み、大きなガラスの引き窓を開放すると、あちこちから水音が響きます。

茅葺の門やプール付きハウス、まるで教会のような立礼式の茶室など趣きの異なる各部屋に、シャガールや藤田嗣治、フェンディなど誰もが知る芸術家や服飾ブランドによる調度品が置かれ、和洋折衷に入り混じりながら調和しています。

会員制倶楽部「AIC秋津洲京都」は、飲食など当館の施設利用料金の10%が、奨学金として日本の若者がグローバルな世界で活躍するための支援に活用されるそうです。
今回利用したのは、大人向けの体験予約サイト「Otonami」のプランで、当館ではひとまず終了のようですが、ここはレストラン利用もでき、時折イベントも開催されているようです。

紅葉のグラデーションが美しい景色が楽しめるバーカウンターにて、ハンガリーの名窯「ヘレンド」のシノワズリの茶器で、オリジナル紅茶と旬の果物をふんだんに使ったタルト等を美味しく頂きました。

また一つ、古都・京都の奥深い一面を知ることができました。

なお、通常の半分の20分程の館内ツアーなら、500円で案内してもらえます。
場所柄、スマートカジュアル以上の服装がおすすめです。

秋の嵐山「弾丸」訪問

11月20

arashiyamaようやく秋らしい寒さが、木々の端々を染め初めた平日に、嵐山福田美術館へ母と行く事になり、交通手段について思案していました。

ハイシーズンのマイカー乗り入れは混雑で動けなくなるので御法度、「電車で行けるところまで行く」「パーク&ライド」が鉄則です。
ですが、健脚でない人と一緒となると迷いが生じます。

嵐山駅より数駅手前まで電車、そこからタクシー移動を提案しようとすると、母の方でも独自に調べてくれた模様。
結局母の提案通り、いかりスーパー「ライクス常盤店」まで車で行きお弁当を買って、そこからタクシーで10分程ですんなり福田美術館に着く事ができました。

鑑賞後は川の畔で手漕ぎボートの景色を眺めながら二人でライクスのお弁当とデザートを食べ、渡月橋を度々通過する流しのタクシーを捕まえて帰路に着きました。

ここ数年は平日も週末と変わらない混雑を覚悟していましたが、たまたま人出がましだったのか、紅葉の色づきが遅いためなのか、行き先をピンポイントに絞ったためなのか、意外にもサクッと嵐山訪問する事ができました。

ちなみに福田美術館の若冲展は、来年1月19日まで開催されています。
紅葉狩りが落ち着いた頃に嵐山温泉と共に楽しむのもいいですね。

菓子と源氏で数寄あそび

11月13

kasi有斐斎 弘道館」と「旧三井家下鴨別邸」にて15日まで京菓子展が開かれています。今年のテーマはやはり「源氏物語」。

和菓子店でも茶会でも出逢えないような創作を凝らした菓子たちは、撮影もSNSへの掲載も可能です。
3つも賞を受けられた海外作家の作品は、自らの舌でその食感を試したい欲に掻き立てられました。
個人的に最も目に焼き付いたのが、第三十五帖「若菜下」から着想を得た「哀焔」。
形そのものは、「黄味しぐれ」を連想させますが、真っ黒な墨色の塊の中からマグマのように真っ赤なあんがその身を内側からうち破らんとしています。
まるで怨念でその心身を自ら蝕んでしまった六条御息所を思わずにはいられない。
さて、こんな意味深な菓子を誰に送りつけましょうかね?

選抜作品の中から、自分で選んだものを呈茶席でいただくことができます。
「あなたの前にあるその黒い茶碗は、俳優の佐藤健さんが飲まれたものなんですよ。」
有職菓子御調進所 老松」のご主人の軽妙な語り口からは、源氏物語に始まり、弘道館のしつらいや催しのこと、近隣の名所のこと、この茶室を訪れた著名人のエピソードまで話題が次から次へと飛び出してきます。
現代の数寄者として古典を楽しもうという意欲に溢れておられ、茶道経験のない人でもきっと楽しめるのではないでしょうか。

呈茶菓子は公式サイトで確認できますが、人気のものは売り切れることもあるので、午前中の静かな間に入られることをおすすめします。

茶を点てすぎて死ぬ

11月6

yori

連休中に放映された大河ドラマ『光る君へ』で、平等院鳳凰堂が紹介されました。
平等院ゆかりの能の演目に『頼政』、狂言に『通圓』があります 。
画像は、平等院境内にある境内にある頼政の墓地。同じくゆかりの「扇の芝」は、観音堂の保存修理に伴い立ち入りできなくなっているので、ご注意ください。

後者の狂言は『頼政』のパロディだそうで、
頼政』の方では宇治の戦いで平家軍300人が平等院に押し寄せ、源頼政は自刃する悲劇がモチーフになっていますが、
通圓』 では、客人300人が押し寄せ、茶屋坊主の通圓はお茶を点て過ぎて「点て死に」した話なのだそうです。

「点て死に」なんてパワーワードは初めて聞きました。
恐るべし、京の茶処・宇治

夜の平等院鳳凰堂

10月22

byo先日、夜の平等院鳳凰堂の前で能楽の特別公演がありました。
夕方の宇治川周辺の観光施設も門戸を閉じ、昼間の喧騒も落ち着いたころの、夢うつつような風情もまたいいものです。

境内の茶房「藤花」で限定菓子「紫雲」と水出しの煎茶、お薄を頂きました。
さすが宇治は茶処、どれも美味しい。

「スーパームーン」前夜の演目は半能「頼政」と狂言「口真似」、能「羽衣 盤渉」。
「頼政」は、平安末期、宇治の合戦で平家軍が平等院に押し寄せ、自刃した源頼政の『平家物語』を題材とした演目です。
頼政の能面はこの曲だけに用いられる特殊なもの。年老い枯れながらも情念を感じさせる表情、窪んだ眼はライトの光を捉えて凄みがありました。

境内には頼政が自ら命を絶ったとされる跡「扇の芝」や、「源頼政の墓地」があります。

「羽衣」では、天女が羽衣を羽織った瞬間、平等院の屋根の鳳凰を背後に衣装の背一面に白い鳳凰の刺繍が現れ、思わずため息が洩れました。
正面からは両翼の羽が折り重なるような意匠となっており、装束展で観たときには気付かなかった新たな発見でした。

まさに天女が舞い上がろうという場面の直前、一羽の鳥が声をあげて飛び立ち、朧月夜だった空はいつしかすっかり晴れて月が青白い光を放っていました。

夜の平等院は特別拝観などの催しがあるときだけ入ることができます。
暗闇を進む砂利の音、虫の声、そして創建以来ずっとここに佇む鳳凰堂と水鏡。
きっと、忘れられない一夜となりますよ。

漢字は、神と交信することば。

10月16

kanjiおもちゃで釣られ「漢字検定受ける!」と言い出した子供のモチベーションアップになればと、祇園の「漢検 漢字博物館・図書館漢字ミュージアム」にお友達親子と初潜入。
小中高生と同伴の大人は入館料が割引になりました。

学校で漢字を習い始めたばかりの小学一年生らは、壁一面の漢字の歴史年表はそっちのけで、早速「万葉仮名スタンプ」で自分の名前を押すのに大人に混じって夢中になっていました。

スタンプの次に夢中になっていたのは、目の前を泳ぐ魚の漢字表記を当てる「漢字回転すし」。巨大なアガリの湯呑みに入って撮影タイム。
漢字にまつわる図書に触れられる図書室もありました。
ワークショップも企画されているので、ぜひ事前チェックをおすすめします。

まだ文字も書けない年長の子も、漢字クイズになっている引き出しを開閉したり、マグネットを貼ったり、それなりに楽しんでいるようでした。
最も古い漢字「甲骨文字」は、占いで神と交信するために生まれたのですね。

活字マニアのお子さんを持つママさんから、ミュージアムの一角に置いてある「『漢検ジャーナル』に、過去の出題問題が一部連載されてるんですよ」と教えてもらい、かき集めるように持って帰りました。

親子共に初めての漢検学習に、最初はなかなか難儀しましたが、今では読み書きできる字も増え、すっかり漢字の虜に。
試験日を待たずして、次の級のテキストも所望されています。
もうすぐ検定本番。今まで頑張ったから、楽しめるといいね。

ラグジュアリーホテル探検

9月25

thaiホテル探検が趣味になりつつあるのですが、人気の「ヌン活」ではなく、ご褒美ランチ派です。

行ってみたかったのが、開業1周年を迎えたタイ発日本初上陸の『デュシタニ京都』。
「アフタヌーンティーでも7000円越えか…」と二の足を踏んでいたら、友人が
「平日・数量限定のランチ5,000円が3,800 (税サ込)になってるよ!」
と教えてくれました。

珍しくダイニングのお店は全て1階と地下1階に集約されています。
スタッフはやはりタイ人の方が多いようですね。
ランチメニューは、前菜4種、メイン7種の中から一つずつ選び、デザートに珈琲または紅茶が付きます。

蟹炒飯を頼んだので、自分のランチのメインは炒飯になりました(当たり前ですが)。
ボリュームとしてはもう一品欲しいところだったので、事前に公式サイト内のメニューを見て、3人以上で品数多く選び取り分けるのをおすすめします。
辛さはタイ人シェフの基準かもしれません。辛いものが苦手な人は、スタッフに辛くないメニューのご相談を。

しかしながら、タイの古都アユタヤと日本文化を融合させた内外装やインテリア、そしてリラックス感はラグジュアリーリゾートホテルならではスケールです。
そう簡単に真似して創り上げられるものではありません。
窓から見える枯山水庭園を眺めながら美味しく頂きました。

ランチの他に注目していたのが、舞妓さんの舞や日本茶が楽しめる「ティールーム」。宿泊客でなくても予約できるそうです。
日程によっては茶道体験が長唄に替わることもあるので、詳細はお問い合わせくださいね。

ホテル内の画像は、後日Facebookにてアップ予定です。

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