e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

扇子屋めぐりのススメ

6月26

sensu新しい扇子が欲しいけど、果たしてどこで買おうかな。
自分の行動範囲からGoogleマップで検索してみると、有名どころから知らないお店まで、様々な扇子屋さんがヒットしました。

初訪問したのが五条通り下ルの「伊藤常」さん。
仰ぎ用として紙扇子で探したつもりが、 憧れの香木の扇子に目が留まり。
白檀はさすがに2万超えでしたが、香りは強くない方が好みだったのでお手頃な方を選び、別売りの房に付け替えてもらって自分好みにカスタマイズさせてもらいました。
事前にネットショップも拝見していましたが、こういう楽しみは店頭ならではですね。

「自分の扱いが雑なのか、袋に入れても鞄で毎日持ち歩いているうちに数年で痛めてしまう」と嘆くと、「2、3本を使い分ける方も…」と。高価なものは二の足を踏んでしまいますが、それもありかもと思い、今度は「大西常商店」さんにも足を伸ばしてみることにしました。

久々の訪問、変わらず素敵な店構えです。
こちらでは上品な広沢があり、京都らしく骨数の多い紙扇子にしました。
起こした風にうっすら良い香りも載っています。
奇しくも、どちらも「常」が屋号に付いていますが、女将さん曰く特に親戚関係では無いそうです。

扇子選びで実感したのは、百貨店やオンラインで自由自在に選ぶのも便利だけど、それぞれのお店の佇まいも風情の一つで、心なしか値段も二、三千円代からとお値打ちな気がします。
より風を起こせるサイズに変えてみるもよし、材料が全て国産の「京扇子」にこだわるもよし。
扇子選び、扇子屋巡りはこれからも初夏の楽しみになりそうです。

日本文化の砦としての花街

6月5

siryo 先月開館した「祇園 花街芸術資料館」へ。
1時間程で見学する予定が、気がつくとトータル4時間弱も長居していました。

場所はお馴染みの祇園甲部歌舞練場やギオンコーナーに隣接する八坂倶楽部内です。

舞妓さんが手にする籠の中身や化粧道具、月毎に替える簪や帯に忍ばせる懐中時計などを間近で拝見できます。着物も帯も、さすが本物ばかりで、花街が日本の文化のみならず伝統工芸を維持するための砦となっていることに気づかされます。

五世井上八千代さんが舞い、京舞について、また自身の襲名に至るまでを語る映像もつい最後まで観ていました。どの瞬間を切り取っても凛とした女性の美しさを表していて惹き込まれるのです。

国産ウイスキーやソフトドリンクをおつまみと庭の新緑と共に楽しめるバーもあり、今なら割引価格で静かにくつろぐことができますよ。

花見小路を歩く観光客が急増したとはいえ、お茶屋に縁のある人やお金を落とす人はそう多くはないでしょう。
美しい芸舞妓さんと出会える瞬間は、たまたまそこを横切っていく姿を追うときだけ。
彼らは決してその世界観を侵そうと徘徊しているのではなく、「もっと知りたい」だけなのです。

そんな人達がツアーではなく自分達のペースで花街の文化やしきたりに触れ、間近で舞を眺め一緒に記念撮影(別料金)できる施設がようやくできたと思いました。
ここを利用することで、花街という「ハレ」と「ケ」が同居する独特の世界への理解が深まり、維持していくための一助となることを願います。

ちなみにポスターのあの美しい人は「華奈子(はなこ)」さん。
会場には彼女の別の写真も展示してあり、あの大人っぽさとは違う少女のような表情が見られますよ。

京都は「一本入る」。

2月28

stock 雛人形を飾り始める時期に明確な決まりは無いそうですが、立春を過ぎた頃からぼちぼち出す家もあるようです。
自宅を引っ越してから、玄関に季節の飾り物を置く棚が必要になりました。
久しぶりに訪れた荒神口の「ヴィンテージ・アンティーク家具&雑貨の店 STOCKROOM」。

大型量販店では出会えないような小物や家具が入り口に至る通路から並んでいて、心が躍ります。
「今日は冷やかしじゃないぞ」とお店の中を隈なく目を凝らして歩くうちに、ふと気になった木製のサイドボード。
高さの異なる別の棚がドッキングしたような形がユニークで、
「この段には花瓶を置こうか。その下には…」と想像力を掻き立てられました。

北欧の家具もいいけれど、日本のアンティークもやるじゃない。

その後、夷川の家具店通りも巡ってはみたものの、結局こちらに戻って来てしまいました。
送料を入れても3万円弱とは良心的。

京都は一本中に入ったところにいいお店がある。
河原町通りから一本東、人通りのそう多くない静かな通り沿いの古い建物の、更に薄暗い突き当りにあるお店ですが、常連らしき人足が絶えることのない人気ぶり。

数日後、我が家の玄関に収まりました。
閉まりがおぼつかなかった扉も綺麗に補正され、お店で眺めたときよりもすっきり端正な姿に見えます。引き出しを開けると、店主からの小さなお手紙も。

以前に他のネットショッピングでポチっと購入したときのまっさらの家具とは違って、既に時の旅をしてきた「家財」だからでしょうか、撫でてみると初めてなのに懐かしいというか、「うちにやって来てくれた」という気持ちが自然と湧いてきます。
ああもっと、これにまつわる物語を聞いておけばよかった!
帰宅した子供達も、これまでとは違う手触りに触れ、扉や引き出しを開けたり閉めたり、その感触を
確かめているかのようでした。

今日からこの子がうちの玄関の顔です。

2024年2月28日 | お店, 和雑貨, 未分類, 町家 | 1 Comment »

美術館に泊まる。「純国産」ホテル

6月21

tengai 古美術商の立ち並ぶ祇園・古門前に、美術茶道具商「中西松豊軒」が監修するホテル「ART MON ZEN KYOTO(アールモンゼン京都)」があります。

足を踏み入れると、御簾に囲まれた畳敷きの「天外」という、このホテルを象徴するかのようなスペースが目に入り、館内は美術商の審美眼によって選び抜かれた国内外の美術品が随所に散りばめられている事に気付きます。

まるで美術館に泊まるかのような趣向。
美術品は飾って眺めるためだけのもはありません。自分の皮膚と対話させてこそ良さが伝わるものもあります。
「和風ラグジュアリー」を謳うホテルは数あれど、日本が誇る「本物に触れられる」純国産のホテルと言えます。

全ての客室が天井高3メートル以上とゆったりとした設計で、
数寄屋の趣は好きだけど、旅館スタイルでは落ち着かないという外国客にもおすすめできますね。

ちなみに、この「天外」スペースでは、金曜日と土曜日は「THE BAR-SAKE」として営業中。
(※ご利用の際には電話にてご確認ください)
ここでしか手にできない骨董の漆器・焼物・ガラスなどの酒器で頂くお酒は、どんな口あたりなのでしょうね。
ぜひ行ってみたくなったので、またレポートしますね。

“Cha”で繋がる世界

6月6

yoshida 週末の昼下がり、ふと思い出して吉田神社へ自転車を走らせました。
京都吉田山大茶会』を久しぶりに覗いてみようと思ったのです。
黄色の横断幕が迎える石段を登り詰めると、いつもは静かな境内に所狭しと立ち並ぶお茶の屋台が見えてきました。

まずは赤い水色が目を引く韓国の五味子茶で栄養補給、和紅茶をスパイスと共に煮出したチャイをアイスでテイクアウト。
ほうじ茶と珈琲をブレンドした餡のどら焼きを片手に喉を潤していくうちに、晴天下の移動の疲れからみるみる元気になりました。

日本、中国、ベトナム、韓国、台湾、南米、ドイツ…お茶のみならず茶器や菓子、バッグ等の雑貨、お茶の木の苗木も手に入ります。
その数なんと37ブース。お客さんもお茶おたくばかり!後から興味本位で石段を登っていた外国人ファミリーは、この景色に圧倒したかもしれませんね。
お茶通でこの会の常連さんである友人達は、茶席が埋まらないうちに予約して午前中から水墨の書画体験も楽しんだようです。

ずっと雅楽のような音色が聞こえるので、吉田神社の神事と重なっているのかな、と思っていたら、更に石段を登ったところにある若宮社にて、能管とサックス、箏や笙の演奏がされていたのでした。初夏の風に乗る、気持ちの良いBGMです。
旅行で出逢ったベトナム雑貨が懐かしくなり、刺繍のバッグを自分のお土産としました。

上皇ご夫妻が葵祭を観覧

5月17

aoi 4年ぶりに勅祭・葵祭行列が斎行されました。
上皇ご夫妻が初めて観覧されるとのことで、苑内にはたくさんのSPが目を光らせていて、観覧席の前で手荷物検査の長蛇の列。
葵祭でボディチェックを受けたのは初めてでした。
報道陣がみんなかっちりと黒いスーツ姿というのも珍しい光景です。

「どこからどんな風にご覧になられるんだろう?」
「もしや高御座が御苑に運び出されるとか!?」
「まさかあの建礼門が開いてご登場か!?」
「もしも話しかけられたら『お帰りなさいませ』と申し上げるべきか」
といらんことを考えながら見回しているうちに、行列の開始直前に黒い車でご到着。

観覧席の人々が次々と立ち上がり、興奮気味に撮影するので、お二人の姿をカメラに収めるのは至難の業でした。
両陛下は行列を進む人と、何度も丁寧にお辞儀を交わしておられました。
1965年の第10回葵祭では、昭和天皇が香淳皇后と共に京都御苑内でご覧になられたこともあるそうです。

「お元気そうで良かった~」周りの人々は晴れ晴れした顔。
両陛下の真向かいで葵祭を見学していた幼稚園児達が、ご夫妻のお帰りの際に
「ばいばーい!ばいばーい!」と口々に叫んで手を振り、会場を後にする人々の笑いを誘っていました。

七五三、衣裳にこだわってみた。

11月23

753 11月15日の「七五三の日」は、「きものの日」にも制定されています。
私事ですが、先日子供達の七五三をお祝いしました。

娘の着物は、かつて赤ん坊だった私のお宮参りのために祖母が仕立てておいてくれたものに、母が「荒川 さんび」の被布を合わせてくれました。
昨年は姪が着て七五三詣り、今回はうちの娘、そして数年後にはもう一人の姪が袖を通す事になるでしょう。

それに見合うよう、息子の衣裳にはこだわりたいと思い、京都らしさのある貸衣裳を探していました。
甥が着ていた兜の柄がはんなりと上品だった事を思い出し尋ねると、二条城の近くで40年続く「お衣裳さわらぎ」のものとのこと。
そこで当時まだ製作中だったある羽織に一目惚れ。
着物としては着れなくなった古い着物を裁断しパッチワークのように繋いで、京都の職人の手で染められた正絹の古生地の反物に貼り合わせて蘇らせたという一点ものでした。

七五三の祝い方は人それぞれ。
賑わう有名神社や写真館で家族撮影をする人もいれば、公園に行く時の様にリュックを背負いシンプルに氏神さんに手を合わせたという兄弟もおられます。
蝶ネクタイの小さな男の子が、社殿の前ではにかみながら両手でピースサインをする姿もとっても可愛らしい。
その場に居合わせた人々の表情もほころびますね。

今回、写真館等のセットプランではなく、カメラマンもお食事もそれぞれ個別に手配したので、それなりの費用がかかりましたが、両祖父母達も含めて顔を合わせる機会はなかなか無いもの。成長した子供達が結婚式を挙げる頃にはもっと高齢になっている事を思うと、手間暇をかけた価値があったかな、と思っています。

ちなみに、京都府外でも、着物一式のみでもレンタルは可能(返送費用は自己負担)のようです。
レンタルするなら、京都の衣裳でしたい!という方はいかがでしょうか。

ネットの力で守っていこう

8月18

okuribi 2022年の五山の送り火は、3年ぶりに本来の形で五山全てが灯されました。

今年は四山を見渡せる西陣織会館の鑑賞会へ。
十二単の着付けを鑑賞したり、西陣織の土産物を見たり、湯に浸かった繭から糸を引き出す「座繰り」を実演するスタッフさんと語らう間に外は激しい雷雨。
それでも、これまでどれだけ酷い土砂降りでも点火されてきたので、心配はしていませんでした。

エレベーターで順に屋上へ出ると、不思議と雨が止んでいました。
安全確保の為でしょうか、今年は大文字と妙法は点火時刻を遅らせたそうです。
待機中の報道カメラマンが携帯電話を片手に、「船形が先に点いてる!?」と動揺していましたが、これもまたレアな一幕でした。

屋上にはたくさんの人が集まりましたが、広いので混雑が気になることもなく、雨上がりの送り火は想像以上に綺麗でした。

SNS上では、様々な場所から撮られた美しい送り火の光景や、それを眺める人々の思いが銘々に綴られていました。
一方で、護摩木に亡くなった人の戒名ではなく個人的なお願い事をしたためる人がいる事に違和感を覚える、というご意見や、点火時間に合わせて照明を落として景観の維持に協力するマンションやビルが減ってしまった、と嘆く声も見受けられました。

疫病禍で親から子、孫へ伝統を語り継ぐ難しさ。感想を述べ合うだけでは伝統を守ることはできません。
マンパワーだけでなく資金もやはり必要です。
クラウドファンディングにより防鹿柵で火床を守るなど、インターネットの影響力を借りて、今後はこういう情報ももっと発信していかねばと、気持ちを新たにしました。
関連動画はこちら

七夕飾りの意味

7月6

77
子供が自作の七夕飾りを持って帰ってきました。
今年も、近所の花屋に笹の葉を一緒に買いに行こうと思います。

技芸上達を願い五色の短冊にしたためて、神様の依り代となる笹竹に吊るす七夕の笹飾り。
五色とは、古代中国の陰陽五行説で世の中を構成する五行を色で表したもの(木=青(緑)、火=赤、土=黄、金=白、水=黒(紫))。
これら五色は、寺社の飾りや鯉のぼりの吹き流しなどにも魔除けとして用いられていますね。

ところで七夕飾りは独特な造形ですね。各家の軒場にさらさら揺れる笹飾りを見ていると、共通しているものがあります。

一言で表すと、
吹き流し:「手芸上達」「魔除け」
三角つなぎ・菱つなぎ:「手芸上達」
輪つなぎ:「天の川。夢や人のつながり」
野菜:「お供えもの」
折り鶴:「長寿祈願」
紙衣(かみこ):「手芸上達」
巾着:「金運上昇」
綱飾り・貝飾り:「豊作、大漁」
提灯:「魔除け」

なんと、七夕飾りの紙くずを始末するための「くずかご」まで笹飾りとしてあるとは何たる配慮。
商売繁盛を願う福笹と比べても、誰でも作れてとっても庶民的です。

それぞれのお飾りの意味や作り方は、今やインターネットでも得る事ができるので、子供と一緒に作り足してみるのもいいかもしれませんし、
受験や資格試験、音楽など自分のスキルアップのために日々勉強や修練に励んでいる人も、折り紙で折って気持ちを新たにするのもいいですね。

金銀の箔を粉末にした、きらきらの砂子のようなお星さまを、幾つになっても心の中で輝かせていられますように!

人形はお守り

4月26

musha
我が家に五月人形がやってきたので、お雛様と交代で飾っています。
やんちゃな盛りの怪獣たちの手の届かない玄関に飾れるケース入り。
鯉のぼりは、今後のお空と相談して挙げる予定です。

お雛様と同様に、武者人形や兜には、その子の身代わりとして災厄を引き受けたり、護ったりする役目があるので、子供が幾つになっても飾って良いものなのだそうです。
数年前に、不注意による事故で子供を救急搬送したことがあり、その際に家に飾ってあった小さな京陶人形の童大将の人形を「人形(ひとがた)」のつもりで、思わず手に持って同行しました。
そんな経緯で人形の顔や身体には擦れた跡が付いてしまいましたが、今も元気におもちゃで遊んでいる我が子のそばで、毎年その小さな大将を手に、気持ちを新たにしています。

今年のまだお雛様を飾っている期間中、妬きもちなのか、息子が「ぼくのお人形も出して」とせがんだので、「もう少ししたら飾ってあげるから、今だけね。」と箱から出して持たせてあげました。
ふっくらとした小さな両手にそっと載せて、嬉しそうな顔。子供にも何か伝わるものがあるのかもしれません。

武者飾りは飲食店でも飾られていることが多く、5月から本格シーズンを迎える川床のあるお店で見かけることもしばしば。
破魔弓や刀飾り等一般家庭ではなかなかできないような、立派なお飾りを垣間見る事ができそうですね。

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