e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

老舗と芸術家の共鳴

10月13

kagi  
敬愛する画家(絵師?)山口晃さんの個展「山口晃-ちこちこ小間ごと-」を目当てに「ZENBI -鍵善良房- KAGIZEN ART MUSEUM」へ。

初めて山口晃氏の作品を目にしたのは、東京で開業したばかりだった六本木ヒルズで販売されていたポストカードでした。
東京と江戸が入り混じる緻密な描写の近代建築が、まるで大和絵のように描かれており、しかも画材は日本画の岩絵の具でもなく油彩なのでした。
帰京してすぐ購入した画集には拡大して観られるようルーペまでついているほど。

ここ最近では親鸞や伊藤若冲、冷泉家など歴史上の人物の生涯を描く仕事が多いようですが、その字と絵の達筆さに見え隠れするユーモアもさることながら、その原画の小ささに思わず目を丸くし、腰を屈めて覗き込んでしまいました。
この展覧会では、撮影もSNSへの投稿も可能です。

菓子匠・鍵善良房といえば十二代当主と親交の深い、木漆工芸の人間国・黒田辰秋の作品を山口氏の感性で展示した一角もあります。
個人的に大好きな作品で鍵善良房の手提げ袋に採用されている『好きなカフェー』も立体作品になって朱漆の振り出しと並んでいました。
理屈抜きで楽しめて、老舗と芸術家とが共鳴し合う京都の奥深い一面を考えさせられる展覧会でした。

ミュージアムショップ「Zplus」では、山口氏のアイデアスケッチをもとに鍵善良房が誂えた特製和菓子も。
また一冊、我が家に画集が増えました。

和菓子で摘む秋の七草と日本茶のアフタヌーンティー

10月5

camellia  
去年の緊急事態宣言中、門を閉ざした龍安寺から南に延びる道を歩いていると、立派なお屋敷に足が止まりました。
その時は「茶道体験カメリアガーデン」という表札だけ頭に記憶。
それから一年が経ち、偶然友人からのお誘いで初めて訪問することに。

「秋の和菓子と日本茶を楽しむアフタヌーンティー」として、日本茶4種と淹れ方の講座にペアリングとして合う和菓子の数々(秋の七草にちなむ)に、お点前で頂くお薄と特製の和菓子という贅沢な趣向です。
ここ最近はホテル等で和のアフタヌーンティーを見かけるようになりましたが、和菓子に特化したものは珍しい。
まずは茶そばで虫養いしつつ、六角ちきりや茶舗亭主が複数の急須で同時にお茶を淹れる姿に見入ります。
まったりとした玉露にはナッツ入りのお菓子、また香ばしいほうじ茶には柑橘のお菓子が合ったり、貴重な碾茶は玉露風に時間を長めにして淹れて飲む、とかに日本茶の楽しみ方について新しい発見が幾つもありました。
昨年オープンした「菓子屋のなさん」には伝統的な主菓子と、老舗の老松さんには新しい発想の和菓子を誂えるなど、遊び心がユニークだけと奇抜さは無く、ボリュームもいい塩梅です。

最初は緊張して堅かったお客同士も、茶会の間の会話も撮影も自由だったせいか、互いの好きな画像を見せ合ったり、分からないことをスマートフォンで調べて共有したりしているうちに「一座建立」の極みに達していたような…。
それぞれマニアック気質な人が多かったので、茶会の後も外でも話が尽きませんでした。
今後の催しの詳細は、公式SNSをご覧くださいね。

茶を味わい尽くす家

9月28


kouro
  

お彼岸の頃、お墓参りを済ませて大徳寺を出た門前にある「皐盧庵茶舗」さんに立ち寄りました。
子連れでも可能か恐る恐る敷居をまたぎましたが、2つの茶室を含め部屋が5つもあるようで、他のお客さんが続いてもそれぞれ個室のようにすごせました。

やはりここは宇治茶カフェ。メニューにある各お茶の味の特徴がチャートにしてあって選びやすく、飲み比べメニューも豊富です。
既によく湧いていた鉄瓶のお湯で淹れてもらえるのが嬉しい。
目の前で玉露や煎茶などを、缶から茶葉をすくい出すところから見せてもらえるので、自分で淹れるときの参考になります。
お店の外にも床几があったので、秋晴れの日は外でお茶するのも気持いいでしょうね。

お膳の上に、畑作りからこだわったお茶と、干菓子と主菓子、そしてほうじ茶が香ばしいかき氷が同居する贅沢。
幼い子供達はお茶周りにハイエナのごとく食らいつくので、粗相しないよう抑えるのに必死でした。

帰り際に「月白風清」という禅語の色紙を拝見。
「やっぱり今度は一人でゆっくりお茶を味わいに来よう…。」と思うのでした。

2021年9月28日 | お店, グルメ, 町家 | No Comments »

知る人ぞ知る鷹峯の市場

9月22

taka

京都に長年住んでいる人でも知らないことはまだまだあります。
「鷹峯メルカート」という市を初めて知りました。
「ほんまにこの道で合ってるんか?」と家人に言われながら車一台通るのがやっとの山道を越えると、空が開けて京都市街を見下ろす広場に出ました。
台風一過の後だったためか、出店はいつもの半分程のようでしたが、氷室の新米や鷹峯の野菜、すぐそばで産んだばかりの有精卵、トリュフオイルやレザー用品が並んでいました。

秋の青空とそよ風を全身に感じながら、チキンクリームコロッケや自家製の野趣あふれるジェノベーゼパスタに絡まるカトラリーの音の気持ちの良いこと。
今の季節が最もおすすめかもしれません。
半分は持ち帰りにしようと思っていたローストチキンは、見事に家族に食い尽くされました。

ここではなんと、2頭の馬が飼われている馬場があり、有料で馬に乗せてもらえます。
穏やかな馬の背にまたがった子供達は大喜び。

帰り際に、「ネットで調べても、連絡先が見つからなくて…」とお店の電話番号を尋ねようと思ったら、
「大雨でもない限りは毎週日曜にやってますわ」とのこと。
行き先はGoogleマップで「鷹峯メルカート」と検索すると出て来ます。
客層は年齢層高めで、常連さんの様子。知る人ぞ知る市場なんですね。
「鷹峯メルカート」は、2021年12月12日まで。
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2021年9月22日 | お店, グルメ | No Comments »

京丹後のうまいもの

8月24

miso
京丹後市へは京都市内から車で約1時間半、電車だと特急に揺られて約2時間半です。
山に囲まれた盆地暮らしの京都市民にとって、海が迎えてくれる爽快な景色の中で開放的な気分を感じられる「もう一つのふるさと」。
これまでに実際に食してみて美味しかったものをご紹介します。

宿泊先で食事の際に供されたのは、木下酒造の「玉川」
女性にもとても飲みやすい風味だったので、酒蔵の直営店まで寄ってお土産にしました。
風格ある佇まいながらバーカウンターの様な一角もある明るい店内で、子供達と共にノンアルコールの地酒ソフトをペロペロ。
湯気立ち昇る酒造りを紹介したVTRを眺めながらだと、よりお米の甘みが感じられます。
約175年の歴史を持つ中で、イギリス人の杜氏を迎えるなど、「心を込めて旨い酒を造る」という理念のもと既成の概念にとらわれず、玄米から清酒まで一貫した管理を自社で行っているそうです。

京丹味噌・片山商店の「丹波の赤づくり味噌」。
塩辛く濃い赤だしに慣れた舌にとって、この味噌はとても穏やかで軽く、優しい甘さでした。
後でホームページを覗くと、NHK『美の壺』で紹介された影響でしょうか、現在通販では生産が追い付いていない様子。
帰りに立ち寄った「道の駅 京丹波 味夢の里」でたまたま手に取ったのは幸運だったのかもしれません。

京丹後の自然の恵みをまるごと頂く、うまいもの。
今すぐとはなかなかいかないかもしれませんが、次の京都旅は足を延ばしてみてはいかがでしょうか。

祭に食するもの

7月27

hamo 歳時記を大事にしている京都人の友人は、6月も末になると「水無月食べなきゃ」。
祇園祭の季節に入ると「したたり買って帰ろ!」「今年まだ稚児餅食べてない!」と大騒ぎ。
なんとも律儀な事です。確かにそれぞれ美味しいので好きですが、まあ忙しいこと。
食べる事で厄払いしたような安心感が得られますもんね。

その人が祇園さんの紋に似ているからと真面目にきゅうりを避けているかどうかは知りませんが、
「鱧まつり」と呼ばれるこの時期には、季節限定の食品が実にさまざま。
ずっと昔に料理人の知人から教えてもらっていて食べ損ねていた「たん義」のはも丼を思い出し、お持ち帰りを予約しました。
祇園の割烹とはいえ、3000円から5000円程でお食事ができるのは、若い人達にも嬉しいですね。
明るく感じの良い電話口の応対で、地元に長年愛された良いお店である事が伝わります。

初代から伝わる秘伝のたれをまとった焼き鱧は、箸でほろほろ、ほくほくととそぼろのようにこぼれます。
同じくご飯もほんのりたれの色に染まっていて、家族にも好評でした。
折詰のたん義弁当は、虫養いにちょうど良い分量です。
個人的には鱧の落としが好物なので、次は割烹の風情の中でライブ感を肴に頂こうと、今後のお楽しみとしました。

2021年7月27日 | お店, グルメ | No Comments »

京のおいしい定番

6月23

tenpura
ステイホーム中に実家から送られてきたものの続き。
村上開新堂」のクッキーは、シックな包装紙と紐を解くと、屋号の入った掛け紙に紅白の紐が水引のごとく結ばれ、まるで老舗の干菓子でも入っていそうな体裁です。
シンプルな缶に「シトロンクリームサンド」や「杏子ジャムサンド」などびっしりと埋められた11種類のクッキーは、ほんの1㎝程の隙間にまで小さなボーロが無数に詰まっています。
昔ながらのベーシックな味わい。しおりに「紅茶やもとより日本茶にもよく合います。」とある通り、甘過ぎずに大小様々な大きさがあるので、子供から大人まで一緒にお茶の間を楽しめるかもしれません。

いづ萬」の練り天ぷら
単体でもおかずとして成立する存在感は助かる!
スーパーで見る練り物と比べて、どら焼き並みに大きくて、ずっしりと重量感があります。
みっちりと詰まった乳白色の断面をまじまじと眺めながら咀嚼。
一口ですぐに甘みが来るのではなく、噛むごとに徐々に現れる甘味に、素材の良さが伝わります。
いつもの様に生姜醤油を添えて食卓に出しましたが、別のおかずの小皿に残っていた塩胡椒とオリーブオイルに漬けてみたら意外と合いました。

2021年6月23日 | お店, グルメ | No Comments »

一コマが語る物語

6月15

dora
以前伺ったカフェの床の間に、漫画『ドラえもん』の原稿の一部が額装されていました。
珍しいなぁと思っていたら、後に四条河原町下ル東側にある「寿ビルディング」5階の「TOBICHI京都」で「ドラえもん1コマ拡大鑑賞展」が開催されることに。

しずかちゃんの全身が描かれたコマが出迎える入り口には、開店前から数組が心待ちにしている様子。
国内外に大ヒットしている日本の漫画は数あれど、あらゆる世代の人が主要キャラクターの名前や性格まで知っている作品は稀有だと思いませんか。

油絵作品なら塗り重ねられた絵の具の盛り上がりが見えるものですが、こちらは漫画の原画の一部を拡大しているため、写植をする前の鉛筆書きのセリフや、ベタ(墨)塗りの筆跡まで、創作の息遣いが残ります。
つるつるの単行本のページを眺めるのとは違い、まるで出来上がったばかりの原稿をポップアートや線描画のようにも見える魅力がこの企画の狙いなのでしょう。

お楽しみの心ときめくグッズも多数あり、名言を吐いた吹き出しのあるコマをたくさんコラージュしたハンカチを買いました。

「なやんでるひまに、ひとつでもやりなよ」
「いっぺんでいいから 本気でなやんでみろ!!」
「せきたてちゃだめだよ。それぞれ自分のペースがあるんだから。」
「未来なんて ちょっとしたはずみでどんどんかわるから。」

アニメしか観ていなかった幼い頃は「ドラえもんってのび太くんを駄目にするくらい過保護やなぁ。」と呆れた事もありましたが、誰しも「やれやれ、世話の焼ける」と肩をすくめながらも寄り添ってくれる存在が幾つになっても欲しいものなのかも。
厳選された一コマが収められた話が収録された単行本も読みたくなるし、激励したい人にこの名言ハンカチを贈れば、まじまじと見入ってしまう事受け合いです。

涼を分かち合う菓子

6月3

kansen
実家から送られて来た荷物の中に、甘泉堂の水羊羹が入っていました。
祇園の路地裏にある名店と呼ばれています。
持った瞬間にぶにょっと箱がへこんでしまうほど柔らかく、慌てて机の上にそっと置き直しました。
ゼリーや寒天とも違う、水羊羹の瑞々しさを表すために極限ぎりぎりまで水分を含ませているのでしょうか。
箱からするりと出してみると、既に一口分ずつ切り分けられているのが有難い。

淡い小豆色の端正な佇まいに対して、霧を含んだようなもろもろとした舌触りが口中にすうっと馴染む、素朴な味。
なぜか、「しゅっとしてはるけど、気ぃやすい人」という言葉が頭に浮かびました。
「淡白」という言葉で表現するには足りないけれど、いい器を選びたくなるような気品があります。
羊羹を食べると即座にお茶に手が伸びるものですが、こちらのは甘さがかなり控えめなので、甘いものが苦手な人とでも涼感を共有できるかもしれません。
不思議と何度もおかわりしてしまいたくなる穏やかな味で、抹茶より煎茶や紅茶が合いそうです。

明日の午後は熱いお湯で香りを立たせた新茶を淹れて、ひんやり冷やした水羊羹とともに涼を取ることにしよう。

2021年6月03日 | お店, グルメ | No Comments »

テキスタイルが繋ぐ東西の縁

5月19

fin かつて京都を案内したフィンランド人夫妻から贈り物を頂きました。
北欧グッズの数々中にマリメッコのクッションカバーがあり、京都出身のデザイナー・脇阪克二氏(現「SOU・SOU」のテキスタイルデザイナー)による「ピック・ブーブー」の柄でした。
昨年からメールと手紙で互いにこのパンデミック下での近況を報告し合い、それぞれの家族の健康と平穏を祈りました。

お礼として、こちらからは日持ちのする宇治茶と、唐紙のレターブックを。
相手はとてもおしゃべりな人で、立て板に水の様な口調そのままに、話したいことが溢れすぎて便箋の裏側にまで文字が続くほどなので、
きっと便箋がたくさんいるだろうと思ったからです。
(ちなみに、息子さんは一行しか返信を書いてくれないと、嘆いておられました)

cocon烏丸にある「雲母唐長 四条店」を尋ねたのは随分前の事なのですが、上記の旨を伝えると、
レターブックの中に、フィンランド人デザイナー・Saana ja olli(サーナヤオッリ)が出がけた便箋が入っていると教えて頂きました。
奇しくも、送り先住所と同じトゥルクの出身のようです。
「マスクの仮置きに挟んで使ってください」との一文を添えて、唐紙の模様が透ける懐紙も同封しました。

そろそろ、届く頃かな。

2021年5月19日 | お店, 和雑貨 | No Comments »
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