e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

会話を邪魔しない手鞠鮨

12月25

souden

日本茶好きの友人のお誘いで「手鞠鮨と日本茶宗田」へ。
真冬でも数組が開店を待ち、みるみるうちに満席となりました。

ピンポン玉程のシャリをベースに、「洋辛子+鯛+雪輪大根」や「茶殻+稲荷+枝豆」といった何通りもの組み合わせを一口ずつ楽しめる手毬鮨に茶碗蒸し、揚げたての天ぷら3種、干し柿とレアクリームチーズのミニサイズの最中も。
自分でも真似してみたくなるような組み合わせをメモするべく、メニューもスマホで撮ってしまいました。

食事と一緒に提供された「本日の一杯」は、40度まで温度を落としてまろやかに抽出した雁金茶でした。
せっかくなので他のお茶メニューも楽しむべく、お代わりができる単品のお茶を追加。

ビール、カクテル、ワインといったアルコールにお茶を使った「茶酒」の中から、「ほうじ茶メーカーズマーク×コーラ」にチャレンジ。
ウイスキーが入っているものの、コーラの甘みとお茶の爽やかさに中和されて飲みやすく、甘いだけのカクテルでは物足りない人に良さそうです。

お酒に強くない友人は一口味見して「うわっ」とのけぞっていましたが、彼女が選んだ「玉露入り玄米茶」は釜の湯で淹れられ、5煎目でも色がしっかり出るので何度でも楽しんで(「煎がきく」と言います)いました。

立ち昇る湯気や 翡翠色のお茶カクテルがグラスに注ぎ込まれる様が目にも楽しいカウンター席にして正解でした。
割烹風でもあり、カフェ風でもあり。産地やブランドにこだわらず日本茶を提供する大人向けの日本茶カフェが増えてきた昨今ですが、こちらは店舗も広く、お酒と飲食メニューも豊富です。
メニューから内装まで、お店全体をコンサルティングされている印象でした。

お持ち帰りのお弁当やプレートは、お渡しの2日前までに要予約だそうです。
見た目も華やか、積もる話を持ち寄って集まるこの季節に、お子様からお年寄りまで一口で放り込める手毬鮨はぴったりですね。

2024年12月25日 | お店, グルメ | No Comments »

背伸びして「ほんもの」に触れる

12月17

2 色とりどりの紅葉が風に吹かれてひとつにまとまった風情を写しとった干菓子『吹き寄せ』。
様々な菓子屋で見かけますが、亀屋伊織さんのそれは憧れでした。
意匠の美しさだけでなく、生砂糖、打ち物、片栗、有平、州浜など様々な素材と製法で表現したところが和菓子の極みと言えます。
400年も干菓子一筋の老舗であり、店内にはショーケースもありません。予約して伺います。
良い意味で、客側の品格も問われるような風格に、心地よく背筋が伸びました。

上菓子に見合うそれなりの器でなくては、と思っていた矢先に朗報が。
祇園・古門前にあるビルの細い階段を上り、予約していた『骨董 水妖』の中へ。
店主の古美術愛に溢れたSNSを楽しく拝見しているうちに、セール情報が流れて来たのです。
千家十職のひとつ、飛来一閑。しかも十一代という約200年前の四方盆が骨董素人の自分にも手の届くお値段に!
びっくりするほど軽く、シンプルなので何を載せても添ってくれそうです。
「使ううちに傷が入ったとしても、塗り直せばいいのよ。気軽に使える最高級品なの」

立礼でお茶とお菓子のおもてなしを受け、その菓子皿も手の平に収まる茶器も素敵なものばかり。
まだ10月の爽やかな風が入ってくる店内には店主が愛してやまない池大雅の軸がかかり、話に花が咲きました。

オンラインショップでポイ活しながら何でもすぐに手に入る有難い世の中ですが、自身の仕事に対する愛が感じられるお店でお買い物するのはお値段以上の充足感があります。

さて、先月の野点で色鮮やかな吹き寄せを盛る前の四方盆を、お客のお茶人さんは手に取ってすぐ、はっとしたように裏を返し、「飛」の文字を確認されたのでした。
さすが、日々茶道具に触れている人には違いが分かるのかと感じ入った瞬間です。

勿体無くて食べ切らなかった分は丁寧に懐紙で包み、翌日のお稽古に出して野点の思い出話を皆さんと共有されたそうです。
黒い四方盆に映える栗、楓、銀杏、松葉、松ぼっくり、きのこ。自宅でも子供達が目を輝かせていました。

季節の移ろいを楽しむ。子供達にも何か伝わるものがあることを願います。

散り紅葉の絨毯

12月11

anraku今年の紅葉の色づきはゆっくりだったせいか、紅葉狩りの人出が分散されたと聞きます。
師走に入りましたが、まだ散り紅葉の絨毯の楽しみが残っていますよ。
SNS上のリアルタイムな投稿を検索しながら、安楽寺に行ってみることに。

石段がまるで赤い絨毯のように…とまでは積もっていませんでしたが、両脇は折り重なったふわふわの散り紅葉で華やかな朱色に染まっていました。
秋の特別公開期間は終了していたので中に入ることはできませんでしたが、紅葉が音もなく落ちる静寂をしばし眺めていました。

前日にX(旧Twitter)で観た安楽寺の山門前は、石段にもそれなりの散紅葉が積もっていたように見えたのですが、今日のはそれよりも絨毯のボリュームが減っているような。
どこへ飛んで行ってしまったのでしょうね。それともこれから積もっていくのでしょうか。
それでも、通りがかった海外からの旅人が、その静謐な空間に思わず立ち止まって溜息を漏らすほど。

すぐ近くにも茅葺の屋根と紅葉と白砂のコントラストが美しい法然院があり、安楽寺との間には小さな公園やカフェもあるので、静かな住宅地の中を散策する間の小休止もできます。
平日だったせいか、訪れる人も多くなく、一人もしくは少数のグループがぽつりぽつりと訪ねては去っていきます。
それぞれの山内に入ったときの、ひんやりとした清浄な空気とはらはらと舞い降りる紅葉、緑蒸す苔石畳にスタンプのように散りばめられた赤や黄色の葉の質感、鳥のさえずりが織りなす錦模様と空気感は、実際に足を運んでその身を置いてこそ。

散り紅葉の絨毯を観るには、散り始めた頃ではまだ積もるまでに至らず、積もっても雨に打たれると色褪せてしまうこともあるので、タイミングの見極めが難しいところですが、
来年の秋は、シーズンピークをずらして散り紅葉を味わってみませんか。

弘法市で一服

12月4

kobou
5月の
大文字山野点を機に知り合った方と、「いつぞやの弘法市のときに、会いましょうね」と約束していました。

後に相手がお茶の先生と知り、「これはいい加減なことはできないぞ」と「亀屋伊織」の「吹き寄せ」を予約。
お湯の入った水筒と共にリュックに入れて背負い、その方と友人の3人で境内をぶらぶら。
着物がお好きなようで、お店の人や珈琲ブースで出逢った人と着物談義に花が咲き、評判の鯖寿司やさんとも立ち話もしつつ、なかなか前に進まないもの一興。

南門から外側寄りに北へ周り、北大門を向けて右手の奥にある大元堂へ。
この辺りは市の喧騒から近からず遠からず。水辺に架かる橋の欄干のようなところに腰掛けました。
お堂の傍らに「開運大元帥明王(だいげんすいみょうおう)」とあります。
大元帥明王は、元来は子供を喰い殺す悪鬼(夜叉神)であったのが仏教にとり込まれ、国土や衆生を護る明王のボスとなったほとけだそうで、
小さなお堂ながらぽつりぽつりと手を合わせていく人の姿が絶えません。
私達も挨拶代わりにお賽銭をし、手を合わせました。

机や畳は無いので、木の根っこに干菓子盆を置き、持参した水筒のお湯で点てていきます。
「点てる場所の下見までしてくださってたのね」
「秋の趣向のお菓子とお茶だわ」
「お抹茶も事前に濾してきてくださったの」
さすがお茶人さんです。流派は違えどこちらのおもてなしを一つ一つ丁寧に汲み取って楽しんでくださり、お堂とそばにあった仏さんにまでお供えされていました。
ご縁に感謝。
お菓子や菓子器として使った一閑張の四方盆についてはまた後日。

古都・京都の別世界

11月26

aki上賀茂にある大邸宅。
人目につかないようにあえて剪定をせず木々を茂らせた日本庭園を各部屋から望み、大きなガラスの引き窓を開放すると、あちこちから水音が響きます。

茅葺の門やプール付きハウス、まるで教会のような立礼式の茶室など趣きの異なる各部屋に、シャガールや藤田嗣治、フェンディなど誰もが知る芸術家や服飾ブランドによる調度品が置かれ、和洋折衷に入り混じりながら調和しています。

会員制倶楽部「AIC秋津洲京都」は、飲食など当館の施設利用料金の10%が、奨学金として日本の若者がグローバルな世界で活躍するための支援に活用されるそうです。
今回利用したのは、大人向けの体験予約サイト「Otonami」のプランで、当館ではひとまず終了のようですが、ここはレストラン利用もでき、時折イベントも開催されているようです。

紅葉のグラデーションが美しい景色が楽しめるバーカウンターにて、ハンガリーの名窯「ヘレンド」のシノワズリの茶器で、オリジナル紅茶と旬の果物をふんだんに使ったタルト等を美味しく頂きました。

また一つ、古都・京都の奥深い一面を知ることができました。

なお、通常の半分の20分程の館内ツアーなら、500円で案内してもらえます。
場所柄、スマートカジュアル以上の服装がおすすめです。

秋の嵐山「弾丸」訪問

11月20

arashiyamaようやく秋らしい寒さが、木々の端々を染め初めた平日に、嵐山福田美術館へ母と行く事になり、交通手段について思案していました。

ハイシーズンのマイカー乗り入れは混雑で動けなくなるので御法度、「電車で行けるところまで行く」「パーク&ライド」が鉄則です。
ですが、健脚でない人と一緒となると迷いが生じます。

嵐山駅より数駅手前まで電車、そこからタクシー移動を提案しようとすると、母の方でも独自に調べてくれた模様。
結局母の提案通り、いかりスーパー「ライクス常盤店」まで車で行きお弁当を買って、そこからタクシーで10分程ですんなり福田美術館に着く事ができました。

鑑賞後は川の畔で手漕ぎボートの景色を眺めながら二人でライクスのお弁当とデザートを食べ、渡月橋を度々通過する流しのタクシーを捕まえて帰路に着きました。

ここ数年は平日も週末と変わらない混雑を覚悟していましたが、たまたま人出がましだったのか、紅葉の色づきが遅いためなのか、行き先をピンポイントに絞ったためなのか、意外にもサクッと嵐山訪問する事ができました。

ちなみに福田美術館の若冲展は、来年1月19日まで開催されています。
紅葉狩りが落ち着いた頃に嵐山温泉と共に楽しむのもいいですね。

菓子と源氏で数寄あそび

11月13

kasi有斐斎 弘道館」と「旧三井家下鴨別邸」にて15日まで京菓子展が開かれています。今年のテーマはやはり「源氏物語」。

和菓子店でも茶会でも出逢えないような創作を凝らした菓子たちは、撮影もSNSへの掲載も可能です。
3つも賞を受けられた海外作家の作品は、自らの舌でその食感を試したい欲に掻き立てられました。
個人的に最も目に焼き付いたのが、第三十五帖「若菜下」から着想を得た「哀焔」。
形そのものは、「黄味しぐれ」を連想させますが、真っ黒な墨色の塊の中からマグマのように真っ赤なあんがその身を内側からうち破らんとしています。
まるで怨念でその心身を自ら蝕んでしまった六条御息所を思わずにはいられない。
さて、こんな意味深な菓子を誰に送りつけましょうかね?

選抜作品の中から、自分で選んだものを呈茶席でいただくことができます。
「あなたの前にあるその黒い茶碗は、俳優の佐藤健さんが飲まれたものなんですよ。」
有職菓子御調進所 老松」のご主人の軽妙な語り口からは、源氏物語に始まり、弘道館のしつらいや催しのこと、近隣の名所のこと、この茶室を訪れた著名人のエピソードまで話題が次から次へと飛び出してきます。
現代の数寄者として古典を楽しもうという意欲に溢れておられ、茶道経験のない人でもきっと楽しめるのではないでしょうか。

呈茶菓子は公式サイトで確認できますが、人気のものは売り切れることもあるので、午前中の静かな間に入られることをおすすめします。

茶を点てすぎて死ぬ

11月6

yori

連休中に放映された大河ドラマ『光る君へ』で、平等院鳳凰堂が紹介されました。
平等院ゆかりの能の演目に『頼政』、狂言に『通圓』があります 。
画像は、平等院境内にある境内にある頼政の墓地。同じくゆかりの「扇の芝」は、観音堂の保存修理に伴い立ち入りできなくなっているので、ご注意ください。

後者の狂言は『頼政』のパロディだそうで、
頼政』の方では宇治の戦いで平家軍300人が平等院に押し寄せ、源頼政は自刃する悲劇がモチーフになっていますが、
通圓』 では、客人300人が押し寄せ、茶屋坊主の通圓はお茶を点て過ぎて「点て死に」した話なのだそうです。

「点て死に」なんてパワーワードは初めて聞きました。
恐るべし、京の茶処・宇治

「神鰻」と子授けの神

10月28

sinman 今年の秋の土用の丑の日は10月28日です。
毎年10月26日には滝尾神社境内にある三嶋神社祈願所にて、「うなぎ祭」こと「鰻放生大祭」が斎行されています。
ここが密かに「子授け」「縁結び」の社であること、ご存じでしたでしょうか?

人と鰻とは、弥生時代の土器に鰻が描かれているほどに古くから縁があるそうで、伏見稲荷大社の狐や北野の牛などのように「神の使い」すなわち「神鰻(しんまん)」という言葉があることを知りました。

1月に滝尾神社拝殿の龍を拝観した際に、鰻が描かれた絵馬が気になっていたので、この機に観せていただくことに。
ちなみに馬町の三嶋神社本宮にも趣きましたが、「今日お祭の列がこちらに来ることはありませんよ」とのことだったので、要注意です。

鰻を扱う飲食店や業者の面々とおぼしき方々が参列し、店名が詠み上げられます。
参列者が榊を奉納した後、供えられていた透明ケースの中の鰻が、境内の池の中へと放たれました。

平安末期、後白河天皇の皇后・建春門院が摂津の国(現在の大阪府高槻市)の三島鴨神社に祈願され高倉帝を授かったことで、平重盛に銘じて京に三嶋大明神を勧請したのが京都の三嶋神社の始まり。
その後、今となってはマンションの隣で祠の様に小さくなった三嶋神社本宮ですが、平成15年には秋篠宮殿下が御親拝されたそうです。

安産祈願中は鰻を禁食する習わしがあるそうですが、産後は滋養をつけるため大いに食しても良いのだそうですよ。

2024年10月28日 | 未分類 | No Comments »

夜の平等院鳳凰堂

10月22

byo先日、夜の平等院鳳凰堂の前で能楽の特別公演がありました。
夕方の宇治川周辺の観光施設も門戸を閉じ、昼間の喧騒も落ち着いたころの、夢うつつような風情もまたいいものです。

境内の茶房「藤花」で限定菓子「紫雲」と水出しの煎茶、お薄を頂きました。
さすが宇治は茶処、どれも美味しい。

「スーパームーン」前夜の演目は半能「頼政」と狂言「口真似」、能「羽衣 盤渉」。
「頼政」は、平安末期、宇治の合戦で平家軍が平等院に押し寄せ、自刃した源頼政の『平家物語』を題材とした演目です。
頼政の能面はこの曲だけに用いられる特殊なもの。年老い枯れながらも情念を感じさせる表情、窪んだ眼はライトの光を捉えて凄みがありました。

境内には頼政が自ら命を絶ったとされる跡「扇の芝」や、「源頼政の墓地」があります。

「羽衣」では、天女が羽衣を羽織った瞬間、平等院の屋根の鳳凰を背後に衣装の背一面に白い鳳凰の刺繍が現れ、思わずため息が洩れました。
正面からは両翼の羽が折り重なるような意匠となっており、装束展で観たときには気付かなかった新たな発見でした。

まさに天女が舞い上がろうという場面の直前、一羽の鳥が声をあげて飛び立ち、朧月夜だった空はいつしかすっかり晴れて月が青白い光を放っていました。

夜の平等院は特別拝観などの催しがあるときだけ入ることができます。
暗闇を進む砂利の音、虫の声、そして創建以来ずっとここに佇む鳳凰堂と水鏡。
きっと、忘れられない一夜となりますよ。

« Older EntriesNewer Entries »