e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

名もなき者が遺したもの

4月12

taizo 妙心寺退蔵院の桜の咲き具合は、前週末でこんな感じでした(画像参照)。
春の特別拝観期間中はまだ袖を広げていてくれるでしょうか。
せせらぎが潤し、大きな花傘をさしたかのように枝垂れ桜が立つ余香苑は、現住職のお父様が作られたものだそうです。
また、宮本武蔵も修行したと伝わる方丈に残る襖絵は400年もの歳月が経っており、その間に一度も修理された事が無いと聞いて、再び振り返ってしまいました。
表は一枚の和紙に見えますが、その断面は何枚ものミルフィーユの様な層になっていて、その目に見えないところに施された丁寧な仕事が、高温多湿な日本の気候にも耐えてきたのです。
副住職の松山大耕さんが話していた「決して評価される事の無い、名も無い人々が作り上げ遺して下さったものの恩恵を受けて私達は生きている」という言葉が胸に残りました。
枯山水の白砂の溝にも花びらが落ち、普段は侘びた風情の禅寺が艶めく季節です。
夜桜のライトアップも17日まで。

天神さんの残り福

2月29

sara 受験の時の合格祈願、お茶の先生に連れて行ったもらった天神さんの蚤の市、恋心を抱いた相手と巡った梅香る梅苑、一眼レフカメラを片手に歩いた紅葉の御土居。
北野天満宮は今までに何度も訪れているのに、梅花祭当日に境内を歩いたのは意外にも初めてでした。
上七軒主催の野点茶会に参加したかったのですが、都合で終了間際に着いたために入れずじまい(やはり事前に前売り券は買っておくべきですね)。
仕方無く本殿でお参りだけ済ませて、久しぶりに天神さんを楽しむ事にしました。
そもそも今回のお目当ては、来客時に鍋料理を取り分けるための器を探す事だったのです。
アンティーク着物に、コーヒーや玉こんにゃくの屋台、まるでしめじの様に乱立するこけしに、機械や簪のパーツまで。
今やインターネットでも気軽に売買できる時代ですが、こうして実際に色んなお店を見ていると、魅かれるお店は商品の並べ方も見やすく、分かりやすいものですね。
「見立て」として、本来とは異なる用途を連想するのも、また楽し。
ふと目に留まった、「5枚2000円」の染付の器。同行した母親も同じ所で足を止めていました。
一枚ずつ微妙に異なる手描きの、ほのぼのとした山水図がなんだか可愛らしくて手に取っていると、お店のおじさんが更に奥から出して来てくれました。
「12枚で3000円でええよ」との声に、母と半分ずつという事で早くも決まりました。
売り手にとっては、半端な数が売れ残っても仕方無いのでしょう。
掘り出し物を狙う人なら朝早くから行くのでしょうが、残りものにも福はありました。
今月下旬までは、宝物殿にて今、歴女の中でもアツい「宝刀展」が開催されています。

節分とだるまさん

2月2

daruma 節分に見られるのは、鬼やおかめばかりではありません。
「だるま寺」で知られる上京区の法輪寺は、お守りから木像に絵画、建築にとあらゆるものが「だるまだらけ」なのは想像通り。
更に茶席のお菓子も、表で売られているお焼きもだるま型の「だるまスイーツ」!そして、茶道具までも雪だるま柄とは。
京都のお寺には珍しく、横たわった涅槃の姿の釈迦像や、いわゆる「トイレの神様(仏様)」としてお札で代用される事の多い烏枢沙摩(うすさま)明王像も、この機会に拝見する事ができます。
境内のあちらこちらで老若男女がご奉仕されており、子供連れのご近所さんの訪問も多い様子。
壁に九年面したとも言われる達磨大師の厳しい座禅修行のイメージとは裏腹に、参拝者とお坊さん達との距離が近く、和やかな空気が感じられました。
受付の方が「毎回いいお話で面白くて、和尚さんのファンなの!」と言う「だるま説法」は、最終が20時からとなっていますので、夜のお詣りも楽しめますね。

ロックスターが京都で見せる表情

1月18

rock  日本人で初めてザ・ビートルズを撮影した日本人写真家・長谷部宏さんが、写真集『ROCK STARS WILL ALWAYS LOVE JAPAN』を発刊するのを記念した写真展
デヴィッド・ボウイ、ニール・ヤング、ボン・ジョビ、KISS、クイーン、マドンナ、U2など洋楽雑誌『MUSIC LIFE』で被写体となった大物アーティスト達が京都や東京に奈良、倉敷等を訪れ、新選組や学ラン、寿司職人のコスプレをするものもあれば、龍安寺の石庭を静かに眺めていたり、東大寺の前で膝をついて真剣に拝んだり、あるいはごく普通の地味な姿で街並みに溶け込んだり。
ぞれぞれの作品に一枚ずつ添えられた取材の記録も興味深い。
人気者ゆえに撮影場所への制約があったり、行動が奔放だったりアーティストとしてのプライドがあったり、実際に会ってみると印象が違っていたりと様々な気付きを経て、オンとオフが入り混じった彼らの一面を引き出すために工夫が凝らされていた事でしょう。
京都での撮影は、ツアー等で来日した彼らが観光目的で訪れる事が多かったようで、やはり金閣寺清水寺は定番のよう。渡月橋や老舗旅館の前でポーズを取っているところからはリラックスし、また開放感ある表情が読み取れます。
驚く事に、この展覧会の展示作品は撮影OK、ツイッターやフェイスブック等での拡散もOKなのです。
この写真集。ロック好きな方へのバレンタインプレゼントにいかが?

D&DEPARTMENT KYOTO

11月3

d  仏光寺の境内に、デザイナーのナガオカケンメイさんや京都造形芸術大学の学生らがギャラリーを併設したセレクトショップ「D&DEPARTMENT KYOTO」を開店して、もうすぐ一年になろうとしています。
もとは物置として使われていた和合所を改装して販売されている品は、京都の伝統工芸品や調味料、雑貨等、流行や時代に左右されずに愛されてきたものたち。
おそらくどこかのお店で使われていたと思われる岡持ちや木のお盆、昨年営業を終了した「京都国際ホテル」の名前が裏に入ったノリタケの白いお皿、実験用のシャーレに書籍など、新品からアンティークまで、アイデア次第で新たな価値を生み出しそうなわくわく感で満ちていました。
隣のお茶所は、仏光寺で採れたかりんで作ったドリンクや京都の名産を上手くアレンジして取り入れた軽食や甘味が楽しめます。
京都店は、「ロングライフデザイン」をテーマに、物販・飲食・観光を通して地域の「らしさ」を見直す「D&DEPARTMENT」プロジェクトの10 店舗目に当たり、山梨や富山などの他の店舗の情報が掲載されている専用誌もここで読む事ができます。
単なる名産の寄せ集めではなく、セットメニューのお茶や添えられた塩昆布も丁寧に作られていて京都らしさがちきんと感じられ、ショップで見かけた調味料や器も使わており、それが地域の「らしさ」を現代生活に取り込むインスピレーションを与えてくれるので、思わずお茶所から再びショップに戻ってしまったほど。
「防火用」と書かれた赤いバケツを衝動買い。そう、京町家の軒先でよく見かけるアレです。
年末のお掃除用や、傘立てとして使ってみようかな。

京のお昼間接待コース

9月14

hana 他府県の知人達が京都に来たので、「花咲 錦店」に案内しました。
以前に食通の方から教えてもらっていたお店で、実は、京都でも有名な料亭での修行経験を持つ人が腕をふるっているそうです。
最初のうちは一皿毎のボリュームが少な目かな?と感じますが、終盤になるとしっかりお腹も膨れて良い加減になります。
締めは、珍しく漬物のお寿司。じゃこご飯にも変更できます。
一番手頃な3300円のお昼の会席「柏木」コースを選び、適度にビール等を頼んでも、6名で3万円ちょっと。お土産に手作りのちりめんじゃこを一人ずつ頂けるのも心憎い演出中です。
中でも、かぼちゃのあんにぶぶあられをまぶし、あんかけにしたひと品は人気のメニューらしく、あちこちから「美味しい…」と匙ですくいながらしみじみと呟く声が。
細い路地を進めば町中の喧騒も感じさせず、肩ひじ張らずに寛げる個室に明るい和服の仲居さん、舞妓さんや芸妓さんを呼ぶ事もできるそうで、
「京都らしさのあるお店の和食で、もてなしたい」「できれば財布にも優しく…」というニーズに特化したお店を目指しているのかもしれません。
お店の人に見送られた後は、すぐそばの錦市場をぶらぶら歩き、「大国屋」の「ぶぶうなぎ」をお土産に持たせて、疲れたら「SOUSOU在釜」で一服。
客人にも楽しんで頂けたようでした。

伏見稲荷大社の呈茶所「松の下茶屋」

8月31

matu 非公開文化財特別公開の際に何度か公開されていた伏見稲荷大社のお茶屋の一部が、6月から呈茶所「松の下茶屋」として開放されています。
お品書きはお茶と和菓子のセット(1200円)のみで、訪れた時の飲み物は、抹茶と水出し煎茶、グリーンティーの中から選ぶようになっていました。
もとは当社の官舎であったのが後に料亭として使われ、再び大社が買い取ったという経緯があり、御所由来と言われるその風格漂う造りやしつらいに名残があります。
洋間もある屋敷の廊下を渡って大広間に足を踏み入れると、眼前に緑豊かな庭園が広がりました。
稲荷山から降りて来たばかりの火照った身体に、氷を浮かべた冷たいお薄や、甘みが濃厚に引き出された煎茶が喉をすうっと通り抜けていきます。
境内はたくさんの人で賑わっていますがこちらは静かで、かといって客足が絶えることも無く、すっかりお茶を飲み干した客人達は、銘々にぼんやりとお庭を眺めながら、心身を潤している様子。
5名以上の希望があれば、二階でお茶席を開いて下さるそうです。
お昼は賑やかなお稲荷さん参道の茶店できつねうどんや稲荷寿司などを食べ、お山を巡った後は松の下茶屋で庭と茶碗の緑でクールダウン、という参拝計画もいいですね。
土日と祝日、毎月1日限定の営業です。

「法」の送り火

8月17

hou 今年は「法」の送り火を観る事にしました。
北山通りの混雑を避けて一筋北の小道をひたすら東へ自転車を走らせます。それでも多くのご近所さんがたくさんの家族親族を伴って歩いていました。
「法」の字のふもとに「松ヶ崎大黒天」と呼ばれる妙円寺があるので、その付近から眺めようかと出発したのですが、住宅で火床が見えなくなるぎりぎりの所でたまたま目に入った脇道に入り、アパートや家々に挟まれた駐車場に停める事にしました。
ちなみに、妙円寺では送り火前日に甲子前夜祭が、当日には甲子祭が行なわれていたようです。そして送り火翌日には、焚き上げられた護摩木の消し炭を厄除けのお守りとして拾いに来る人々のために、普段は入山できない松ヶ崎山を開放しています。
また隣の涌泉寺では、日本最古の盆踊りと言われる「松ヶ崎の題目踊り」が行なわれる事でも知られています。
既に来ていた何人かおじさんや学生さん達が世間話をしながら点火の瞬間を待つ中、周囲の関係者や他の送り火保存会との交信でしょうか、時折ちかちかと灯りが放たれています。
そのうちに山の方から太鼓を打ちならす音や、「5分前です」と保存会員へのアナウンスが聞こえてきました。
点火時刻の1分前になっても一向に真っ暗なままの山肌を見ながら周囲の人々が「雨降ったさかい、親火湿ってちゃんと火いつくんかいな」と心配するのも束の間。
いきなり一斉に火が灯り、あっというまに「法」の字が浮かび上がりました。
辺りの空気をも赤く染める一つ一つの大きな火柱の横に白い人影が毅然と立ち、京の街並みを見据えています。
昨年の送り火当日もひどい集中豪雨でしたが、どんな天候であっても、還っていくお精霊の為に、燃え盛る炎であの世への道筋をつける誇り。
この「いつも通りに」が何百年も前から積み重ねられてきました。
京都では、五山の送り火を境に、「暑中見舞い」が「残暑見舞い」に切り替わります。

西福寺の地獄絵

8月10

saifuku 六道参りで賑わう「六道の辻」。「轆轤町(ろくろちょう)」と呼ばれる地に建つ西福寺にもお精霊を迎える鐘があり、毎年地獄絵が公開されています。
「壇林皇后九想図」は、仏教に深く帰依していた壇林皇后が「諸行無常」の真理を身をもって示すために、自らの亡骸を放置させ、それが膨張し腐敗し鳥獣に啄ばまれてバラバラの骨となり土に還るまでを9段階に分けて描かせたという強烈な伝説が残るもの。
「地獄絵・六道十界図」では、没後49日目に死後の世界で「地獄」「餓鬼」「畜生」「修羅」「人間」「天上」の6つのどの世界に生まれ変わるかの判決が下され、また供養をする事で亡者の罪業を軽くし、阿弥陀三尊来迎仏に導かれて極楽浄土へ行けるという仏教思想の一つを説いています。
思えば、初めて「地獄」というあの世の世界を認識したのは、子供の頃に絵本「じごくのそうべえ」を読んでもらった時でした。
因果応報を説く地獄絵図は、近年子供への躾として再注目されているといい、母も子供の頃に毎年地獄絵を観て、子供ながらに「悪い事をしたらしたら罰が当たる」と感じていたそうです。
「こら、なぶったら(触ったら)あかん」と子供を諭す父親がいる隣で、腰をかがめてまじまじと絵を凝視する大人たち。
この絵図の現物が描かれた当初は、天災や戦で野晒しになった死体を大人も子供も実際に目の当たりにする事もあったかもしれません。
映画やアニメ、動画サイトで幾らでも恐ろしい映像を観る事も、逆に避ける事もできる現代ですが、親や祖父母の手にひかれて眺める地獄絵は、今の子供達にどう映るでしょうか。

祇園祭は浴衣で乾杯

7月21

daimaru  祇園祭・前祭の宵山。浴衣に下駄を引っ掛けての晩御飯は二箇所で、それぞれ真逆の風情を楽しみました。
まずは錦市場の中にある魚屋さん「錦大丸」(075-221-3747)。刺身パックの並ぶ冷蔵ケースをぐるりと囲む発砲スチロール箱をテーブルに、ビール瓶のコンテナをイスに据えた即席居酒屋です。
ケースを開いてイカ等の好きな刺身の盛り合わせを選び、お隣さんと肩を並べて冷酒で乾杯。揚げたての鱧の天ぷらや、鯖や鰻の寿司はお店の奥から運ばれて来ます。
もうここ数年、前祭宵山期間のみの定番になっているそうで、愛犬連れの常連さんの姿もありました。
その後は祇園さんの魔力に吸い込まれていくように足取りは八坂神社の方向へ。
ほろ酔いのまま、人影もまばらになった花見小路の奥から祇園甲部歌舞練場へと入り、今度は「祇園 ICHIBAN ビアホール」へ。
行燈の灯りが落ちる赤い絨毯、窓一面にはライトアップされた日本庭園が広がり、四条通りの喧騒が嘘のような静けさでした。
庭園に向けた小さなカップルシートやテーブル席、立ち飲みスペースに、金屏風の奥には、12名程が一同に座れる長テーブルの半個室空間もありました。
冷房の効いた少し薄暗い即席ビアホールで、歩き疲れた足指をゆっくり休ませ、酔い覚ましにお庭の散歩も楽しめました。
同時開催中の「舞妓物語展」、「フェルメール光の王国展」も共に8月31日まで。

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