e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

菓子と源氏で数寄あそび

11月13

kasi有斐斎 弘道館」と「旧三井家下鴨別邸」にて15日まで京菓子展が開かれています。今年のテーマはやはり「源氏物語」。

和菓子店でも茶会でも出逢えないような創作を凝らした菓子たちは、撮影もSNSへの掲載も可能です。
3つも賞を受けられた海外作家の作品は、自らの舌でその食感を試したい欲に掻き立てられました。
個人的に最も目に焼き付いたのが、第三十五帖「若菜下」から着想を得た「哀焔」。
形そのものは、「黄味しぐれ」を連想させますが、真っ黒な墨色の塊の中からマグマのように真っ赤なあんがその身を内側からうち破らんとしています。
まるで怨念でその心身を自ら蝕んでしまった六条御息所を思わずにはいられない。
さて、こんな意味深な菓子を誰に送りつけましょうかね?

選抜作品の中から、自分で選んだものを呈茶席でいただくことができます。
「あなたの前にあるその黒い茶碗は、俳優の佐藤健さんが飲まれたものなんですよ。」
有職菓子御調進所 老松」のご主人の軽妙な語り口からは、源氏物語に始まり、弘道館のしつらいや催しのこと、近隣の名所のこと、この茶室を訪れた著名人のエピソードまで話題が次から次へと飛び出してきます。
現代の数寄者として古典を楽しもうという意欲に溢れておられ、茶道経験のない人でもきっと楽しめるのではないでしょうか。

呈茶菓子は公式サイトで確認できますが、人気のものは売り切れることもあるので、午前中の静かな間に入られることをおすすめします。

古門前でコーヒーを。

7月3

loto 祇園さんこと八坂神社の氏子地域は広範囲にわたります。
中でも17日の神幸祭で祇園祭の神輿が通る古門前通りは、画廊美術商懐石料理店等が並び、祇園の中でも落ち着いた大人向けのエリアといった趣きです。

その一角にある「Cafe Loto Kyoto」は、アート巡りの合間の喉を潤すのにちょうど良いスタンディングカフェ。

大理石のカウンターに淡いグリーンが目を引くエスプレッソマシンは、シアトルのMavam製。開店当初は、京都のコーヒー店で初めて導入されたものだそうです。
香しい珈琲豆の香りの中で、今までに見たこともない動きに目を奪われてしまいました。

訪れたのは6月も下旬、ベリーが鎮座するタルトが水無月に見えてしまい、アイスカフェラテと共に頂きました。
細い路地を抜ける風、さくさくのタルト生地と果実の酸味、ミルクに溶け込むビターなコーヒーを交互に行き来する、ささやかだけど深い幸せ。
季節の果物のジュースや、抹茶を楽しむイベントもあります。

マドレーヌ等の焼き菓子は、このカフェをプロデュースした料理研究家・武田雅代さんの手作り。2階は料理研究所武田サロンとなっていて通常は非公開ですが、「ウェルカムセット」をオーダーすると上がらせてもらえるのだとか。

お土産には、限定帆布バッグ入りのコーヒドリップバッグのセットも。
一澤帆布とのコラボはとても珍しいそうですよ。

更に注目していただきたいのは、しつらいだけでなく公式インスタグラムの投稿に散りばめられた、京都に息づく職人技などの文化に触れられる話題です。
古門前に足を運ぶ人々の審美眼にかなうカフェでした。

扇子屋めぐりのススメ

6月26

sensu新しい扇子が欲しいけど、果たしてどこで買おうかな。
自分の行動範囲からGoogleマップで検索してみると、有名どころから知らないお店まで、様々な扇子屋さんがヒットしました。

初訪問したのが五条通り下ルの「伊藤常」さん。
仰ぎ用として紙扇子で探したつもりが、 憧れの香木の扇子に目が留まり。
白檀はさすがに2万超えでしたが、香りは強くない方が好みだったのでお手頃な方を選び、別売りの房に付け替えてもらって自分好みにカスタマイズさせてもらいました。
事前にネットショップも拝見していましたが、こういう楽しみは店頭ならではですね。

「自分の扱いが雑なのか、袋に入れても鞄で毎日持ち歩いているうちに数年で痛めてしまう」と嘆くと、「2、3本を使い分ける方も…」と。高価なものは二の足を踏んでしまいますが、それもありかもと思い、今度は「大西常商店」さんにも足を伸ばしてみることにしました。

久々の訪問、変わらず素敵な店構えです。
こちらでは上品な広沢があり、京都らしく骨数の多い紙扇子にしました。
起こした風にうっすら良い香りも載っています。
奇しくも、どちらも「常」が屋号に付いていますが、女将さん曰く特に親戚関係では無いそうです。

扇子選びで実感したのは、百貨店やオンラインで自由自在に選ぶのも便利だけど、それぞれのお店の佇まいも風情の一つで、心なしか値段も二、三千円代からとお値打ちな気がします。
より風を起こせるサイズに変えてみるもよし、材料が全て国産の「京扇子」にこだわるもよし。
扇子選び、扇子屋巡りはこれからも初夏の楽しみになりそうです。

誰かの実家で食べるごはん

5月27

chikoro 大文字山を下山したころ、世界遺産・銀閣寺の参道のお店がすっかり営業を開始していて、多くの観光客で賑わっていました。
一息つくのにどこに寄ろうか彷徨ううちに南側へ延びる脇道が目に入り、直感的に進んで行くと、やっぱりありました。古民家カフェ。

入れ違いに玄関を出てきた外国人のマダムの穏やかな表情が、静かで落ち着いた時間をすごせたことを物語っています。

縁側の隅には持ち主のものと思われる文庫本がしまわれており、いかにも銀閣寺界隈に古くからあるような、文芸的な薫りのするおうち。
「家は使わないと傷んでいってしまうから…」と、身内の方が静原の自家農園で採れた野菜や近隣の新鮮な有機野菜や有機食材でこしらえた自家製のランチやお菓子を提供しています。

床の間の棚の扉には「大」の字が。「大文字」の送り火のお膝元なので、後から入れられたのだそうです。珍しく高さのある木枠に収まった火鉢など、アンティークショップにあるような家財がそこかしこに馴染んでいます。
帰り際に玄関に飾られているお花は、なんと人参の花なのだそう。

アップテンポなBGMや映えるスイーツのカフェも気分がアガるけど、「誰かの実家で食べるごはん」という環境は腰を下ろしてほっとするのに最適ですね。
Cafe Chikoro」はまだ昨年オープンしたばかり。銀閣寺を目指して人混みを歩く人々にも教えてあげたくなりました。

京都の名建築、明治村にあり。

3月11

meiji小京都」と呼ばれる町は日本各地に見られますが、それとは別に、かつて京都にあった建造物がたくさん移築されているのが愛知県犬山市にある「博物館 明治村」です。

約100万㎡という広大な敷地内を、日本初の一般営業用電気鉄道であった「京都市電」が来場者を乗せて走り、「京都七条巡査派出所」のそばにある「市電 京都七条駅」に停車します。
この赤レンガのタイル張りがモダンな派出所は、西本願寺前に建っていたのだそうです。

河原町三条で創業、後に御幸町通に移転して営業していたという「京都中井酒造」。
現在明治村で甘味処としても利用できる京町家の一角には「岩竹」という銘柄の酒瓶と酒樽が据えてありました。
樽には「京都中井酒造ゆかりの酒」、瓶のラベルには伏見区下鳥羽の「三宝酒造」とあります。
京都中井酒造も三宝酒造も廃業もしくはその住所では既に営業されていない様子ですが、
御幸町二条には「清酒 岩竹」とだけ書かれた看板が残っているようです。

聖ヨハネ教会堂」は「日本聖公会京都五条教会堂」として、明治40年から昭和38年に解体されるまで京都に存在していました。
外観こそ洋館そのものですが、内部の天井には京都の気候に合わせて竹のすだれが採用されています。
この堂々たる佇まいの洋館が河原町通五条にあったのかと、想像が膨らみますね。

他にも北区小松原北町にあったという茶室「亦楽庵」「宮津裁判所法廷」など、これら京都にゆかりのある建造物の多くが登録有形文化財に指定されています。
機会があれば、ぜひ注目してみてくださいね。

京都は「一本入る」。

2月28

stock 雛人形を飾り始める時期に明確な決まりは無いそうですが、立春を過ぎた頃からぼちぼち出す家もあるようです。
自宅を引っ越してから、玄関に季節の飾り物を置く棚が必要になりました。
久しぶりに訪れた荒神口の「ヴィンテージ・アンティーク家具&雑貨の店 STOCKROOM」。

大型量販店では出会えないような小物や家具が入り口に至る通路から並んでいて、心が躍ります。
「今日は冷やかしじゃないぞ」とお店の中を隈なく目を凝らして歩くうちに、ふと気になった木製のサイドボード。
高さの異なる別の棚がドッキングしたような形がユニークで、
「この段には花瓶を置こうか。その下には…」と想像力を掻き立てられました。

北欧の家具もいいけれど、日本のアンティークもやるじゃない。

その後、夷川の家具店通りも巡ってはみたものの、結局こちらに戻って来てしまいました。
送料を入れても3万円弱とは良心的。

京都は一本中に入ったところにいいお店がある。
河原町通りから一本東、人通りのそう多くない静かな通り沿いの古い建物の、更に薄暗い突き当りにあるお店ですが、常連らしき人足が絶えることのない人気ぶり。

数日後、我が家の玄関に収まりました。
閉まりがおぼつかなかった扉も綺麗に補正され、お店で眺めたときよりもすっきり端正な姿に見えます。引き出しを開けると、店主からの小さなお手紙も。

以前に他のネットショッピングでポチっと購入したときのまっさらの家具とは違って、既に時の旅をしてきた「家財」だからでしょうか、撫でてみると初めてなのに懐かしいというか、「うちにやって来てくれた」という気持ちが自然と湧いてきます。
ああもっと、これにまつわる物語を聞いておけばよかった!
帰宅した子供達も、これまでとは違う手触りに触れ、扉や引き出しを開けたり閉めたり、その感触を
確かめているかのようでした。

今日からこの子がうちの玄関の顔です。

2024年2月28日 | お店, 和雑貨, 未分類, 町家 | 1 Comment »

「大市」に聞いてみた

11月21

maru お品書きは〇鍋コース一択のみという「すっぽん料理 大市」。
暖簾を潜った瞬間から、すっぽんの出汁で空気まで染まっているのではと思うくらいの濃厚な香りに圧倒されました。

坪庭のある渡り廊下を通って小部屋に入ると、低い天井の数寄屋造りの部屋には床の間に掛け軸が掛かっています。
まさしく「京都に昔からあるお店」の風情です。

ごうごうと湯気の上がる鍋の前で、仲居さんがてきぱきとした手つきで取り分けてくれます。
おそらく臭み消しと思われるお酒と生姜がふんだんに使われているようで、スープも濃い!
ぷりぷりとしているのは甲羅周辺にある「エンペラ」という部位でしょうか、身とともに食感はフグに似ていますが、より「肉を食べている感」があります。
リクエストした家族は、「うん、うん、うまい」と頷きながらハフハフと、ひとくち大の骨もしゃぶるように食べていました。

熱々の状態で食べるために2度同じ鍋が運ばれ、締めにオレンジ色の黄身が浮かんだ雑炊となって運ばれてきました。
大きな餅にかけて食べる雑炊も、濃厚な味わいで食べ応え十分。

そこで、ここに来るからには、ぜひお店に尋ねてみたいことがありました。
このお店をモデルにしているという漫画の3巻に収録されている「土鍋の力」の回を読んで予習してきたので、いざ仲居さんに質問をぶつけてみました。
「あ、あの…既に色んな方から尋ねられている事かと思いますが…漫画『美味しんぼ』に描かれているように、空の土鍋に水を張っただけですっぽんの出汁が溶け出すことってあるんでしょうかっ・・・!?」
「ありません。」
鮮やかな即答でした。
「毎日1000℃以上のコークスで土鍋を炊いてますから…鍋の寿命は3か月、もって1年というところなんです。」
漫画なので、何十年もすっぽん出汁を吸い続けたまま奇跡的に残っているという土鍋というエピソードは、だいぶ盛っているというということですね。
「かすかにすっぽんの味がするというのはあるかもしれませんが…」

お店を出る頃には、次のお客が囲炉裏で暖を取りながら談笑されていました。
「京都っぼさ」を売りにしている観光客向けのお店には真似できないだろうなあと思いながら、すっぽんのコンソメスープをお土産にしました。
オンラインショップもあるようですよ。

2023年11月21日 | お店, グルメ, 町家 | No Comments »

島原・夕霧太夫の扇屋はどこ?

11月8

tayu 毎年11月の第2日曜日は「夕霧供養」が行われます。
寛永の三名妓の一人、京都・島原の「夕霧太夫」は清凉寺の付近に生まれ、その跡地には石碑が建てられています。
夕霧太夫は島原の「扇屋」に所属し、扇屋が大坂新町に移る際に伴いました。

大阪の大坂新町には、往時の大門跡や扇屋の跡地に石碑があり、また浄国寺には墓碑も建てられています。
しかしながら、京都の島原に扇屋の形跡はどこにもありません。

遊里に詳しい知人たちや、そのつてを辿ってみました。
すると、「自信あまりありませんが…」と古地図の画像を見せて下さいました。
江戸前期に成立した、遊里についての百科事典とも言える書『色道大鏡(しきどうおおかがみ)』のもの。
揚屋町の古地図で、「隅屋」の2軒南隣に「扇屋」の文字が確認できました。
もしかすると島原の扇屋は、拡張した現在の角屋の一部、もしくはそのすぐ南にあったのかもしれません。

専門知識は持ち合わせていないので想像の域を出ませんが、思わず久々に「角屋もてなしの文化美術館」の2階を予約して、角屋の周りも散策してきました。
件の古地図の箇所や角屋付近は民家等なのでここに掲載するのは控えますが、周辺には島原大門輪違屋(※通常非公開)を始め、歌舞練場跡記念碑きんせ旅館(※夜間営業。要事前確認)、島原住吉大社ご神木の大銀杏などが住宅地の中に点在しています。
ほとんど石碑のみですが新選組ともゆかりのある地域です。想像を膨らませながら、歩いてみてはいかがでしょうか。
(※画像は過去の太夫道中のものです)

本当の贅沢とは

4月3

han
白木が新しい高瀬船が停泊する史跡・一之舟入の高瀬川畔に、を眺めながらお食事できる素敵なテラス席を教えて頂きました。
飲食店を営む町家の2階「帆-HAN-」です。

カフェタイムのメニューはロゼシャンパンと濃厚な自家製プリンのみ。
春風を感じながら、外の川辺に見えるのは、記念撮影を楽しむ振袖姿の女の子たち。
舞い散る桜の花びらのなかでの嬉しそうな笑顔はこちらにも眩しいものでした。

絶好の満開のタイミング。
日本人の思う「贅沢」とは、お金をかけてめいっぱい飾り立てる事ではなくて、

「移ろう自然が美しく輝く今この瞬間を味わう」
「何もしない余白」
にある気がします。

昼会席(3日前までに要予約。8000円)とカフェタイム(14~17時)に利用できるのはオープニング期間の4月27日まで。
テラスの側にはワインと国産ウイスキーを扱うバーカウンターもあり、
これからの新緑の季節や夏の夜には、夜風にあたりながら飲むのも気持ち良さそうです。
オープンな川床とも違う隠れ家のような風情は、誰か大切な人を連れて行きたくなるかも。

2023年4月03日 | お店, グルメ, 町家 | No Comments »

うさぎの宇治で年明け

12月28

manpuku 萬福寺にて『黄檗ランタンフェスティバル』が2023年の1月末まで開催されています。
訪れた時は平日の晩だったので、境内も駐車場もとても空いていました。
小籠包や綿菓子などの軽食やキラキラ小物を販売する屋台と即席の座席、日本の縁日とはひと味違うちょい派手な遊具もご愛敬。

中国風のBGMと赤、黄、紫…のカラフルなランタンに溢れた境内を回遊していると、時折色の無い光と闇だけで浮かび上がる伽藍を抜ける瞬間もあり、本来の禅宗寺院としての厳かさが際立ちます。

昼間訪れた人は「中華街みたいだった」そうですよ。
年が明けて華やかな新春風情を楽しむのもいいかもしれませんね。(動画はこちら)

さて、年末の大河ドラマ最終回で承久の乱の地の一つとして記憶に新しい「宇治」。
宇治神社には、祭神「菟道稚郎子命(うじのわきいらつこのみこと)」が河内の国からこの地に向かう道中を一羽の兎が振り返りながら導いたという故事にちなんでうさぎをモチーフにした授与品があります。
世界遺産宇治上神社にも「うさぎおみくじ」があるのだとか。

朝は卯年のお参り、昼は宇治茶を楽しみ、夜は萬福寺でそぞろ歩きと、そんな新年のスタートを宇治でを切るのはいかがでしょうか。

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