e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

映える装い

4月9

insho
昨春の新装開館から1年経ってもなお、白壁が眩しい堂本印象美術館。春にふさわしい華やかな展覧会が開かれています。
京の町で舞妓さんとすれ違ったときに、思わず目を奪われますね。それは彼女たちが本物の上質な着物を身にまとっているから。
それと同じように、絵の中の女性たちの着物にも吸い寄せられるのは、古くから染色産業が発展してきた「着倒れ」の町で育まれた審美眼からでしょう。
着物ならではの色合わせの妙などを楽しめるので、レンタル着物で和装デビューの一歩を踏み出した若い女性たちにも、衣笠散策の一案にいかがでしょうか。
他にも、嶋原の太夫道中を松本楼から見学した際のイラストレポートとも呼ぶべき長い巻物も、印象の人となりが垣間見えて楽しく、色彩豊かでモダンな作品の合間に展示されている素描もまた、洗練されていて優美です。
パネルで紹介されていた、智積院のユニークな襖絵『婦女喫茶図』(普段は非公開)や大阪カテドラル聖マリア大聖堂の大壁画なども、機会があれば観てみたいと思いました。
ミュージアムショップでは、堂本印象デザインの羊羹「光る窓」をお土産に買い求めました。
笹屋守栄製で、当館のリニューアルに伴い印象のステンドグラス作品の一部が、琥珀部分に嵌め込まれたような姿をしています。
7㎝と小ぶりながら1000円となかなかのお値段ですが、他には見ないような「なんとか映え」な外観に、勿体なくて未だに切れずにいます。

職人の未来を繋ぐ

2月14

asa
他の漆器の産地に比べて高価なものが多く、いわゆる「高級品」として知られている京漆器
美しい蒔絵や光沢に目を奪われますが、その下にある木地の土台を担うロクロ木地師は、京都に独りしかいません。
北山の檜や京都府産の漆を使い、製作工程も全て京都で行うなど、常(日常使い)の京漆器作りを通して将来の職人達の仕事も生み出していこうという「アサギ椀プロジェクト」が始動しました。
発案者の故・石川光治氏の意思を受け継ぎ、京都でただ一人のロクロ木地師の西村直木さん、塗師の西村圭功さんと石川良さん、漆精製業の堤卓也さんらが進めており、その取り組みを紹介する展覧会が19日まで「The Terminal KYOTO」にて開かれています。
既に滋賀県の日野椀が、妙心寺のこども園に器を納めているように、京都の保育園でアサギ椀を子供達に使ってもらおうという計画も進められています。
アサギ椀の子供椀は、あえて幼い子が扱いやすくするような細工はせず、大人の椀がそのまま小さくなっただけの姿かたちをしています。
落としても投げつけても割れにくいプラスチック容器と違って、落とさないようにこぼさないように両手で包み込み、漆が剥げないように箸やフォークをやさしく当てるなど、物を大切に扱う姿勢が自然と身に付くよう、しつけの意味も込められているのだそうです。
幼い我が子にも、食洗機で洗えるプラスチック容器で食事をさせる事が多いのですが、それでもいつも同じ食器では味気ないと思い、手洗いが必要な木地の椀や割れないよう注意が必要な陶器の小皿なども、料理に合わせて出しています。
同じ素材、同じ色で統一された西欧の食器とは違い、様々な素材の器で食事を取るのも、日本文化の豊かさの現れだからです。
サンプルのアサギ椀を掌で撫でながら「やはり雑貨店で買うものとは値段が違う…でも痛んでも塗り直して末永く使えるし、入金は椀を受け取る2か月先でいいみたいだし、子供の小さな指先でも感じ取るものがきっとあるだろう…」と悶々と思案した末に予約を入れる事にしました。
小ぶりで軽い漆のお椀は、外でお茶を点てる時にも便利かもしれません。手元にやってくる桜の季節が楽しみです。

年末年始のあれこれ

1月8

huku
昨年姪っ子が生まれたので、お年玉代わりに「福玉」をプレゼントしました。
もともと舞妓さんがご贔屓さん達からもらう物なので、中の小物は赤ちゃんにはまだまだ早いのですが…自己満足です。
井澤屋」のは以前に購入した事があるし、「切通し進々堂」のは予約不可だったので、今回は一銭洋食の向かいの和菓子屋の「福栄堂」になりました。
最中の様に軽い玉なので、運ぶのも保管も割らないように気を付けながら。さて、いつそれを開くかは相手次第です。
お年玉の準備に大掃除、お正月飾りにお節作りに年賀状…。仕事納めに向かってひたすら忙しい師走に、どうして日本人は色んな風習を詰め込むのでしょう。
「クリスマス終わったとこやん!」「梅雨明けに大掃除した方が色々乾きやすそうやん!」「年始の挨拶なんだから、年賀状は年明けてからの投函にすればいいのに」とぶつぶつ言いながらも、なんだかんだで結局いつも通りに。
三が日を過ぎ、乾かした塗りのお椀を布で磨きながら、その漆の深い艶に「きれいだな。面倒でもやっぱり出して来て良かったな」と思うのです。
携帯電話に目をやると、年末に京都に引っ越して来た友人から「護王神社は3時間待ちだって!」とのメッセージ。
「断捨離」や「ミニマリスト」という言葉が生まれる一方で、無駄なものに見えるたくさんの物事に支えられて生きている事を再確認する年明けでした。

2019年1月08日 | お店, 和雑貨 | No Comments »

西陣の町の息遣い

11月13

miyako
生活スタイルの変化や相続、様々な事情で減りつつある京町家。
その建築物を外からの照明で煌々と照らすのではなく、地域住民の協力のもとで町家の内から外の通りに向けて照らし、家々の格子からもれだす「暮らしの灯り」を表現したライトアップイベントが「都ライト」です(今年度は11日で終了しました)。
ビロードを活かした着物のお手入れグッズの製作体験も行っている「天鵞絨(びろーど)美術館」や、かつて北野界隈を走っていたチンチン電車の映像を投影している翔鸞公園、機織りが並び普段は手織り体験もできる「奏絲綴苑」、そして、上七軒の名の由来となった7つの茶店のうちの一つと言われている元お茶屋を巡りました。
虫養いとして、地ビールや甘酒、コーヒーや麺類を提供するスポットも点在しています。
会場間は徒歩数分程ですが、住宅地を通る際、辺りはわずかな道案内の行燈のみで殆ど真っ暗なのですが、子供が母親を呼びかける声が家から聞こえてきたり、犬の散歩で立ち話をする声や通り過ぎる自転車のライトの音、じょうろを片手に路地へと消えてゆく人の姿など、西陣に住まう人々の息遣いがリアルに感じられました。
京都暮らしが長いとは言え慣れない町でもあり、幾つかの角で配布されているパンフレットの地図を手に見回していると、主催の学生さんが気にかけて歩み寄ってくれました。
今年で14回目を迎えた「都ライト」。嵐山や東山の「花灯路」イベントと同じくらい前から京都の大学生らの手によって引き継がれてきました。
京都らしい写真映えがするライトアップイベントのさきがけだと言えますね。

薫りを学ぶ

10月22

kun
茶席や飲食店、旅館等に足を踏み入れた瞬間に深い香りに包まれると、別世界に入ったような、あるいは大切にもてなされているような気分になりますね。
香の老舗「松栄堂」本店の隣に「薫習館」という、香の製造過程を学んだり、関連イベントを体験したりできる施設が開設されました。
樹の皮や、料理のスパイスとしても馴染みのあるもの、あるいはマッコウクジラの体内で凝結したという動物性のものまで、様々な種類の天然香料や、それらのブレンドから生み出されたお香を、実際にくんくんと嗅ぎ比べることができ、また線香や練り香など、形状の由来を知る事もできました。
廊下で繋がっている本店にも、手で押すと香りが噴出できるインテリアや、サシェのようなデザインの香袋、香りを染み込ませた組みひものストラップなど、現代生活に薫りを取り入れるヒントがたくさん。「お香はじめて教室~“薫物”をたいてみよう~」も、社会人が参加しやすい夜の開催となっています。
なお、公式サイトからは何故か烏丸通りの現在の様子をライブカメラで見ることができます
しまった!これで今年の時代祭行列を観てみたかった…。

刀にやられる

10月10

tou
人気の「京のかたな」展。 入場して間もなく、「しまった…」と感じました。
展示されているのは殆ど刀の刃の部分のみ。それは想定内でしたが、鐔でもなく拵でもない限られた部分を鑑賞するには、余りにも予備知識を入れずに来てしまった事に関する後悔です。
会場は若い女性でいっぱいでした。彼女たちはやはり刀剣女子でしょうか、はたまた歴女でしょうか。
坂本龍馬織田信長の愛刀、祇園祭の長刀鉾を飾る長刀、神器としての刀剣も展示されており、鞍馬寺の付近や立命館大学の中でも刀が作られていたとは意外でした。
鮫の群れのごとき刃物の迫力にやられたのか、何故か人気の絵画展を観た時よりも疲れてしまい敷地内のベンチで休憩していると、隣で腰掛けていた若い女性が
「は~良かった。私、歴史興味ないけど刀好きだわ! 」と話していました。
一見難しそうな事柄のハードルを一気に下げてくれるそのサブカルチャーの力。売店でも売っていた『ブルータス』の刀剣特集を読んでから挑まれる事をお勧めします。
ゲーム『刀剣乱舞(とうらぶ)』を』をまだプレイしていなくても、キャラクターとそのモデルとなった刀身の特徴を見比べるのも楽しいですよ。

羽ばたくための巣「あじき路地」

9月19

suzume
浴衣の舞妓さんの後ろ姿を眺めながら、「あじき路地」へと向かいました。
築100年超えとされる町家長屋の各部屋に若手作家が住み込み、それぞれ創作活動や主に週末に販売をしています。入居は若き職人や作家を応援する大家さんとの面談で決まり、家族の様な距離感で知られています。中には独立して店舗を構えるために巣立っていった住人もいるそうです。
それゆえお店は入れ替わりも多く、訪れた当時はちょうどその時期で空いている店舗が限られていましたが、ここは作業場に展示販売スペースが付随しているものと考えた方が良さそうです。玄関がどこも狭いのは、昔の日本人サイズに合わせてのことでしょう。
手作業の皮製品のお店「MATSUSHIMA」では、皮ごと、値段ごとの違い等を教えてもらいました。スマートフォンケースや時計のベルトもオーダーメイドでき、また製作教室も開催されているようです。
オーダー専門の帽子店「evo-see」では自由に試着でき、なぜか近くのコーヒースタンドも教えてもらいました。
手製の本と紙の小物を扱う「すずめ家」では、和綴じの小さなノートに目が留まりました。
お洒落なノートは心躍るけど、結局勿体なくてろくに使いきれないまま家で眠ってしまうかも…としばし迷いました。しかし、ふと友人が飲食店でぐずる子供に小さなスケッチブックと色鉛筆を渡していた事を思い出し、その子の分と、古典芸能が好きな知人のためにも、お土産にする事にしました。
鴨川を隔てた反対側は四条河原町、あらゆる人の欲求に応える繁華街です。そしてこちら側は、好きなことを仕事にしている人たちの、職住一体の静かな町でした。

子供の浴衣、どこで買う?

7月9

jinbei
いつもはオフィス街の四条烏丸近辺に、祇園囃子が流れる季節になりました。
お祭、花火、地蔵盆…子供達にとっても和装に触れる良い機会です。
最近では子供用でも、北欧ブランドさながらにカラフルなものもあれば、子供服メーカー独自の柄のものもあり、値段もさまざま。
「赤ちゃん用の甚平ってどこで買えばいいかな?すぐに大きくなるから高価なものは勿体ないし…」と話すと、実家が鉾町の呉服商の人から「ほな「優彩」さんがええんちゃう?」との返答が。
残念ながらお店には1歳児以上のサイズ展開だったので購入には至りませんでしたが、手頃な価格帯の浴衣や小物などがたくさんハンガーに掛けられていました。
結局のところ、西陣の「たんきり飴本舗」の向かいにある「日の出や」で、いつの間にか母が誂えてくれていた甚平に袖を通す事に。
張りのある注染の浴衣生地で、パンツの無い昔ながらの丈長タイプです。
子供用は小・中・大の3サイズで4300~5800円、仕立て上がりは我が家で4、5日でしたが、長くて1週間だそうです。
お店には反物に始まりガーゼハンカチや祝儀袋の小物のほか、奥には作業スペースがあり、女将さんの柔らかな物腰も素敵でした。
子供の甚平・浴衣探し。なお、祇園祭の宵山期間中は、鉾町のあちこちでセールもされているので、お子さんと一緒に選ぶのも夏の思い出になりますね。

想いを着せる子供のきもの

6月12

kodomo
「千總ギャラリー」で「こどものきもの」展が開かれています。
これまでベビーカーで訪れる人は余りいなかったそうですが、事前に問い合わせると、隣の建物にあるエレベーターを案内していただきました。
これなら、車いすの人や階段が辛い人でも2階のギャラリーに上がる事ができますね。
館内は双子の姉妹のために誂えられた初着などのほか、西村家伝来の端午の節句飾りも展示されており、珍しい男児の市松人形も。現在は鎧兜が主流となっていますが、もとはお雛様と同様に人形を飾るのが一般的だったのかもしれません。
ただでさえ汗っかきで動き回ってすぐに汚してしまう子供達の着物に贅を尽くすなんて、なかなかできない事だけに、憧れが募ります。
夏しか着られない絽の振袖には、何艘もの帆掛け船。質の良い染料を使っているからでしょうか。その青色は、満月が照らす明るい夜空に似た落ち着いた華やかさ。
良いものは時間が経っても内側からにじみ出る様な美しさを放つものなのですね。
もうすぐ祇園祭浴衣や甚平姿の子供達が見られる季節です。

茶のある暮らしと朝日焼

4月9

asahi
宇治の地で400年の歴史を持つ窯元「朝日焼」。初代は、小堀遠州より指導を受け「朝日」の印を与えられるなど大名や公家の茶道具を制作する遠州七窯のひとつとして数えられ、宇治茶の茶器でも親しまれています。
工房に近い宇治川の右岸、朝霧橋を臨む平屋を改装し、昨年に新店舗「朝日焼ショップ&ギャラリー」を開かれました。
小規模ながら、朝日焼の陶土を土壁に用いた茶室では器を展示するほか茶会も催し、長テーブルの椅子席では、急須を使ったお茶の入れ方などのワークショップスペースとなっており、国内外の客人が煎茶碗を手に取り語り合っていました。
いずれも宇治川に面する側は一面のガラスから陽の光と川面の反射光がふんだんに採り込まれ、水辺のデッキでお茶を一服できるような小さな机と椅子も。
鴨川よりも早い宇治川の流れは清々しく、土だけでなく、水も光も空気の流れもまた宇治の茶文化の要素なのだと体感できる空間です。また、2016年に襲名したばかりの十六世松林豊斎さんは30代半ばとあって、全体に若い感性がうまく調和していました。
ちょうど家で使う抹茶の茶碗を探していたので、ひとつ購入することに。
こんな風に暮らしを潤す日用品を、京都をはじめとする各地の窯元でひとつずつ揃えていくのも楽しいですね。

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