e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

西陣の町の息遣い

11月13

miyako
生活スタイルの変化や相続、様々な事情で減りつつある京町家。
その建築物を外からの照明で煌々と照らすのではなく、地域住民の協力のもとで町家の内から外の通りに向けて照らし、家々の格子からもれだす「暮らしの灯り」を表現したライトアップイベントが「都ライト」です(今年度は11日で終了しました)。
ビロードを活かした着物のお手入れグッズの製作体験も行っている「天鵞絨(びろーど)美術館」や、かつて北野界隈を走っていたチンチン電車の映像を投影している翔鸞公園、機織りが並び普段は手織り体験もできる「奏絲綴苑」、そして、上七軒の名の由来となった7つの茶店のうちの一つと言われている元お茶屋を巡りました。
虫養いとして、地ビールや甘酒、コーヒーや麺類を提供するスポットも点在しています。
会場間は徒歩数分程ですが、住宅地を通る際、辺りはわずかな道案内の行燈のみで殆ど真っ暗なのですが、子供が母親を呼びかける声が家から聞こえてきたり、犬の散歩で立ち話をする声や通り過ぎる自転車のライトの音、じょうろを片手に路地へと消えてゆく人の姿など、西陣に住まう人々の息遣いがリアルに感じられました。
京都暮らしが長いとは言え慣れない町でもあり、幾つかの角で配布されているパンフレットの地図を手に見回していると、主催の学生さんが気にかけて歩み寄ってくれました。
今年で14回目を迎えた「都ライト」。嵐山や東山の「花灯路」イベントと同じくらい前から京都の大学生らの手によって引き継がれてきました。
京都らしい写真映えがするライトアップイベントのさきがけだと言えますね。

薫りを学ぶ

10月22

kun
茶席や飲食店、旅館等に足を踏み入れた瞬間に深い香りに包まれると、別世界に入ったような、あるいは大切にもてなされているような気分になりますね。
香の老舗「松栄堂」本店の隣に「薫習館」という、香の製造過程を学んだり、関連イベントを体験したりできる施設が開設されました。
樹の皮や、料理のスパイスとしても馴染みのあるもの、あるいはマッコウクジラの体内で凝結したという動物性のものまで、様々な種類の天然香料や、それらのブレンドから生み出されたお香を、実際にくんくんと嗅ぎ比べることができ、また線香や練り香など、形状の由来を知る事もできました。
廊下で繋がっている本店にも、手で押すと香りが噴出できるインテリアや、サシェのようなデザインの香袋、香りを染み込ませた組みひものストラップなど、現代生活に薫りを取り入れるヒントがたくさん。「お香はじめて教室~“薫物”をたいてみよう~」も、社会人が参加しやすい夜の開催となっています。
なお、公式サイトからは何故か烏丸通りの現在の様子をライブカメラで見ることができます
しまった!これで今年の時代祭行列を観てみたかった…。

刀にやられる

10月10

tou
人気の「京のかたな」展。 入場して間もなく、「しまった…」と感じました。
展示されているのは殆ど刀の刃の部分のみ。それは想定内でしたが、鐔でもなく拵でもない限られた部分を鑑賞するには、余りにも予備知識を入れずに来てしまった事に関する後悔です。
会場は若い女性でいっぱいでした。彼女たちはやはり刀剣女子でしょうか、はたまた歴女でしょうか。
坂本龍馬織田信長の愛刀、祇園祭の長刀鉾を飾る長刀、神器としての刀剣も展示されており、鞍馬寺の付近や立命館大学の中でも刀が作られていたとは意外でした。
鮫の群れのごとき刃物の迫力にやられたのか、何故か人気の絵画展を観た時よりも疲れてしまい敷地内のベンチで休憩していると、隣で腰掛けていた若い女性が
「は~良かった。私、歴史興味ないけど刀好きだわ! 」と話していました。
一見難しそうな事柄のハードルを一気に下げてくれるそのサブカルチャーの力。売店でも売っていた『ブルータス』の刀剣特集を読んでから挑まれる事をお勧めします。
ゲーム『刀剣乱舞(とうらぶ)』を』をまだプレイしていなくても、キャラクターとそのモデルとなった刀身の特徴を見比べるのも楽しいですよ。

羽ばたくための巣「あじき路地」

9月19

suzume
浴衣の舞妓さんの後ろ姿を眺めながら、「あじき路地」へと向かいました。
築100年超えとされる町家長屋の各部屋に若手作家が住み込み、それぞれ創作活動や主に週末に販売をしています。入居は若き職人や作家を応援する大家さんとの面談で決まり、家族の様な距離感で知られています。中には独立して店舗を構えるために巣立っていった住人もいるそうです。
それゆえお店は入れ替わりも多く、訪れた当時はちょうどその時期で空いている店舗が限られていましたが、ここは作業場に展示販売スペースが付随しているものと考えた方が良さそうです。玄関がどこも狭いのは、昔の日本人サイズに合わせてのことでしょう。
手作業の皮製品のお店「MATSUSHIMA」では、皮ごと、値段ごとの違い等を教えてもらいました。スマートフォンケースや時計のベルトもオーダーメイドでき、また製作教室も開催されているようです。
オーダー専門の帽子店「evo-see」では自由に試着でき、なぜか近くのコーヒースタンドも教えてもらいました。
手製の本と紙の小物を扱う「すずめ家」では、和綴じの小さなノートに目が留まりました。
お洒落なノートは心躍るけど、結局勿体なくてろくに使いきれないまま家で眠ってしまうかも…としばし迷いました。しかし、ふと友人が飲食店でぐずる子供に小さなスケッチブックと色鉛筆を渡していた事を思い出し、その子の分と、古典芸能が好きな知人のためにも、お土産にする事にしました。
鴨川を隔てた反対側は四条河原町、あらゆる人の欲求に応える繁華街です。そしてこちら側は、好きなことを仕事にしている人たちの、職住一体の静かな町でした。

子供の浴衣、どこで買う?

7月9

jinbei
いつもはオフィス街の四条烏丸近辺に、祇園囃子が流れる季節になりました。
お祭、花火、地蔵盆…子供達にとっても和装に触れる良い機会です。
最近では子供用でも、北欧ブランドさながらにカラフルなものもあれば、子供服メーカー独自の柄のものもあり、値段もさまざま。
「赤ちゃん用の甚平ってどこで買えばいいかな?すぐに大きくなるから高価なものは勿体ないし…」と話すと、実家が鉾町の呉服商の人から「ほな「優彩」さんがええんちゃう?」との返答が。
残念ながらお店には1歳児以上のサイズ展開だったので購入には至りませんでしたが、手頃な価格帯の浴衣や小物などがたくさんハンガーに掛けられていました。
結局のところ、西陣の「たんきり飴本舗」の向かいにある「日の出や」で、いつの間にか母が誂えてくれていた甚平に袖を通す事に。
張りのある注染の浴衣生地で、パンツの無い昔ながらの丈長タイプです。
子供用は小・中・大の3サイズで4300~5800円、仕立て上がりは我が家で4、5日でしたが、長くて1週間だそうです。
お店には反物に始まりガーゼハンカチや祝儀袋の小物のほか、奥には作業スペースがあり、女将さんの柔らかな物腰も素敵でした。
子供の甚平・浴衣探し。なお、祇園祭の宵山期間中は、鉾町のあちこちでセールもされているので、お子さんと一緒に選ぶのも夏の思い出になりますね。

想いを着せる子供のきもの

6月12

kodomo
「千總ギャラリー」で「こどものきもの」展が開かれています。
これまでベビーカーで訪れる人は余りいなかったそうですが、事前に問い合わせると、隣の建物にあるエレベーターを案内していただきました。
これなら、車いすの人や階段が辛い人でも2階のギャラリーに上がる事ができますね。
館内は双子の姉妹のために誂えられた初着などのほか、西村家伝来の端午の節句飾りも展示されており、珍しい男児の市松人形も。現在は鎧兜が主流となっていますが、もとはお雛様と同様に人形を飾るのが一般的だったのかもしれません。
ただでさえ汗っかきで動き回ってすぐに汚してしまう子供達の着物に贅を尽くすなんて、なかなかできない事だけに、憧れが募ります。
夏しか着られない絽の振袖には、何艘もの帆掛け船。質の良い染料を使っているからでしょうか。その青色は、満月が照らす明るい夜空に似た落ち着いた華やかさ。
良いものは時間が経っても内側からにじみ出る様な美しさを放つものなのですね。
もうすぐ祇園祭浴衣や甚平姿の子供達が見られる季節です。

茶のある暮らしと朝日焼

4月9

asahi
宇治の地で400年の歴史を持つ窯元「朝日焼」。初代は、小堀遠州より指導を受け「朝日」の印を与えられるなど大名や公家の茶道具を制作する遠州七窯のひとつとして数えられ、宇治茶の茶器でも親しまれています。
工房に近い宇治川の右岸、朝霧橋を臨む平屋を改装し、昨年に新店舗「朝日焼ショップ&ギャラリー」を開かれました。
小規模ながら、朝日焼の陶土を土壁に用いた茶室では器を展示するほか茶会も催し、長テーブルの椅子席では、急須を使ったお茶の入れ方などのワークショップスペースとなっており、国内外の客人が煎茶碗を手に取り語り合っていました。
いずれも宇治川に面する側は一面のガラスから陽の光と川面の反射光がふんだんに採り込まれ、水辺のデッキでお茶を一服できるような小さな机と椅子も。
鴨川よりも早い宇治川の流れは清々しく、土だけでなく、水も光も空気の流れもまた宇治の茶文化の要素なのだと体感できる空間です。また、2016年に襲名したばかりの十六世松林豊斎さんは30代半ばとあって、全体に若い感性がうまく調和していました。
ちょうど家で使う抹茶の茶碗を探していたので、ひとつ購入することに。
こんな風に暮らしを潤す日用品を、京都をはじめとする各地の窯元でひとつずつ揃えていくのも楽しいですね。

しきたりにこだわる世代とは

3月19

zen
寒さが和らぎはじめ、赤ちゃんのいるご家庭ではお宮参りお食い初めを同日にされるところも多いのではないでしょうか。
神社でご祈祷を申し込むと、お下がりにお食い初めのプラスチック食器セットを頂ける事も多いのですが、それらは日常使いとして、別にお膳を誂える家もあります。
男児のものは朱塗り、女児のものは椀の外側が黒塗りで内側が朱塗りとなっているのが一般的なのですが、子供の頃から、「なぜ女の子が赤で、男の子が黒じゃないんだろう?」と疑問に思っていました。
これには中国由来の陰陽道が関係していて、昔の染色技術では朱色を出すのが難しいため格上の色として男児に用いられていたそうです。
お宮参りでは、男児の額に「大」、女児には「小」と赤い文字を書き、境内で歯固め用に小石を氏神さんの境内で拾い、お食い初めの宴席では蛸の足も吸わせて…豪華に尾頭付きの鯛を添えるお家も。
現代は簡略化されているかと思えば、意外にも赤ちゃんの祖父母の世代はしきたりについて分からない事を尋ねられる人がおらず、むしろ掌のスマートフォンを使ってインターネットからしきたり情報を得られる若い世代の方が伝統的な儀式に意欲的な傾向があるそうです。
決して安いものではないし、湯通しをして完全に乾かしてから布でくるんで…と出し入れが少々手間になるお膳ですが、お正月やお祝い事には登場させてあげたいですね。

2018年3月19日 | 和雑貨, 神社 | No Comments »

京都の屋台村

2月19

sujin
京都駅から東に徒歩5分、塩小路高倉の角に2年半限定の屋台村「崇仁新町」ができました。
屋外なので、寒さ対策としては膝掛けのほか、屋台骨の外側に厚手のビニールが張ってあり、ペレットストーブも中の空気を温めています。
入り口では野菜も売られていて、近所の奥さんが自転車を止めて覗き込んでいました。
テイクアウトメニューもありテーブルも共有なので、嵐山で人気の中村屋のコロッケをほおばりながら、他のメニューができるのを待ってみたり。
岡崎から出張してきた店舗の「崇仁新町バーガー」は、肉の旨みと根菜の食感、とろけるチーズがぎゅっと一体化したアメリカンスタイルの逸品でした。
昼間だったのでまだ空いていましたが、夜になればおでん等をつつきながら暖を取る人々で賑わうのでしょうね。
飲食店だけでなく、レンタル着物店や、日本の檜を使ったおもちゃを展示販売しているスペースも。
組み立て中の木枠もたくさん残されていたので、まだまだこれからも「ネオスウジン」にはお店が増えていきそうです。
なんと、4月7日には「京都カス野郎プロレス~崇仁春のBANG×2祭り」もあるみたいですよ。

美は「愛でる」もの

9月25

eki 美術館「えき」KYOTOにて開催中の「京の至宝 黒田辰秋展」。
お茶の稽古を通して初めて出会った黒田辰秋の作品は、一面に螺鈿が施された中次の茶器と、この展覧会のポスターと同じ四稜捻の形をした朱色の茶器でした。
伝統的な木工芸なのに、どこかモダンで、現代洋間に置いても違和感の無い意匠。
照明を反射して輝くというよりも、内側から光が滲み出るかのような発色。
祇園の菓子舗「鍵善良房」にも、彼が手掛けた菓子重箱があると聞いて、帰りの足でそのままお店まで足を運んだ記憶があります。
これらの作品を、今回美術館という空間でケース越しに観ていると、そのちょっとの距離感が何だかもどかしく感じられ、これまで稽古場で直接手に触れて愛でる事ができたのは非常に幸運だったのだと思わずにはいられませんでした。
無数にある芸術品の中で、絵画作品こそ手に触れる事は叶いませんが、やはり工芸などの造形作品は、飾って眺めるだけでは勿体ないし、その魅力は十分には伝わってきません。
親や親族から美術工芸品を受け継いでも、「その価値が全く分からない」と手放してしまう人は、それらが距離を置いて飾られるかしまい込まれたままで、実際に使ってみるという機会の積み重ねが与えられなかったからではないでしょうか。
茶の湯が現代でデザインを学ぶ学生やアーティストから今もなお支持されているのも、こういった作品を手に取って重さや質感を感じたり、手中で光の当たる角度を変えてみたり、蓋を開けて裏側を見てみたりして、実際に触れる事ができるからなのかもしれません。
もしも自分が将来、何かしらの芸術品を求めるような事があるとすれば、極力使って、その美を他の人々と共有したいと思います。

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