e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

土地の記憶も継承する

9月15

shin
2年前、花街とそこでの景色をカメラに収める観光客とのニーズは果たして噛み合っているのだろうか、と疑問に思った事がありました。

現在、建物の老朽化や耐震性問題により宮川町歌舞練場が建て替えられるのに伴い、向かいの旧新道小学校の跡地と一体的に再整備する計画が進められています。
設計を担う隈研吾さんによると、1916(大正5)年の木造建築の大屋根のデザインを宮川町のシンボルとして踏襲し、元新道小はホテルとなりレストランを伎芸披露の場へ、また周辺には学校の歴史を伝えるスペースや児童館、多目的ホール、防災倉庫等多様な機能を備えた地域施設が新設されます。
劇場内部の唐破風は復元され、すだれ格子をデザインしたファザード、照明や幕を吊るす装置として使われていた竹すのこもホテルのホワイエに活用、小学校のファザードも再現されると共に外壁のタイルや枝垂桜も移築して活かされます。

ただ和モダンにリニューアルするのではなく、普段は花街との接点が無い観光客や地元に住まう人達と宮川町を繋ぎ、花街文化を継承していくためにICT技術を取り入れるという試み。
ICT(情報通信技術)とは、様々な形状のコンピュータを使い「IT(情報技術)」にコミュニケーションの要素を含めたもの。
川端通りと大和大路通りとの間には新たな小路「新道通」を通し、「“街の記憶の継承”と“新たな共存価値”の創造」を目指すのがこの事業のコンセプトだそうです。
これまでにも、宮川町お茶屋組合とNTT都市開発は京都から離れた場所からもインターネットを通して「京おどり」を好きな角度で観られるようにするVR配信サービスを行ってきました。

具体的には、観光客がホテルからの紹介で宮川町のお茶屋を訪れ、遠方にいる別のお客は分身ロボット「OriHime」を通して遠隔操作でお茶屋でのひと時をヴァーチャル体験。
その後実際に宮川町を訪れ本物を体験してもらうきっかけ作りに繋げるほか、この「OriHime」をによってインバウンド客への通訳も可能となるそうです。

まもなく宮川町歌舞練場は解体されますが、歌舞練場と旧新道小学校は3Dスキャンによって取り込まれた点部データを加工し作られる「デジタルアーカイブ」として閲覧できるようになる予定で、卒業生がまるで母校を訪れ内部を歩き回るかのようにいつでも観に行く事ができるそうです。

日常と非日常の交差

8月31

mini2 京町家に宿泊ができる「庵」の「三坊西洞院町 町家」にて、展示会「京を楽しむ」が開催されました(※8/31で終了)。
前回仁和寺での個展でも拝見した関山隆志氏による精巧なミニチュア茶室と、6名まで利用できるという一棟貸しの京町家の中を見ておこうという好奇心から来訪。

会場は、持ち主が家業の刺繍の工房をアトリエに変えたもので、芥川龍之介氏も訪れた事があると聞いた事があります。
来客は途切れる事は無かったものの、平日に訪れたためか、1、2組去ってもう1組来られるという程良い流れでした。
さすがに各部屋の隅々まではチェックできませんでしたが、キッチンや床暖房の檜風呂もあるそうです。

京町家の茶室の中に展示されたミニチュア茶室は、拡大して撮影しても模型と分からない程に精巧で、遠くの庭の木々からのそよ風まで感じられそうな奥行き。
逆に手前の畳に置かれた茶道具は極小ながら質感まで本物そっくりなのです。
光の入り具合まで計算して作られているので、畳をぼんやりと照らす行燈の対称に月を臨む作品では、月光浴をしている気分に浸ってしまうほど。

上階には主に『うるわし屋』堀内明美氏の茶箱・茶籠のコレクションと、それぞれのそばに京都出身の画家・池田良則氏が柔らかいタッチで描いた京都の水彩風景画が展示されていました。
「こんな景色を眺めながら、家族や友人達とアウトドア茶会をしてみたい…」と思わず憧れてしまう演出です。
これからすごしやすくなる季節だし、チャレンジできるかな。

二刀流で拝む送り火

8月18

live 連日の大雨で否応なしにステイ・ホームとなった今年のお盆。
送り火はライブ映像配信の両方で拝ませてもらう事にしました。

パソコンの方は残念ながら繋がらなかったのですが、スマートフォンでは観られたので、テレビ中継と片手の携帯の二刀流です。

やんちゃ盛りの子供達が家の中で怪我をしないか常に冷や冷や見守りながらの状態だったので、しっとりとご先祖様を見送る風情は我が家には皆無でしたが、大文字、妙法、船形、左大文字、鳥居型の五山全てをそれぞれの現場から編集無しで観られるのは新鮮でした。
最初の大文字が点火されてから、次の妙法の映像を観ると、夜景の向こうに大文字の炎らしき灯りが見えるのです。

友人のSNSに興味深い思い出話があったのでご紹介します。
初めて「お盆って何」と親に尋ねたとき、「生き物の数え方は死んだ時に残るもの」と教わったのだそうです。
「家畜は『頭』、鳥は『羽』、人は『名』。だから亡くなった人のことを思い出してあげるのよ」

2021年8月18日 | イベント | No Comments »

2021年の祇園祭は②

7月31

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31日に八坂神社境内の疫神社での夏越祭をもって、2021年の祇園祭は締めくくられます。

後祭の7月24日。
榊を背に氏子地域を歩んだ神馬は、祇園祭発祥の地・神泉苑又旅社を経由して八坂神社へと帰還しました。

神社の石段下では、輿丁達や祇園の花街の方など、祭神を待ち侘びた人々が「ホイット、ホイット!」の掛け声と手拍子で迎えていました。
陽が落ち、榊を神輿に返して、ここから神霊を本殿に返す儀式が行われます。

時が満ちて消灯。一斎が沈黙し満月の光だけに照らされた暗闇のなか、本殿からは手招くような琵琶の音色が聴こえてきます。
誰一人言葉を発しない境内だと、水が流れる音が聞こえる事を初めて知りました。
白布の向こうでほのかな光が動き、神霊は本殿へと還られました。

世界的な疫病の流行下で、疫病退散の祭を多人数で行う事が正しいのかどうかは分かりません。
「文化を継承する」のも、「神に祈りを捧げる」のも、あくまで人間の都合だからです。
取材に際しては様々に注意を払っておりましたが、それでも人の密集が避けられない瞬間は何度かありました。
自分もその一因である事は間違いありません。

祈りを届けるために天地を繋ぐのなら、鉾と神木を立てるだけでよいところを、集めた財によって舶来品と匠の技の結晶で飾り立てた山鉾の姿は、まさに「町衆の祭」の象徴ですね。

儀式の間に感じた、暑さを感じないほど穏やかな夜風。
にわかに本殿側だけ踊っていた提灯。
藍色の空に顔を出した神々しい満月。

複雑な心境とこの清々しさを、どう捉えたらいいのだろうと、ぼんやりしながら社を後にしました。

動画はこちら(順次アップしていきます)

元祇園・梛神社と綾傘鉾

7月6

nagi
新選組ゆかりの壬生寺の近くに「元祇園」と呼ばれる梛神社があります。
貞観年間、京の悪疫退散のため祭神・牛頭天皇こと素盞嗚尊を東山の八坂に祀る前に、一旦この地の梛の森に神霊を仮祭祀したのが由来とされています。

数分で一周できてしまうような広さの境内ですが、街中なので人足は絶える事が無く、今も地元の人々の信仰を集めている事が伺えます。
祇園祭の山鉾巡行の際に、神饌を供えたという御供石が安置されており、この石がもともとあったという下京区周辺には今でも「御供石町」「長刀切町」「悪王子町」という地名が残されています。
梛の実を模したまん丸のお守りの中に願い事を書いた紙を詰めて、ご神木の梛の木に吊るさせて頂きました。

先週末は梛神社で綾傘鉾の奉納囃子があったそうで、観て来た友人が動画を見せてくれました。
綾傘鉾と壬生の人々とがどういう関係性があるのか今まで疑問に思っていたのですが、ようやくその理由が判明しました。
素盞嗚尊が八坂の郷に遷座する際に、壬生村の住人が花を飾った風流傘を立てて、棒を振り、音楽を奏でて神輿を送った事が祇園会の起源ともいわれているそうです。
これまでにも、祇園祭に際して綾傘鉾の関係者が祈祷をしてもらったり、お囃子を奉納された事があるなど、古くから結びつきがあるのですね。

地囃子や棒振り囃子が神前で披露され、観客は目前で投げられた蜘蛛の糸も浴びる事ができたようです。
軽やかで澄んだ鉦の音は穢れを吹き飛ばし、本当に浄化の効果が期待できそうです。

提灯躍る 京の夏の到来

6月30

takayama
7月から始まる祇園祭月間を目前に、八坂神社の舞殿にて
2022年の祇園祭の山鉾巡行への復帰を目指す鷹山の奉納演奏がありました。

揃いのマスクや手拭いで口元を覆った姿で奏でる光景は、疫病災厄の鎮静を祈る祇園祭の歴史の一幕となるかもしれません。
奉納演奏を終え、肩の荷が下りたようにほっとした様子の浴衣の子供達を、同じく「鷹山」と記されたティーシャツを着たお母さん方が労うように話しかけ、カメラのシャッターを切っていました。

幸運にも梅雨間の曇り空で涼しく、始めはそよ風にかすかに揺れていた提灯が、
お囃子の調子が徐々に上がってくると、弾むように上下に揺れ始めました。
ちょうど、小さな子供が楽しい音楽を聴いて喜んで足をぱたぱたと動かしているような軽やかさです。

今年も鉾建てや山鉾巡行など祭の規模は縮小されますが、祭そのものは中止ではありません。
元治の大火(1864年)で焼失した鷹山の曳山の再建設も進んできていると聞きます。
もはや「夢」ではありません。約200年ぶりの晴れ舞台に向けて、スタートを切りました。 動画はこちら

2021年6月30日 | イベント | No Comments »

一コマが語る物語

6月15

dora
以前伺ったカフェの床の間に、漫画『ドラえもん』の原稿の一部が額装されていました。
珍しいなぁと思っていたら、後に四条河原町下ル東側にある「寿ビルディング」5階の「TOBICHI京都」で「ドラえもん1コマ拡大鑑賞展」が開催されることに。

しずかちゃんの全身が描かれたコマが出迎える入り口には、開店前から数組が心待ちにしている様子。
国内外に大ヒットしている日本の漫画は数あれど、あらゆる世代の人が主要キャラクターの名前や性格まで知っている作品は稀有だと思いませんか。

油絵作品なら塗り重ねられた絵の具の盛り上がりが見えるものですが、こちらは漫画の原画の一部を拡大しているため、写植をする前の鉛筆書きのセリフや、ベタ(墨)塗りの筆跡まで、創作の息遣いが残ります。
つるつるの単行本のページを眺めるのとは違い、まるで出来上がったばかりの原稿をポップアートや線描画のようにも見える魅力がこの企画の狙いなのでしょう。

お楽しみの心ときめくグッズも多数あり、名言を吐いた吹き出しのあるコマをたくさんコラージュしたハンカチを買いました。

「なやんでるひまに、ひとつでもやりなよ」
「いっぺんでいいから 本気でなやんでみろ!!」
「せきたてちゃだめだよ。それぞれ自分のペースがあるんだから。」
「未来なんて ちょっとしたはずみでどんどんかわるから。」

アニメしか観ていなかった幼い頃は「ドラえもんってのび太くんを駄目にするくらい過保護やなぁ。」と呆れた事もありましたが、誰しも「やれやれ、世話の焼ける」と肩をすくめながらも寄り添ってくれる存在が幾つになっても欲しいものなのかも。
厳選された一コマが収められた話が収録された単行本も読みたくなるし、激励したい人にこの名言ハンカチを贈れば、まじまじと見入ってしまう事受け合いです。

春の船旅

4月7

sosui
びわ湖疏水船に乗ってきました。
せっかく大津に来たので三井寺にも立ち寄ってから乗船場に向かいました。
川面と船の透明な屋根には桜の花びらが落ち、他の乗客とは互いに背中合わせの座席になっています。

出航して間もなく入った第一トンネルは日本最長。なんと20分かけて通り抜けます。
暗くてひんやりするトンネルの中でも、ガイドさんの声はよく通りました。
外の眩しさに目が慣れた頃には桜と菜の花がお出迎え。川沿いを歩く人々が手を振ってくれたり声をかけてくれたり、子供達が並走する姿を観るのもまた嬉しいもの。

最初のトンネルを潜る時の高揚感はアミューズメントパークのクルーズ船のそれと似ていましたが、
春風を感じながら、水の音を聞きながら季節の花々、木々の間を滑るように進む船の僅かな揺らぎが本当に心地よい。
東京遷都によって衰退した京都を近代化によって復興させるため、当時の京都府の年間予算の約2倍を投じて日本人の力だけで完成された「100年の計」。
その恩恵を今なお受けている事への感謝の念も自然と湧いてきます。

船の席順は申し込みの受付順だそうで、もし最前列を狙うならWEB予約受付初日の開始と同時に申し込むのがおすすめです。
もちろん、最後尾でもトンネルを抜けた後に扁額がよく見えるのでy良い眺めだと思います。
次回は紅葉の季節に、蹴上から大津への上り便を体験してみたいと思いました。動画はこちら(随時追加していきます)

手のひらの国宝

3月9

mini
仁和寺で茶室の模型展が開かれているとの口コミを得て、行ってきました。

御殿の白書院を会場に、手の平サイズの茶室と茶道具等がずらり。
それも、豊臣秀吉黄金の茶室や千利休の待庵など、基本的に非公開で入ることのできない茶室ばかり。
ミニチュアが好きでよく観ますが、幻とされている茶釜や国宝の茶碗、茶懐石のそれは他で観た事がありません。

模型製作が趣味だった関山隆志さんが、24歳の頃に職場の茶道部で初めて茶道に触れたことからのめり込み、還暦を過ぎてから茶室の模型の製作を始められたそうです。
できるだけ実物を訪問し、交渉をして見学をさせてもらい、1/12のスケールに落とし込んでいるとのこと。
LED等の照明を組み込む事で陰影や奥行ができ、ミニチュアながら庭園の眺めに清々しさまで感じられるのが驚きです。

観る角度を変えると見える物が現れる遊び心もあって、何よりも楽しんで製作されているのが伝わます。
会場にいたスタッフ方やお客さんとも和気あいあいと楽しませていただきました。

この展覧会は3月7日で終了しましたが、2年前にも嶋臺ギャラリーで個展をされていたそうなので、またどこかで新作とともに企画があるかもしれませんね。

「オンライン〇〇」生活

2月10
※画像はイメージです

※画像はイメージです

「オンライン〇〇」生活も定着してきました。

先週末は、学生時代の先輩方と「オンライン飲み会」に初参加。
お祝いごとの寄せ書きもオンラインで集めて発注できるんですね。

また、今年は茶道藪内宗家による「オンライン初釜」なるものも滑り込みで参加してみました。
事前に申し込めば、お茶席と同じ末富の薯蕷饅頭と干菓子、福引のくじが手元に届けられます。
自分が習っているのとは異なる流派で、そもそも宗家の茶室など茶道を学ぶ人でも易々と入れる場所ではありません。

自宅に居ながら燕庵の松籟を聴き、立ち昇る湯気を感じ、お正月らしい取り合わせの道具と太刀を振るような武家茶のお点前を鑑賞。
古田織部が好んだ燕庵は、現在のものは兵庫県有馬から移築されたもので、「燕」とは「くつろぐ」という意味があるそうです。
利休の待庵には3つの窓がありますが、こちらには10もあり、柄杓を蓋置に落とすタイミングで外から簾が巻き上げられてより明るくなる演出が楽しめます。
御家元直筆の色紙には「一花開天下春(一華開いて天下春なり)」の文字。これには「一塵起大地收(一塵起こって大地収まり)」という言葉が先立るようで、まさに現在の私達が願う春と言えるでしょう。

疎遠になってしまっていた人、会うに会えない距離感の人々と一瞬で繋がる事ができる。
行きたいけどなかなか足を踏み入れられないところに人目を気にせず入っていけるのもオンラインならでは。

ここのところ、音声による新たなSNSが話題になっていますが、どんなツールでも使う人同士の「一座建立」の気持ちで良い和(輪)を作っていきたいですね。

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