e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

二尊に励まされる

9月26

2son年中観光客で活気づく嵐山も、夏休み後から紅葉シーズンまでの間は少しばかり落ち着いています。
JR嵯峨野線の踏切を越えた辺りから、ぐっと人気が減りますね。
落柿舎の辺りの古き良き嵯峨野の田園風景を抜け、その先の小倉山の東麓に二尊院があります。

向かって右に「釈迦如来」、左に「阿弥陀如来」の二尊が珍しく横並びに安置されていることで知られています。
極楽浄土を目指す人々を此岸(現世、この世)から送り出す「発遣の釈迦」、
彼岸へと迎える「来迎の弥陀」。

これは中国・唐の時代に伝来し、浄土宗の例え話として語られる『二河白道喩』から。
いわば、貪欲や怒りといった煩悩の中にいる人々に、信心に従うことで極楽浄土へ辿り着けるよ、と励ましていると解釈できます。
そんなことを知った上で静かな紅葉の馬場を振り返ると、白道を歩んでいるような気持ちになれるかも。

10月28日より「二尊院の二十五菩薩来迎図」が特別に開帳されますが、界隈が紅葉狩りでざわつく前の静けさを味わうなら、今のうち。

重陽の節会

9月12

kiku 縁起の良い「9」の数字が重なる9月9日は、「重陽の節会」を観るため、嵐山の虚空蔵法輪寺へ。
うっかり電車を乗り過ごしてしまい、慌てて法輪寺への近道を駆け登りました。
(近道の入り口は渡月橋の南詰めに看板があります。表参道とは違って、狭くて急な階段が続きますので足腰の悪い方はご注意くださいね)
着いたのは奉納行事の能のクライマックス部分、まさに菊慈童が登場するところでした。
残念ながら、茱萸袋(しゅゆふくろ)の授与は終了してしまっていましたが、小さな菊花が一輪浮いたお酒を頂きました。

別名「菊の節句」とも呼ばれるこの日は、菊の花に綿をかぶせた「菊の被綿(きせわた)」が風物詩として、和菓子の意匠でもお馴染みです。
生成り色のふわふわの綿だと思い込んでいましたが、こちらの菊慈童像に供えてあったのは平たく煎餅状で、赤、青、紫などとってもカラフル!それぞれの色に魔除けの意味があるのでしょうか。

奉納された能の演目「菊慈童」は、ここでは金剛流だったので「枕慈童(まくらじどう)」とも呼ばれているそうです。
人跡未踏の山中に流され、八百余年も生き永らえたという童子は、果たして幸せだったのでしょうか。
そんな疑問とは裏腹に、少年の姿のまま不老長寿の仙人となった菊慈童の像は、涼やかなお顔立ちでした。

京丹後親子旅

8月30

yura 夏休みも後半になると、毎年両親、親族と共に丹後方面を旅行するのが恒例になっています。
京都盆地の中にいる京都人が、「海の京都」へと足と羽を伸ばすのです。

子連れ家族旅行となると、旅のメインはおのずと水遊びに。
今回は、各海水浴場にアクセスでき、プールもある「ホテル&リゾーツ京都宮津」に宿泊。
朝食や夕食はバイキングのみですが、ミニドーナツや自分で作る綿菓子等が子供達に好評で、
「また来年も泊まりたい」とリクエストされました。

ホテルから車20分弱の丹後由良海水浴場へ。
遠浅でのんびりとした風情は、子連れ向けかもしれません。
沖からの冷たい水流と、太陽で温められた海水の波が交互に気持ちよく身体を撫でていきます。

自分が子供の頃は背中の皮が剥ける程真っ黒に日焼けするのが夏の常でした。
今は若い女性もお洒落水着で体型カバー、子育て世代も帽子にサングラスにラッシュガードで紫外線対策ばっちりです。
水辺のファッションも時代を写す鏡ですね。

自分の父親も、祖父の仕事が落ち着く頃にあわせて丹後へ海水浴へ連れて行ってもらい、近くの宿に泊まっていたそう。
「親父にしてもらったことを、子や孫にもしてあげたい。」
同じ景色を観ていても、父の瞼には自身の子供の頃の懐かしい景色が映っていたかもしれません。
(※その他の京丹後スポットについては、「一言コラム」ページ右上の窓に「丹後」と入れて検索してみてくださいね)

2023年8月30日 | 観光スポット | No Comments »

清水寺から観た送り火は…

8月22

1000清水寺から五山の送り火が観える」。
一部のSNS等で話題になっていたので、観え方を検証すべく音羽山へ向かってみることにしました。
全てというわけではありませんが、幾つかは観えるらしいと。

「ここに日本人は居ないのでは?」と思う程に外国客で賑わう参道を登ります。

結果としては、比較的良い視力の裸眼では
「左大文字らしきものと、船形らしきものと、鳥居型らしきものが観えた」
という感じでした。
それぞれの送り火とかなり距離が離れているので、撮影にはかなりズームのきくカメラでないと厳しいと感じました。

しかしながら、千日参りも同時に参加できたので、日差しの和らいだ境内で風鈴の涼やかな音を聴きながら、
様々な国から集まった人々と手を合わせ、同じ方向を向いてすごす平和で穏やかな時間もいいものです。
これぞ清水の舞台に集う醍醐味なのかもしれませんね。

家族連れだったので長距離の坂道移動は困難とみて、五条坂と三年坂が交差する車両通行止めポイントまでタクシーで行き、
帰りもちょうど同様の場所で、千日参りが終わる時間までに間に合うよう乗り付けてきたタクシーに声をかけて乗車する事ができました。

コロナ禍で生まれた新しい神事

7月19

sinsen前祭宵山の間は、昨年より新たに始まった儀式「御神水交換式」を観るため神泉苑へ出向きました。

国宝の八坂神社本殿の地下には「龍穴」と呼ばれる池があるとされ、祇園祭の起源とされる869年の御霊会が行われた東寺真言宗寺院・神泉苑の池と繋がっているという伝承があることから、双方の境内の水を交換し、浄化した水を神事に使用するというもの。

神泉苑の善女龍王社の閼伽井で汲み上げた閼伽水と、 八坂神社本殿の御神水を、祝詞や加持祈祷で浄化、交換して持ち帰った水は「龍穴」に繋がる井戸に注がれ、「青龍神水」として疫病を鎮めんと、昨年から山鉾巡行や神輿渡御などでも取り入れられています。

昨年就任したばかりの八坂神社の宮司による提案で始まり、神泉苑の住職のほか東寺の執事長も参列したそうで、まさにコロナ禍で生まれた神仏習合の儀式です。

後祭でも山鉾巡行神輿の渡御は行われます。
お水が使われた場面に遭遇したら、ぜひご注目ください。

鴨川の水の神をお迎えする

7月12

omukae   毎年7月10日に行われる祇園祭神輿洗は、いつも黒山の人だかりになってしまうので、今回は少し高い場所から観てみることにしました。
ちなみに今年神輿を先導するお囃子列は、去年巡行に完全復活した鷹山です。

激しい通り雨も上がり、16時半に八阪神社の北側から出発したお迎え提灯の列は、西門前を通り、四条通りを華やかに彩りながら進んでいき、京都市役所前では子供達が鷺踊や小町踊を披露しました。

ようやく日が傾き始めた19時頃、南北に張られた斎竹(いみだけ)が揺れる四条大橋には、四条大橋を東へ戻ってきたお迎え提灯列と、八阪神社側からやって来た宮本組が出逢います。
夕暮れの川辺の景色の中に松明が立てられ、観光や買い物の客人達が行き交う雑踏に、なんとも言えない良い風情が漂い始めました。

暫くして両方の列は社の方へと引き、20時頃に今度は神輿を導きながら「宮の川」つまり鴨川の四条大橋へ。
その昔鴨川は「暴れ川」と呼ばれるほど、度々氾濫していました。
そこから疫病が蔓延するのを恐れ、鎮化を祈願し、28日には再び鴨川にお還しするのです。

複数に分けられた松明に守られながら、四若神輿会の中御座が差し上げられました。
鴨川の水が振り撒かれ、鴨川の水の神様を迎えた神輿は再び八坂のお社へと帰っていきました。

動画は後日こちらにアップしますね。

闘うこどもたち

6月28

hariken 大型連休中に高台寺の忍者イベントでPRしていた『忍風戦隊ハリケンジャー』テレビ放送20周年記念の映画を、子供達と観に行ってきました。
子供向けとはいえ、時代も舞台も「お江戸」という「時代劇」なのですが、東映・京都撮影所によって京都でロケが行われています。

我が親子にとっては観た事のなかった時代の戦隊シリーズにも関わらず、高台寺公園でのタッチ会と映画の影響か、以来、家の近所を歩く度に石塀をよじ登り、垣根をそろそろと渡り、我が家の小さな忍者たちは移動の合間も忙しくしています。

冒頭から萬福寺を舞台にチャンバラが繰り広げられ、思わず
「こないだみんなで遊びに行ったお寺だよ」を耳元で教えたくなりました。
拝観者が足を踏み入れる事の無い白砂の上でも迫力のアクションです。
大スクリーンに耐えうる臨場感は、やはりセットとは大違いですね。

大江戸の町はおそらく太秦映画村でしょうか、屋根瓦を縦横無尽に飛び回るのは忍者戦隊ものならでは。
水上を駆け抜ける水蜘蛛の術も出てきます。
主人公が最終形態に変身した姿は、所作もまるで歌舞伎役者。
面白いけど、子供ウケは…?と気になりましたが、「かっこよかった」そうです。

その後、ふとSNSに流れてきた言葉にはっとしました。
映画の感想を書いた内容ではありませんでしたが、近頃仮面ライダーが大人向けの映画になったり、
ディズニーの過去の名作が実写化されるのをよく見かけるのは、もしかしたら
親世代を巻き込まないといけないほど、少子化による市場の縮小の影響が如実に現れてきているのではないか、というものでした。
少子高齢化の影響は、あらゆる業界にとっても他人事ではありません。

今日も模擬刀を手に、目に見えない架空の敵と戦う我が子たち。
子供達が成長した次の時代は一体どうなっているのだろう、困難に向かって一緒に戦える仲間は十分にいるのだろうか、とその姿を眺めています。

「苔寺」の池に吸い込まれる

6月13

koke 先日の大雨の夜、ふと「苔寺に行くなら、今がチャンスでは?」と思い立ちました。
雨をたっぷり含んで、瑞々しい景色が広がっているのではないかと。

学生の頃、「拝観料3000円する西芳寺、いつか行ってみたいよね」と友人達と話していたきり。
予約方法は長らく往復葉書のみでしたが、2021年からオンラインにて前日まで拝観の申し込みが可能になりました。

門前の川は怒涛の勢いで流れていましたが、境内に入ると本堂が白砂と快晴との狭間に静かに佇んでいて、「ああ、もう夏が来たんだな。」と思わず仰ぎ見ました。
本堂ではいつもよりも強い風が蒸し暑さを吹き飛ばしてくれるので、気持ちよく写経させて頂きました。

朝は既に予約が埋まっていたので、庭園を回遊し始めたのはお昼前。
苔の絨毯はもう雨粒を空へと手放したのか、しっとりというよりは、ふかふかになっていました。
自分の撮影の腕では苔の美しさを十分に撮れないと半ば諦めていると、目の前に現れた大きな池に足が止まりました。
青空と周りの木々の緑が水面に映り、水彩画の様に複雑なグラデーションを描いているのです。

木々を映す水鏡なら他の寺社でも見かけているはずなのに、どうしてこんなに鮮やかな発色をしているのでしょう。
水の透明度や気象条件に恵まれていたのでしょうか。そこだけが異世界のようでした。

法相宗から浄土宗、禅宗へと宗派を変えながらも実に1,300年という歴史を持つ世界遺産の通称「苔寺」こと西芳寺ですが、庭園に苔が繁茂し始めたのは200年前の江戸時代後期なのだとか。
よく知るお店が、坪庭に苔が定着するのに苦労していたことを思い出すと、これだけの広大な敷地に根付く苔やその他の植栽を維持管理するのは気の遠くなる作業かもしれません。

オーバーツーリズムが指摘されている昨今の京都において、程よい人気と静けさを求めるなら、有名どころや交通の便の良い所を候補から外したりする必要が出てきています。
それらを考慮すると、オンラインで参拝冥加料が4,000円だとしても、決して高くはないのかもしれません。

動画は後日こちらにアップしますね。

“Cha”で繋がる世界

6月6

yoshida 週末の昼下がり、ふと思い出して吉田神社へ自転車を走らせました。
京都吉田山大茶会』を久しぶりに覗いてみようと思ったのです。
黄色の横断幕が迎える石段を登り詰めると、いつもは静かな境内に所狭しと立ち並ぶお茶の屋台が見えてきました。

まずは赤い水色が目を引く韓国の五味子茶で栄養補給、和紅茶をスパイスと共に煮出したチャイをアイスでテイクアウト。
ほうじ茶と珈琲をブレンドした餡のどら焼きを片手に喉を潤していくうちに、晴天下の移動の疲れからみるみる元気になりました。

日本、中国、ベトナム、韓国、台湾、南米、ドイツ…お茶のみならず茶器や菓子、バッグ等の雑貨、お茶の木の苗木も手に入ります。
その数なんと37ブース。お客さんもお茶おたくばかり!後から興味本位で石段を登っていた外国人ファミリーは、この景色に圧倒したかもしれませんね。
お茶通でこの会の常連さんである友人達は、茶席が埋まらないうちに予約して午前中から水墨の書画体験も楽しんだようです。

ずっと雅楽のような音色が聞こえるので、吉田神社の神事と重なっているのかな、と思っていたら、更に石段を登ったところにある若宮社にて、能管とサックス、箏や笙の演奏がされていたのでした。初夏の風に乗る、気持ちの良いBGMです。
旅行で出逢ったベトナム雑貨が懐かしくなり、刺繍のバッグを自分のお土産としました。

普(あまね)く大衆と茶を共にする

5月30

fucha 連休と梅雨シーズンの間は、芽吹く新緑が活力を与えてくれる季節です。

宇治市・黄檗にある萬福寺の塔頭・宝善院の普茶料理を久しぶりに頂きました。
宝善院開基の独振性英禅師は隠元禅師の大通事(通訳)を勤めた人物だそうで、その歴史は300年を優に超えています。

「鶯の鳴き声って、まだ聞こえるんだね」と語り合うほどに静かで、この日にのために設えられたであろう床の間の花の香りが、離れた自分の席にまで漂ってきていました。
当日こちらに欠員が出てしまいましたが、食事も禅修行のうちとされる「五観の偈」には、正しい心で残さず頂くという心得が記されています。
ご厚意により、残った分を持ち帰れるようにしてくださいました。

宝善院では鈴虫を飼育されているそうで、9月上旬の夜には鈴虫の鳴き声を聴きながら松茸をふんだんに使った普茶料理が頂ける催しがあるそうです。
いつもは朝から一人で料理の仕込みをされ、表には出てこられない和尚様とも、この時は一緒にお話をしながら秋の夜を楽しめるとのこと。
例年だと時間は18時から20時まで、志納料1万円(税抜)くらいでご予約制とのことでした。
コロナ禍前は、卓上で松茸を焼いたりしていたそうで、今年はどの様な形でするのか詳細はまだ未定だそうですが、時期が近づけば公式サイトやSNSにて告知されるそうです。これを読んでお腹が空いてきた方は要チェックです!

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