e-kyoto「一言コラム」

ガイドブックには載っていない、スキマ情報をご紹介していきます。

背伸びして「ほんもの」に触れる

12月17

2 色とりどりの紅葉が風に吹かれてひとつにまとまった風情を写しとった干菓子『吹き寄せ』。
様々な菓子屋で見かけますが、亀屋伊織さんのそれは憧れでした。
意匠の美しさだけでなく、生砂糖、打ち物、片栗、有平、州浜など様々な素材と製法で表現したところが和菓子の極みと言えます。
400年も干菓子一筋の老舗であり、店内にはショーケースもありません。予約して伺います。
良い意味で、客側の品格も問われるような風格に、心地よく背筋が伸びました。

上菓子に見合うそれなりの器でなくては、と思っていた矢先に朗報が。
祇園・古門前にあるビルの細い階段を上り、予約していた『骨董 水妖』の中へ。
店主の古美術愛に溢れたSNSを楽しく拝見しているうちに、セール情報が流れて来たのです。
千家十職のひとつ、飛来一閑。しかも十一代という約200年前の四方盆が骨董素人の自分にも手の届くお値段に!
びっくりするほど軽く、シンプルなので何を載せても添ってくれそうです。
「使ううちに傷が入ったとしても、塗り直せばいいのよ。気軽に使える最高級品なの」

立礼でお茶とお菓子のおもてなしを受け、その菓子皿も手の平に収まる茶器も素敵なものばかり。
まだ10月の爽やかな風が入ってくる店内には店主が愛してやまない池大雅の軸がかかり、話に花が咲きました。

オンラインショップでポイ活しながら何でもすぐに手に入る有難い世の中ですが、自身の仕事に対する愛が感じられるお店でお買い物するのはお値段以上の充足感があります。

さて、先月の野点で色鮮やかな吹き寄せを盛る前の四方盆を、お客のお茶人さんは手に取ってすぐ、はっとしたように裏を返し、「飛」の文字を確認されたのでした。
さすが、日々茶道具に触れている人には違いが分かるのかと感じ入った瞬間です。

勿体無くて食べ切らなかった分は丁寧に懐紙で包み、翌日のお稽古に出して野点の思い出話を皆さんと共有されたそうです。
黒い四方盆に映える栗、楓、銀杏、松葉、松ぼっくり、きのこ。自宅でも子供達が目を輝かせていました。

季節の移ろいを楽しむ。子供達にも何か伝わるものがあることを願います。

菓子と源氏で数寄あそび

11月13

kasi有斐斎 弘道館」と「旧三井家下鴨別邸」にて15日まで京菓子展が開かれています。今年のテーマはやはり「源氏物語」。

和菓子店でも茶会でも出逢えないような創作を凝らした菓子たちは、撮影もSNSへの掲載も可能です。
3つも賞を受けられた海外作家の作品は、自らの舌でその食感を試したい欲に掻き立てられました。
個人的に最も目に焼き付いたのが、第三十五帖「若菜下」から着想を得た「哀焔」。
形そのものは、「黄味しぐれ」を連想させますが、真っ黒な墨色の塊の中からマグマのように真っ赤なあんがその身を内側からうち破らんとしています。
まるで怨念でその心身を自ら蝕んでしまった六条御息所を思わずにはいられない。
さて、こんな意味深な菓子を誰に送りつけましょうかね?

選抜作品の中から、自分で選んだものを呈茶席でいただくことができます。
「あなたの前にあるその黒い茶碗は、俳優の佐藤健さんが飲まれたものなんですよ。」
有職菓子御調進所 老松」のご主人の軽妙な語り口からは、源氏物語に始まり、弘道館のしつらいや催しのこと、近隣の名所のこと、この茶室を訪れた著名人のエピソードまで話題が次から次へと飛び出してきます。
現代の数寄者として古典を楽しもうという意欲に溢れておられ、茶道経験のない人でもきっと楽しめるのではないでしょうか。

呈茶菓子は公式サイトで確認できますが、人気のものは売り切れることもあるので、午前中の静かな間に入られることをおすすめします。

茶を点てすぎて死ぬ

11月6

yori

連休中に放映された大河ドラマ『光る君へ』で、平等院鳳凰堂が紹介されました。
平等院ゆかりの能の演目に『頼政』、狂言に『通圓』があります 。
画像は、平等院境内にある境内にある頼政の墓地。同じくゆかりの「扇の芝」は、観音堂の保存修理に伴い立ち入りできなくなっているので、ご注意ください。

後者の狂言は『頼政』のパロディだそうで、
頼政』の方では宇治の戦いで平家軍300人が平等院に押し寄せ、源頼政は自刃する悲劇がモチーフになっていますが、
通圓』 では、客人300人が押し寄せ、茶屋坊主の通圓はお茶を点て過ぎて「点て死に」した話なのだそうです。

「点て死に」なんてパワーワードは初めて聞きました。
恐るべし、京の茶処・宇治

夜の平等院鳳凰堂

10月22

byo先日、夜の平等院鳳凰堂の前で能楽の特別公演がありました。
夕方の宇治川周辺の観光施設も門戸を閉じ、昼間の喧騒も落ち着いたころの、夢うつつような風情もまたいいものです。

境内の茶房「藤花」で限定菓子「紫雲」と水出しの煎茶、お薄を頂きました。
さすが宇治は茶処、どれも美味しい。

「スーパームーン」前夜の演目は半能「頼政」と狂言「口真似」、能「羽衣 盤渉」。
「頼政」は、平安末期、宇治の合戦で平家軍が平等院に押し寄せ、自刃した源頼政の『平家物語』を題材とした演目です。
頼政の能面はこの曲だけに用いられる特殊なもの。年老い枯れながらも情念を感じさせる表情、窪んだ眼はライトの光を捉えて凄みがありました。

境内には頼政が自ら命を絶ったとされる跡「扇の芝」や、「源頼政の墓地」があります。

「羽衣」では、天女が羽衣を羽織った瞬間、平等院の屋根の鳳凰を背後に衣装の背一面に白い鳳凰の刺繍が現れ、思わずため息が洩れました。
正面からは両翼の羽が折り重なるような意匠となっており、装束展で観たときには気付かなかった新たな発見でした。

まさに天女が舞い上がろうという場面の直前、一羽の鳥が声をあげて飛び立ち、朧月夜だった空はいつしかすっかり晴れて月が青白い光を放っていました。

夜の平等院は特別拝観などの催しがあるときだけ入ることができます。
暗闇を進む砂利の音、虫の声、そして創建以来ずっとここに佇む鳳凰堂と水鏡。
きっと、忘れられない一夜となりますよ。

漢字は、神と交信することば。

10月16

kanjiおもちゃで釣られ「漢字検定受ける!」と言い出した子供のモチベーションアップになればと、祇園の「漢検 漢字博物館・図書館漢字ミュージアム」にお友達親子と初潜入。
小中高生と同伴の大人は入館料が割引になりました。

学校で漢字を習い始めたばかりの小学一年生らは、壁一面の漢字の歴史年表はそっちのけで、早速「万葉仮名スタンプ」で自分の名前を押すのに大人に混じって夢中になっていました。

スタンプの次に夢中になっていたのは、目の前を泳ぐ魚の漢字表記を当てる「漢字回転すし」。巨大なアガリの湯呑みに入って撮影タイム。
漢字にまつわる図書に触れられる図書室もありました。
ワークショップも企画されているので、ぜひ事前チェックをおすすめします。

まだ文字も書けない年長の子も、漢字クイズになっている引き出しを開閉したり、マグネットを貼ったり、それなりに楽しんでいるようでした。
最も古い漢字「甲骨文字」は、占いで神と交信するために生まれたのですね。

活字マニアのお子さんを持つママさんから、ミュージアムの一角に置いてある「『漢検ジャーナル』に、過去の出題問題が一部連載されてるんですよ」と教えてもらい、かき集めるように持って帰りました。

親子共に初めての漢検学習に、最初はなかなか難儀しましたが、今では読み書きできる字も増え、すっかり漢字の虜に。
試験日を待たずして、次の級のテキストも所望されています。
もうすぐ検定本番。今まで頑張ったから、楽しめるといいね。

子供とめぐる祇園

10月7

gion京都で子供が楽しめる場所と言えば、京都鉄道博物館京都水族館などの梅小路公園界隈や、大宮交通公園
歴史を学び始めた小学校高学年なら、あちこちに「本物」の歴史スポットがあります。では小学生低学年ならどこに。

今回は「漢検 漢字博物館・図書館 漢字ミュージアム」を目的にしました。
必須は周辺のランチ、休憩どころ。
(ミュージアム1階にもカフェ「倭楽」が併設されていますのでご安心を)

祇園は、花街の風情を求めて国内外からの観光客で四条通りは肩がぶつかりそうになるほどの密度になります。
混雑を差し引いても、小さな子連れだとそうあちこちは歩き回れません。
観光スポットは午前と午後に1箇所ずつに絞り、体力次第でその周辺に足を延ばすことになります。

候補になるのは、いずれも四条通りからそう離れていないお店。
祇園の定番「壹錢洋食」(予約可)に鍵善良房の名物「くずきり」(予約不可)、だしのきいたカレーうどんが美味しい「京都祇園 おかる」(予約不可)、「ぎおん石」の2階には昭和レトロを楽しめる喫茶室、3階には蕎麦屋もあります(各予約可)。
ちなみに、八坂神社参拝ついでに「厄除ぜんざい」が食べられる「喫茶栴檀」は、コロナ禍を機にお店を閉められてしまったようで残念です。

まだ紅葉シーズン手前だったので、混み具合もまだましでした。
10月の子連れ京都観光、おすすめです。
「漢字ミュージアム」等のレポートはまた後日。

子供たちからは「亀石を渡りたい」とのリクエスト。
出町柳の三角州で遊びたいようです。次回はその周辺でプランを考えるね。

様々な家族が巣立ち、帰る「旧大野木家住宅」

10月2

geihin山科にある国の登録有形文化財「京都洛東迎賓館旧大野木家住宅)」が9月末で閉館しました。

山科の出身で、サンフランシスコ講和条約の全権委員代理や吉田茂内閣での国務大臣を務めた大野木秀次郎によって昭和初期建てられ、国内外の賓客をもてなした迎賓館として、当時の職人技を尽くして造られた屋敷には、書や掛け軸等の文化財がそのまま展示されていました。
吉田茂の手紙や堂本印象の掛け軸など、調度の詳細は公式サイト内のPDFにご紹介されています。

1000坪もの敷地には建物を挟んで、池泉回遊式の日本庭園と芝生の二つの庭園があり、和装ウェディングにも洋装のガーデンパーティーにも対応したレストラン兼一日一組限定の結婚式場として21年間営業してこられたそうです。

コロナ禍でウェディング需要は減っても、時代と共に少子化が進んでも、庭の手入れを怠るわけにはいかなかったことでしょう。
応援の気持ちで来店して以来、名残を惜しむべく、家族で食事に行きました。

両側に庭園の緑を眺めながら、京都由来の素材を活かし和だしをきかせた創作コース料理を楽しんでいるのは、おそらくここで挙式をしたと思われる夫婦連れや、同窓会のグループ。
食事の後には思い出に浸りながら庭を散策し、初めて会った子供たち同士で植栽豊かな庭を駆け回ったりと、和やかな時間が変わらず流れていました。

これらの建物のその後は未定だそうですが、保存を条件にいずれは次のオーナーに受け継がれるとのことです。
どうか、貴重な空間が失われたり改悪されることなく、良い方向で残ってくれることを願います。

こちらの画像は、後日Facebookにも共有しますね。

二条城 蘇った本丸御殿の清々しさ

9月4

honmaru 世界遺産・二条城本丸御殿がこの9月1日より事前予約制で観覧できることになりました。
平成7年の阪神・淡路大震災により建物に歪みが生じ、平成29年から耐震補強工事と障壁画の修理が進められていたので、ようやくの拝観再開ですね。

撮影は不可となっており、各自ロッカーに荷物を預けて待合に入ります。
本丸御殿についての8分間の美しいビデオが見ものです。
その後、銘々に順路を巡りながら見学していくのですが、歩く度に新しいい草の香りが足元から立ち上ってきました。

現在の本丸御殿はかつて京都御所の北にあった桂宮家の御殿が前身で、明治17(1884)年に二条城が皇室の離宮となって以後に移築され、明治天皇の行幸や、皇太子時代の大正天皇、昭和天皇も宿泊所として使用されました。

新しく整えられたところは唐紙が角度を変えて淡い光を放ち、従来の貴重な建材も再びその歴史の厚みを支えています。
豪華で美しい城や離宮は世界各地にもありますが、日本建築はそのシンプルさゆえに清潔感が清浄な空気感を纏わせているような気がします。
無地の襖も多くみられたので、いつかは現代の作家が次の100年を彩る作品で埋めることもあるかもしれませんね。

今のところ解説のガイド要員は置かれていないので、パンフレットを手に見学することになりますが、今後は修理に関わる職人の技などの舞台裏の話題が聞けるような、公式ガイドツアーが追加されることに期待したいですね。

拝観の所要時間の目安は30分程です。
入城してから本丸御殿に辿り着くまで徒歩15~20分程度かかるのでご注意を。
本丸御殿に早めに着いても、周辺には明治天皇が詳細に指示して作らせたという庭園を巡ったり天守閣跡に登ったり、清流園を臨む和樂庵でアイスコーヒーやかき氷を楽しんだりして待つのも楽しいですよ。

入城料もネットで事前購入しておくのがスムーズに入れておすすめです。

「京都の定番」をおさらい

8月28

100 今、五木寛之著『百寺巡礼 第三巻 京都Ⅰ』を読んでいるところです。
これは2003年に発刊された有名な書籍で、京都編の前半にあたりますが、紹介している寺院は金閣寺銀閣寺清水寺東寺など、いわゆる「京都観光の定番」とも言われるところばかり。

それらの「有名寺院」を自分が知り尽くしたとは思っていませんが、余りに有名、余りに人気があり過ぎて、かえって足が遠のいてしまう時があります。けれど、国内外からやってくる人々が目指すのはやはりこういう場所。
ガイドブックとは異なる表現に触れてみたくて手に取りました。

休筆中に五年余り京都の聖護院に暮らしたものの寺社を拝観することなく、二十年程経って京都の寺々を巡ったという作家・五木寛之氏。
様々な作家の言葉も引用し、龍谷大学で学んだ経験や自らの人生観も織り交ぜながら、それぞれの寺院についての考察を深めています。

令和の今や動画投稿サイトで実況を観て拝観の疑似体験することもできますが、こちらは、まるで共に歩いているように想像を膨らませながら読み進める楽しみがあります。
その臨場感ある描写と取材力を前に、時折自分の物書きとしての語彙力の無さも恥じながら、ひと寺ごとに新たな発見をさせてもらっています。

これらの「有名寺院」を一括りにせず、もっと踏み込み問いかけるような話題として来訪者に提供できるよう、この本を手もとに置いておきたくなりました。

送り火を観た子供の感想

8月19

okuribi 夏バテか、今年の送り火は自宅でテレビ中継を観ました。

五山の送り火は何度も家族で観に行っていますが、テレビ画面で大きく拡大して眺めたのは子供達にとって初めての事でした。

「きれーい」という歓声は想定内でしたが、小学1年生の息子には
「かわいい~」のだそうです。

気がつくと、隣で紙切れにたくさんの炎の点々を熱心に打っていました。
「ぼくは鳥居が1番好き」。
「みょうほうって漢字はどう書くの?」
「書き順はこんな感じかな~これで分かる?」
まだ難しい漢字の書き順を書いてみせると、夢中になって写していました。
SNSに流れて来る送り火へのコメントは
「宗教行事やから大文字“焼き”やない」
「京都人でも子供の頃は“大文字焼き”って言ってたけどなあ」
「手を合わさず一斉に携帯のカメラを向けて送り火を撮ってばかり」
「故人の初盆なので静かに見送りたいのに、点火に拍手喝采が湧いて悲しくなった」
「大雨でも台風でも強風でもいつも通りの点火に労をねぎらっているのでは」
と様々な意見が騒がしく飛び交っていました。

自身も、昔は「複数観える場所はどこか」「静かな穴場はどこか」に興味があり、正直今でもそれは変わりませんが、明るみにすることで地元の風情が壊されてしまう懸念もあり、ご紹介が難しいところです。

誰かを亡くし見送る経験の数や自身の心身面によって、捉え方は様々なのでしょう。
まだ誰かの死に直面したことも無く、宗教の概念も殆ど無い子供が、送り火を「かわいい」「準備が大変やな」と表現し一生懸命に書き写そうとする横顔が新鮮に映りました。

「夏休みの今頃はね、お盆って言って、亡くなった人達がおうちに戻って来るねん。で、送り火を目印にして、“天国への帰り道はこっちだよ”って教えてバイバイするの。“また来年ね~”ってね」

果たしてどれくらい理解してくれたか分かりませんが、
「ぼく、来年は観に行きたい!」
と笑顔を返してくれました。

2024年8月19日 | お寺, 歴史, 神社 | No Comments »
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