背伸びして「ほんもの」に触れる
色とりどりの紅葉が風に吹かれてひとつにまとまった風情を写しとった干菓子『吹き寄せ』。
様々な菓子屋で見かけますが、亀屋伊織さんのそれは憧れでした。
意匠の美しさだけでなく、生砂糖、打ち物、片栗、有平、州浜など様々な素材と製法で表現したところが和菓子の極みと言えます。
400年も干菓子一筋の老舗であり、店内にはショーケースもありません。予約して伺います。
良い意味で、客側の品格も問われるような風格に、心地よく背筋が伸びました。
上菓子に見合うそれなりの器でなくては、と思っていた矢先に朗報が。
祇園・古門前にあるビルの細い階段を上り、予約していた『骨董 水妖』の中へ。
店主の古美術愛に溢れたSNSを楽しく拝見しているうちに、セール情報が流れて来たのです。
千家十職のひとつ、飛来一閑。しかも十一代という約200年前の四方盆が骨董素人の自分にも手の届くお値段に!
びっくりするほど軽く、シンプルなので何を載せても添ってくれそうです。
「使ううちに傷が入ったとしても、塗り直せばいいのよ。気軽に使える最高級品なの」
立礼でお茶とお菓子のおもてなしを受け、その菓子皿も手の平に収まる茶器も素敵なものばかり。
まだ10月の爽やかな風が入ってくる店内には店主が愛してやまない池大雅の軸がかかり、話に花が咲きました。
オンラインショップでポイ活しながら何でもすぐに手に入る有難い世の中ですが、自身の仕事に対する愛が感じられるお店でお買い物するのはお値段以上の充足感があります。
さて、先月の野点で色鮮やかな吹き寄せを盛る前の四方盆を、お客のお茶人さんは手に取ってすぐ、はっとしたように裏を返し、「飛」の文字を確認されたのでした。
さすが、日々茶道具に触れている人には違いが分かるのかと感じ入った瞬間です。
勿体無くて食べ切らなかった分は丁寧に懐紙で包み、翌日のお稽古に出して野点の思い出話を皆さんと共有されたそうです。
黒い四方盆に映える栗、楓、銀杏、松葉、松ぼっくり、きのこ。自宅でも子供達が目を輝かせていました。
季節の移ろいを楽しむ。子供達にも何か伝わるものがあることを願います。