アーティストの遊び心
木の端が染まり始めた嵐山へ。
中之島の砂利を踏みしめた瞬間、眼前にパッチワークの様な紅葉の嵐山と青空が広がる景色はいつ来ても壮観で、気持ちまで晴れ渡ります。
ゆったりと船が行き交うのどかな桂川を西に進み先の石段を登ると、「嵐山 祐斎亭」に辿り着きます。
元は料理旅館だった150年明治期の建造物を、染色作家の奥田祐斎さんが染色アートギャラリーとして予約制で一般開放しています。
文豪・川端康成が「山の音」を執筆したとされる部屋で、お薄とお菓子を頂くことができるほか、錦秋を切り取るモダンな丸窓の部屋はインスタグラム上でも話題に。
祐斎さんは、天皇の第一礼服である黄櫨染を広隆寺にて調査・研究し、再現に成功され、そこから独自の染色技法「夢こうろ染」を創出されています。
不動明王の後ろに燃え盛る炎(漫画『北斗の拳』の作者・原哲夫氏とのコラボレーション)や、前に据えた水指に流れ落ちるような滝を描いたタペストリーなど、巧みな刷毛遣いで対象のオーラを写し取るような作風です。
最近新設されたという「水鏡」がナイスアイデア。
写真家のアドバイスを受けて色とりどりの木々の前に水盤を置き、アトリエのものと思われる筆やスポイトで自由に水面に模様を描きながら、写り込む景色を楽しめるようになっているのです。
景色が「映える」だけでなく、アーティストならではの遊び心や、各所に置かれた膝掛けなど、一見の客でも気張らず楽しめるよう小さなおもてなしが随所に感じられる心地よい空間でした。
ずっと前からここの存在を知っていたのに、なぜ今まで来なかったんだろうと思わずにはいられません。
「THE 京都の観光地」の印象が強い土地ですが、かつては宇治と並んで「平安貴族の別荘地」だったことを思い出させてくれました。
賑わいが戻りつつあります。
行くなら、今。