e-kyoto「一言コラム」

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「リアル」に迫る意味とは

5月29

yoshimura

2日まで開催中の『吉村芳生 超絶技巧を超えて』展は、ぜひ、間近で実物を観て頂きたい展覧会です。
風景や革靴など、題材とする写真を小さな升目に分解し、升ごとに色の階調をつけて塗り潰す様に描き写すという、気が遠くなるような手法です。
1年間毎日描き続けた365枚の自画像や、新聞の紙面を1文字に至るまで全て書き写した上に自画像を重ねたものなど、来館者が「何やってるの、この人…。」と思わず漏らしていましたが、ごもっともです。

展覧会フライヤーのトップ画像にも採用されている藤の題名は『無数の輝く命に捧ぐ』。東日本大震災が起こった年に生まれた作品です。
無心になって鉛筆を動かしているその境地は、写経に似た感覚があるような気がします。
この一見機械的にも見える単調で緻密な技法ですが、吉村氏は「機械が人間から奪った人間の感覚を取り戻す」と語っています。
こちらの作品は、未完成のままの絶筆の作品とは異なり、下書きのような藤の線がうっすら端に向かって白い背景の中に消えていくのが気になりました。

街並みや新聞紙、草花等どの題材も、ごくありふれたものばかり。一つ一つの線や色の重なりの繰り返しによって構成されているのは、私達生物やその営みも同じです。
もしかすると、その事をより強く意識するようになったのは、モノトーンの作風から脱し、180色の色鉛筆を手に花々を描くようになってからなのではないか、と勝手に考えています。
決して描く対象物そのものになる事は無いけれど、極限まで対象物にリアルに近づく事の意味とは何なのでしょうか。

2019年5月29日 | 芸能・アート

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